【ミステリのトリック】《法律篇》 海外逃亡と時効延長 〈89JKI35〉

ミステリ作品によく登場する犯罪トリックに使われるネタ話についての記事、第2回目はこれも頻繁に登場する『海外逃亡と時効延長』について触れよう‥。

 

現実の我国の刑事訴訟法では、犯人が国外にいる場合は時効はその国外にいる期間はその進行を停止する、となっている。

また刑事訴訟法第254条第1項により、当該事件について行われた公訴の提起によって時効の進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始めるとし、更に同条第2項により共犯の一人に対して行われた公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有し、この場合において停止した時効は、当該事件についての裁判が確定した時からその進行が開始される、とされている。

そして刑事訴訟法第255条第1項により、当該事件の犯人が国外にいる場合、その国外にいる期間は時効の進行が停止するとなっており、また犯人が逃げ隠れている為に有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつた場合には、その逃げ隠れている期間は時効の進行を停止すると規定している。

従来、短期の海外滞在には時効停止規定を適用しないと解釈する学説が有力であったが、最高裁の平成21年(2009年)10月20日の判決で「犯人が国外にいる間は、それが一時的な海外渡航による場合であっても公訴時効はその進行を停止する」とされ、10日程度の海外旅行でも時効は停止すると判断された。

 

さて、この法的なネタをベースとしたミステリ小説(&それを原作とした刑事ドラマ)では、何と云っても横山秀夫の『第三の時効』が有名だが、同作者は謎解きとしての面白さよりも人間ドラマに重点をおいたミステリーを得意としていながらも、時効もの以外にも精緻なプロットや巧妙なトリックの設定が巧みで、他にも秀作ミステリが多い筆者好みの作家である。

尚、『海外逃亡と時効延長』に関しては、ミステリ小説や刑事ドラマなどで多用されており、かつては土壇場で犯人を逮捕する際の必殺技的な使い方をされるのがよく見受けられた。自らの長期の海外旅行や海外在住期間のことを計算に入れていなかった犯人が、時効期間の算出を誤り墓穴を掘ってしまうというパターンがこれだが、しかし最近ではこの法律の存在が広く世間に知られた為か、ありきたりの手法として新味に欠け、読者や視聴者からは陳腐な感じがしてしまう様だ‥‥。

-終-

 

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