ステルス戦闘機 F-35Bとは
F-35B(Lightning II)戦闘機とは、米国の航空機メーカーであるロッキード・マーティン社が中心となって開発・製造している単発・単座の多用途性を備えた最新鋭の戦闘機 F-35シリーズの短距離離陸・垂直着陸(STOVL)が可能なバージョン(B型)のことだ。
そしてこの F-35シリーズ(“統合打撃戦闘機/Joint Strike Fighter”の略称“JSF”と呼ばれる事もある)の開発計画は、第5世代ジェット戦闘機に分類されるステルス機として、ほぼ同一の機体構造から基本型の通常離着陸(CTOL)機であるF-35A、短距離離陸(STOL)と垂直着陸(VTOL)の機能を併せ持つ STOVL機の F-35B、通常艦載機(CV)型の F-35Cという三種類の派生タイプを生産が可能なマルチロール機化を目的とした野心的なものであったが、現在のところ、比較的小型の機体で多用途任務とステルス能力の付加に加えて、基本設計が同一の機体から CTOLと VTOLの両タイプを造り分けるという前例の無い成果を達成している。また同機は、世界初の実用化された超音速VTOL戦闘機でもある。
ちなみにステルス性とは、レーダー等のセンサーに感知・捕捉されにくい高度な機体秘匿性のことで、正式な軍事用語としては低観測性 (low observable)と云う。
F-35シリーズは採用予定国も多数に上り、米軍(空軍・海軍・海兵隊)以外にも英空軍・海軍、オーストラリア空軍、トルコ空軍、ノルウェー空軍、そして航空自衛隊などが採用を決定していて、更に現在、F-16などの旧世代戦闘機を使用している国々でも採用される可能性が高いことから、最終的な累計製造数は5,000機以上になるとも予測されている。また尚、運用期間については、2070年までの現役稼働が想定されている。
但し、開発の遅延や当初予定よりの大幅なコスト高などの課題も抱えており、2014年3月時点での開発総額は既に3,912億ドル(40兆円)に達すると判明している。今後も導入予定国にとっては、このコスト増が大きな問題となろう。
更に同シリーズは、かつてのF-104と同じく“最後の有人戦闘機”と呼ばれることがあるが、これは地対空ミサイル等の進化・発達によるのではなく、無人戦闘機などの開発とその普及によるとされている。
さて、今回の報道で取り上げられたB型は、航空自衛隊が導入する基本型の通常離着陸(CTOL)機であるA型の派生版で、米海兵隊に配備されているものと原則的には同型の高性能レーダーや多種多様なセンサー類、そして高速なデータ通信機能を持つ機種となるが、同海兵隊はAV-8B ハリアーIIの後継機として使用する為の短距離離陸(STOL)・垂直着陸(VTOL)が可能な戦闘機として同型の導入を決定した。2008年7月11日に初飛行し、2015年7月31日に初期作戦能力を獲得したが、これは2015年12月とされていた期限を前倒しで達成している。
通常の艦載機(CV)型(F-35ではC型)ではないが艦上での運用を前提とした設計が為されており、一般の航空母艦(空母)よりも飛行甲板が狭い小型空母や強襲揚陸艦タイプの飛行甲板を持つ艦艇での艦載運用などに資する構造・機能・性能を持ち、短距離離陸(STOL)が出来る。
更に一定の条件(搭載兵器を撃ち尽くしたり、燃料を消費して機体が軽くなった状態)下ではオスプレイのように垂直着陸(VTOL)も可能とされていて、STOVL機とも呼ばれている。
エンジン後方にある排気ノズルを折り曲げて下方に向けることができ、その際には機体後方下部に装備された二枚扉を開けて行う。但し、降着装置はA型と共通であるため、ハリアーIIには出来なかったCTOL運用も可能である。
しかし上記の様な F-35Bの複雑な構造は整備性を低下させており、またそれらの装置の容積と重量増加により燃料搭載量や武装の削減が生じた。即ち、B型の航続距離はA型やC型に比べて約2/3〜3/4と短くなっており、同様の理由で兵装搭載量も20%ほど低下している。
また今回の報道にある護衛艦『いずも』の改造による艦艇での艦載運用以外に、防衛省はこの F-35Bの導入で宮古島・石垣島、そして与那国島の他、南・北大東島の(滑走路の短い)各空港においても航空自衛隊の戦闘機による警戒監視活動に使用でき、哨戒活動や空域守備の範囲が拡大するとしている。
この改修は、あくまで“護衛艦”と称しても、飛行甲板の強化やF-35B戦闘機の搭載を実現すれば中国などアジア各国から軍事的には“空母”と位置付けられて強い反発を招くことが予想され、「自衛のための必要最小限度を超えるため攻撃型空母を保有することは許されない(原文ママ)」としてきた従来の政府見解との整合性が問題になる。
だが日本政府は、この『いずも』型改修の動きに関しては、“攻撃型空母”は保有できないとする政府見解は維持し、離島防衛用の補給拠点など防御目的限定の艦艇として活用すると云う。そして米国製のF-35B戦闘機の運用で、日米連携を強調・強化することで北朝鮮や中国の脅威に備える狙いがあるとしているのだ‥‥。
-終-
【参考】F-35Bを『いずも』型軽空母に搭載するメリットについて、文谷数重氏が月刊雑誌『軍事研究』2017年12月号において「中国の正規空母を凌駕する軽空母化した『いずも』の為に、空自F-35Aの内20~40機を35Bに置き換えよ!」として、“中国正規空母を凌駕するステルス搭載軽空母 海自「いずも」型空母と「F‐35B」”と題した記事で詳述している。
他の連載記事は こちらから ⇒ “「空母」を考える ”シリーズ
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