【モンスターSLを追え!!】 第2回 C&Oのアレゲニー 〈17JKI00〉

シリーズ化の予定が途絶えていた鉄道関連記事【モンスターSLを追え!!】の第2回目として、世界最大級の蒸気機関車とされた米国チェサピーク&オハイオ鉄道(C&O)のH-8型“アレゲニー”を紹介する。

『55トン積み石炭ホッパー車140輛編成を単機で、且つ高速で牽引出来る大型蒸機』というC&O鉄道からの高度な要求にライマ(Lima)社が兆戦した結果、みごと完成させた傑作蒸気機関車がこの“アレゲニー”である。長大な運炭列車を牽引して、その名の由来となったアレゲニー山地(アパラチア山脈の一部で総延長400マイルほどの山々)の急勾配を越えていく姿がまさしく雄々しい、米国東部の鉄道を代表した蒸気機関車の掉尾を飾るに相応しい巨人機であった。

 

巨大な連接式蒸気機関車に関しては、ほぼ米国の独占と言っても過言ではない。アフリカの一部の国やオーストラリアなどに見られるガーラット式の同様のタイプも大きくは見えるが、米国で発達した同類にはその大きさで到底及ばないのだ。1万トン以上の貨物列車を単機で牽引可能な性能を有した米国の連接式蒸気機関車たちは、最大でもせいぜい1,500トン程度の牽引力であった日本の蒸気機関車と比較すると想像を絶しており、その実態を知らない我国の鉄道ファン等にはかつて米国に生息していたモンスターSLたちの真の姿は理解されていない様だ。

C&O “アレゲニー” 1625号機

そのモンスターSLたちの中でも、代表格として有名なものが、本稿で紹介するチェサピーク&オハイオ鉄道(Chesapeak and Ohio/C&O)のH-8型“アレゲニー(Allegheny)”(以下、H-8クラス)である。軸配置は2-6-6-6(この軸配置の蒸気機関車を本機に因んで“アレゲニー”と呼ぶ)で、前後二組の主台枠にシリンダーと走行装置を持ち、我国では前方の主台枠が首を振る複式マレー式)と誤解されていることが多いが、“アレゲニー”の場合は正しくは単式の連接式蒸気機関車(Simple Articulated)である。

 

ところで複式(マレー式)とは、後部の高圧用シリンダーで先に使用した蒸気を低圧用の前部シリンダーで再利用する形式を指し、これに対し単式は合計4箇所のシリンダーに同時に等圧の蒸気を送り込むタイプであり、給気の手順が全く異なるのだ。またその為、外見上もシリンダーの太さ・径が複式は前部が大きく後部が小さくなっているが、単式は全ての大きさが同じである。また、単式の優位性としては高速運転の持続能力の高さが挙げられ、長大な貨物列車を曳いて長時間・長距離の運行が可能であった。

さて、このH-8クラスを導入したC&O鉄道は、ウエスト・ヴァージニア州で産する石炭を、東の有力港湾都市ニューポート・ニューズや西に位置するシカゴ方面などへ輸送する目的で開設された鉄道であったが、東行き運炭列車がアパラチア山脈(アレゲニー山地)を越える為には超強力な機関車が必要であった。

その為にSL製造メーカーのライマ(Lima)社がC&O鉄道に提案した機種が、このH-8クラス“アレゲニー”であったのだ。5.8パーミル(パーミルとは千分率のことで、鉄道用語では勾配の程度を表す単位。例えば10パーミルとは水平距離1,000mに対して10mの垂直距離を登る勾配のこと)の勾配が13マイルも続くアレゲニー山地の峠越え路線を走り抜けて、太西洋岸の港町との間を経済的にピストン輸送する為に開発された本クラスには、100輛以上の石炭運搬用貨車が牽引可能な超強力のエンジンパワー(H-8クラスの出力は7,500馬力/時速40マイルあたり)を得る為の大量の蒸気供給が必要であり、広大な火室を備えた巨大なボイラーを有することになった。

更に、この長大な機関車が山間のカーブ区間を容易に通過出来る様にする為の工夫として、機関車の動輪群を支えるフレーム(台枠)を二つに分割して互いに上下左右に結合の自由度を持った連結(関節)型の構造が採用され、結果として2台の蒸気機関車を1台にまとめた様なパワフルこの上ない単式連接型の蒸気機関車(Simple Articulated)となった。

その巨体は爆発的な牽引力を引き出す為に、先ず一軸の先導輪に続いて三つの動輪を持ったC型の動輪群が「ヒンジ(蝶番)」構造で連結された形で2組続き、その後に独特の広大な火室を支える為の3軸従台車が備わっていた。そして本体の後部に連結されたテンダー(炭水車)に関しては、前部が3軸で後部が4軸というバッカイ(Buckeye)タイプの台車の装着が際立っていた。また米国型の大型SLに多い姿形として、ボイラーが極めて太くなった為にエアーコンプレッサーがその側面に設置出来ずに煙室扉正面上に設けられていて、それ故に厳めしく頑固な面構えをしている点が特徴となっている。

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