【三日月ネコの日々是好日記】 実はこれも変だぞ、夫からみた女性配偶者の呼び方!! 〈1647JKI56〉

以前の【三日月ネコの日々是好日記】 で指摘して反響のあった「私」と「僕(ボク)」の差異(発言や使用場面に関する誤り)と同様に、公的な行事やイベントでの会話、テレビ番組等での出演者などの言葉でよく見かける“夫からみた自分の女性配偶者の呼称”についての間違いを、今回は取り上げてみたいと思います。

【三日月ネコの日々是好日記】 最近、気付いた変な事。公の場での「ボク」発言!!‥‥はこちらから

 

皆さんは、自らの女性配偶者を何と呼んでいますか? 最も一般的なものは「妻」だと思います。次いで多いのが「嫁」とか「家内」、そして「奥さん」や「上(かみ)さん」、「女房」などと言う人もいます。稀に「細君」とかいった表現もみかけますが‥‥。

しかし実は、「夫」が自身の女性配偶者を指す言葉としては「妻」と「細君」(条件付き)だけが正しく、「上(かみ)さん」や「女房」は微妙なレベル、その他はほぼ誤りなのです。

 

●「妻」は、男性に対する女性の配偶者のこと。夫婦の内、女性の方を意味する言葉です。元来、「つま」は男女に限らず配偶者を指し、「夫」と書いて「つま」とも呼ばれました。正確には、婚姻制度がなかった昔においては、親に認められていて共に生活している女性という意味だったとされます。やがて男性から女性の配偶者を指す言葉となっていきました。

●「嫁」は、息子の「妻」のこと。即ち、本来は「夫」本人が使うべきではなく「夫」の両親などが使用する言葉なのです。そして「嫁」の語源は、「良女(よきめ)」や「吉女(よめ)」等の意味から派生したとする説が有力。更に息子の「妻」として迎えることから「呼女(よびめ)」と呼んだとか、姑にたいして弱い立場であったことから「弱女(よはめ)」の意味があったとする説などがあります。

●「家内」とは本来、「家の中」という意味で、人を指す言葉ではなかったとされます。また家の主人である「夫」の女性配偶者を指すというよりも、家族全員であるとか奉公人や使用人も含めた「家中」に近い表現の場合もありました。明治期以降から終戦後暫くにかけての「男は外に出て働き、女は家を守るもの」という社会的風潮の影響で、家を守って中にいる人が「妻」であり、それをやがて「家内」と呼ぶ様になったとの説が有力ですが、かつては「家の中」で家事を担当している一段地位の低い者という意味が込められており、謙る意味込めて配偶者を他者に紹介する時に使われました。

●「奥さん」は「奥様」のくだけた言い方で、これも正しくは他人の「妻」を敬って言う言葉。「奥方」とも。つまり「夫」が自分の「妻」を指して使うのは誤りです。またこの場合の「奥」の原義は、建物の入り口から遠く離れた(奥の方の)場所や部屋を指し、転じてそこに住まう人、特にその家の主人の「妻」である女性を意味することになりました。当初の高貴な公家や武家の大名などの「妻」の敬称から、やがては広く武士や裕福な商人などの「妻」を指し示す言葉となります。更に、既婚者と見える女性に対して取り敢えず使用する用例もあったり、大変意外なことに、以前は男女差別・女性蔑視にあたる言葉であるとして注意して使われたことも。

●「上(かみ)さん」とは、本来「上様(かみさま、うえさま)」から派生し、これは目上の人のことを指す敬称で、特に江戸時代、徳川将軍を「上様(うえさま)」と呼んで敬いましたが、そこから転じて頭の上がらない「妻」の存在(嬶天下)のことを、「上様(かみさま)」とか「御上さん(おかみさん)」と言ったのが由来と言われています。心底から「妻」を敬う気持ちがあれば別ですが、そうではない場合は一種の自虐ネタ? であることを意識して使用すべき言葉かも(笑)。また「御上(おかみ)さん」は、殊に商家や職人の「妻」やその家の女主人のことを表わす場合にも使われる用語で、江戸時代などの上方では隠居した良家の老女を敬って呼ぶ時にも使われました。ちなみに現代でも、領収証の宛名などに「上様(うえさま)」はよく使われますよね。

●「女房」の場合は、歴史上、自分の「妻」を遠回しに表わす時にも使用されてきましたが、本来は個室を与えられた高位の女官や上級の侍女の居室(”房”は部屋の意)のことで、転じて彼女ら自体を表わす表現となりました。「妻」の意味合いが含まれている用法でも、必ずしも自分の女性配偶者を直接的に指す言葉ではなかったとされ、また敢えて使われた場合でも、少なくとも「正妻」/「正室」ではない「妻」を表わしていると考えられています(諸説あり)。但し、過去の史料において(「妻」を示す)実例の存在があるが故に、現代においての使用が必ずしも間違いとは言い切れませんが、逆に100%正しい使い方とも判断出来きません。またこの語の使用に関しては、対象者(「女房」)が本来は雇い人や使用人であることを前提としてるので、対等の関係性を否定した形に受け止められかねないことに留意が必要かも知れません。

●「細君」とは、(親しい)他人に対して自分の女性配偶者を謙遜して表現する言葉。もしくは同輩以下の者の「妻」を指して使用します。この場合の「細」は「つまらないもの」という意味で、他人に対して自分の「妻」を謙って示す語。現代では、他人の「妻」にも使用される様だが、目上の人物の「妻」に対して使用するのは失礼であり、誤った使い方となります。関連して「愚妻」などと、より直接的謙る表現(否、間接的自慢とも云える)もあります。

 

自分の配偶者のことを何と呼ぼうと、親しい間柄では気にする必要はないのかも知れませんが、やはり公の場では何と言って良いのやら、少しばかり気になるところではあります。「妻」という言葉には特に尊敬も謙る意味も無いので、「夫」が自分の配偶者に対して使用する際に最も適した言葉ですが、使う場面によっては少々堅苦しく、照れくさくもあります。

さりとて、“ウチの細君が‥などと話すのは大いに違和感・抵抗があり、結局のところ「妻」以外で万能の言葉が見当たりません。私は以前は「家内」という表現を使用していましたが、その本当の意味を知ると使い難くもあり、普段の会話ではそれほど気にすることもありませんが、オフィシャルなイベントでの使い方に関しては当面は「妻」しか思い当たりませんね。

しかし本稿で正しくはないとした用法も、その本来の意味を知った上でTPOを考慮して使うのならば(聞き手の側に敢えて感? が伝われば)特に問題はないとも云えます。あくまでも、無知な誤用と意図的な使用は別物と考えるべきでしょう。そして言葉とは、スムーズなコミュニケーションを図る為の大事な道具であることを知り、使い方の基本を理解した上で柔軟な応用を心掛けたいものです。

-終-

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