現在、放送中のアニメ『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』では、人語を喋るオートバイが主人公「キノ」の相棒を務めています。
また同様に言葉を話すユニークな原チャリや浮遊戦車、同じく人間と会話する犬などが重要な役割を担って登場しますが、特に本記事では「キノ」の愛車であるオートバイ「エルメス」のモデルとされる『ブラフ・シューペリア SS100』を中心に解説し、また他の“人語を喋る物・者たち”についても簡単に触れることにしようと思います‥。
それにしても原作者が、作中に登場させる武器や乗物といった機械・道具類のモデル選びのセンスは“抜群”と言って差し支えないと思いますが、皆さん如何でしょうか!?
●『キノの旅』について
『キノの旅 -the Beautiful World-』は、2000年より電撃文庫から刊行されている時雨沢恵一氏のライトノベルで、アニメやゲームその他などにメディア・ミックス展開が行われているコンテンツです。2003年に既にアニメ化されていますが、本年(2017年)10月より新シリーズのアニメが放送中です。
物語の内容は、旅人の少年「キノ(Kino)」(実は10代半ばの少女で、頭の回転が速く華奢な体ながら運動神経は抜群で射撃の名手。基本的には義理堅く約束等は守ろうとしますが、意外に現実的でもあり必要とあらば非情な手段もいとわない性格の持ち主)が相棒のモトラド(二輪車で空中を飛べないタイプ)の「エルメス」(少年の様な口調で喋り、本来が機械故にか科学知識が豊富です。その性格は軽妙で人懐っこいのですが、ドライでKYな体質により時として空気を読めない発言をして「キノ」にたしなめられることがあります)を駆って旅をしながら不思議な国々(国といっても城壁で囲まれた都市国家の様なもの)を巡るというもので、1話完結型の短編ファンタジー集となっています。「キノ」と「エルメス」の組み合わせ以外にも、「シズ」と「陸」や「師匠」と「相棒」が主人公となっている回もあり、更にその他が主人公の篇も稀にあります。
また「キノ」らが訪れる国々は独自の制度や特殊な技術を持ち、その国ならではの独特の(非常識で不合理だったり不法な)価値観を有している場合が多く、主人公たちは毎話、訪問した国やそこの国民らと関わる中で驚いたり悩んだり敢えて傍観したり、場合によっては苦闘の末に国の体制や国民の考え方を改めさせたりもします(もちろん、結果的にただ単にスルーするだけの場合が多い)。
こうした展開から、この作品は『イソップ物語』や『グリム童話』の様な大人の寓話的の要素を持ち、『ガリヴァー旅行記』などの風刺旅行記の体裁も有していて、ライトノベル界における“寓話的異世界物語の先駆け”という評価もあるのです。ちなみに作者は、松本零士氏の『銀河鉄道999』から影響を受けたと語っています(なるほどと納得)。
●「エルメス」のモデル『ブラフ・シューペリア』とは
さて「キノ」の相棒で愛車の「エルメス」(名前の由来はギリシャ神話からとられたとの設定)のモデルは、『ブラフ・シューペリア(Brough Superior motorcycles)SS100』というオートバイの名車です(アニメ版では実際のエンジン音が使用されているそうです)。
このオートバイを製作したのは、かつて英国に存在したオートバイメーカーで1919年にジョージ・ブラフ(George Brough )が創業しました。顧客のニーズに応えて完全ハンドメイドにより製作、徹底的にカスタムメイドを行った為に同じ製品は2つと無いと言われました。
数ある車種の中でも特に有名な SS100(スーパースポーツ)は、J.A.P.またはマチレス製1,000ccのサイドバルブ空冷V型2気筒エンジンもしくは空冷4ストローク OHV-V型2気筒エンジンを搭載し、1924年から1940年にかけて383台が生産されました。
また世界最速を競う速度記録でもブラフ・シューペリアのオートバイたちは活躍し、1924年や1929年、そして1937年にも世界最速車の座に輝いています。また『アラビアのロレンス』こと英国の軍人トーマス・エドワード・ロレンス(Thomas Edward Lawrence)の愛車(通算で7台のブラフ・シューペリアを乗り継いだ)としても有名で、しかもロレンスは「ジョージⅦ(GW2275)」と名付けたブラフ・シューペリア SS100 に乗車中の事故(1935年5月)が原因で亡くなりました。
ブラフ・シューペリアの製品は、その高級感と品質・性能の高さから、また大変高価であったことからも“オートバイのロールスロイス”と称されましたが、1940年を最後にオートバイ生産からは撤退、戦中は軍用機のエンジン部品などを生産していました。その後は自社製品のレストア事業などを続けていましたが、第二次世界大戦後の不況のあおりを受けて1950年代半ばには倒産、会社は閉鎖されました。尚、オートバイに関しては21年間の製造期間において、19モデルで3,048台の生産実績となっています。そして現在でも保存されリペア/レストアされた同ブランドの製品は、世界中に熱心なファンを持つ極めて格別なバイクとして高く評価されているのです(オークション等では2千万~5千万円にものぼる高額で取引されています)。
近年では、英国人のエンスージアストであり実業家でもあるマーク・アパム(Mark Upham)氏が、オーストリアを拠点にヴィンテージバイクとそのパーツを扱う『British Only Austria』を主宰して2008年にブラフ・シューペリアの商標権を獲得、そのレプリカの開発事業を始めてSS100等の復刻を目指して活動を始めました。この新生ブラフでは、オリジナルに忠実なレプリカのSS100、その新車版であるSS101、更に最新の技術を取り入れた現代版のSS100の3種類を既に発表、2014年以降には現代版SS100の生産を開始(年間20台程度)したと報じられています。
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