ストーリーの概略 第2次世界大戦下の1943年5月、英国のバッシングボーン空軍基地に駐留して対ドイツ爆撃に従事するアメリカ第8空軍の爆撃隊が舞台です。その中で既に24回の爆撃任務を達成しているB-17爆撃機“メンフィス・ベル”号とその若き搭乗員達は、故郷に帰るまであと1回と迫った出撃を前に、それぞれの思いで前夜を過ごしていました‥‥。そして各々のエピソードを通して最後の任務に臨む各自の恐れや不安、そして覚悟といった心情を描きながら、いよいよ翌朝を迎えた“メンフィス・ベル”号と10人の若者達は、暫しの待機を経て目標のブレーメン上空へと朝焼けの雲をついて飛び立って行きます。
この後、物語は任務の途中、小さな出来事の積み重ねを通して搭乗員達の間柄や性格を丹念に描いていきます。前半の飛行場面では、戦闘前ののんびりとした親し気な仲間内の雰囲気が感じられますが、やがて多数のドイツ軍の迎撃戦闘機が来襲、敵機の猛攻を受けて僚機のB-17が次々と撃墜されていきます。
こうした激闘の最中、幾つかのエピソードの中には当人の思いもよらない結果を招いた行動や、編隊を組むB-17搭乗員の過酷な死の様子を目の当たりにしてショックを受けたり、そして極度の恐怖から消極的な行動をとる姿なども描かれています。
その後、指揮官機が失われ、“メンフィス・ベル”号が指揮を執ることになります。高射砲による砲撃で“メンフィス・ビル”号の機体にも穴が開き、燃料が漏れ始めました。何とかブレーメン上空まで辿り着きますが、上空には霧がかかっており目標の工場施設が確認出来ません。しかし機長のデニスは、燃料切れの危険を犯しても旋回して確実に目標を爆撃するとの判断を下します。
再び目標上空に差し掛かったところでやっと霧が晴れて無事爆弾を投下、工業施設を壊滅させます。こうして“メンフィス・ビル”号は任務を完了し、基地へ帰投する為に方向転換しました。
しかしこの後も苦難は続き、無線士が重傷を負ったり、燃えだしたエンジンを消火する為に危険な急降下を行ったりと、次々と困難の連続がクルーたちを襲います。その都度、各々の搭乗員達の隠された事情や、陥った窮地から仲間に助けられて立ち直る姿が描かれていきます。
ようやく、こうした紆余曲折を経た“メンフィス・ベル”号はイギリスの基地飛行場へと近づき、搭乗員達は不安定な着陸に備えて機銃や余分な部品を機外へ捨てます。基地まであと少しというところで、片方の車輪が故障して出ないことが判明。搭乗員達は危険を顧みず、交代しながら手動で車輪を下ろすのでした。
何とか着陸寸前に車輪が下り、“メンフィス・ベル”号は無事に着陸に成功。難局を切り抜けて帰還した“メンフィス・ベル”号からデニス大尉ら搭乗員達が地上へと降り立ちます。
広報官のデリンジャー中佐が“メンフィス・ベル”号の搭乗員達の集合写真を撮影する中、いつもは真面目なデニス大尉が、ダニーが密かに持ち込んでいたシャンパンを開封してクルー達に浴びせ掛けます。そして“メンフィス・ベル”号の搭乗員達を取り囲んだ基地の兵員や爆撃隊の戦友たちの大歓声を受けながら重傷のダニーが救急車で運ばれて行きますが、筆者には“メンフィス・ベル”号の搭乗員一同がこの救急車に同乗しているかの様に見えました。こうして彼らの最後の任務は無事終了したのです‥‥。
※この映画で搭乗員10名を演じた若手俳優陣は、撮影開始前に合同で(SASのサバイバルトレーニングの様な)過酷で激しい訓練を受けて、連帯感や仲間意識を培ったと云います。
※出演者の中に、ジャズ・シンガーのハリー・コニック Jr.の姿が見えます。劇中では出撃前のパーティ会場で、名曲“ダニー・ボーイ (Danny Boy)”を歌ってくれます。その甘くて深みのある歌声は、まさしく“素敵”を絵に描いたようなパフォーマンスで、後に筆者は『When Harry Met Sally…』や『We are in love』といった彼のCDを購入しました!!
※出撃前の待機中に、仲間にせがまれたアイルランド出身の無線士ダニーが詩の一節を披露します。いつ死んでもおかしくない自分たちの境遇と同様の詩の内容に思いを馳せて、一同がしばし悄然としてしまうこのシーンや、そして作戦決行となった後、デニス機長と副操縦士のルーク中尉が他の搭乗員達と合流し、讃美歌『アメージング・グレイス(Amazing Grace)』を歌いながらジープで愛機の駐機場へ向かう姿が、筆者には特に記憶に残る場面です!!
※劇中では自らのノートに書き記した自作の詩を朗読した様に描かれていますが、実はダニーが朗読する詩はアイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イェーツ(William Butler Yeats)の美しくも哀しい作品『死を予見したアイルランドの飛行士(An Irish Airman Foresees His Death)』の一部分です。ダニーはアイルランド系の出身で、この作品での性格的な位置づけは優しく落ち着いたインテリとして描かれていて、後に瀕死の重傷を負って生死が危ぶまれる事態となりますが、まさにその彼の身の上をこの時点でこの詩はさも暗示しているかの様です。更にこの場面ではバックにジャック・ボッシ軍曹がハモニカで演奏する“ダニー・ボーイ”が流れ、前夜にクレイ軍曹が歌った同曲をも踏まえて、“ダニー”に絡めたシンクロ効果による伏線が見事に描かれていきます。ちなみに、ノヴェライズ小説『メンフィス・ベル(Memphis Belle)』では、仲間に発表出来る自作の詩を思い当たらなかったダニーが、咄嗟にイェーツの詩を暗唱したと書かれています。
この映画は、戦争映画でありながら敵を殺したり倒すこと等に焦点が置かれているのではなく、仲間全員で生きて帰ることに重きを置いた作品であり、その結果、鑑賞後には爽やかな感動と温かい気持ちが残る良作となりました。
また最終的に“メンフィス・ベル”号の搭乗員全てが帰還に成功することから、死と隣り合わせの戦場における悲惨な戦闘の現実が意外にも淡々と綴られているかの様な印象も受けましたが、物語の中では次々と危機的な困難が各クルーに降りかかり、各人がその度に仲間の力を得ながら何とか勇気を振り絞っては数々のトラブルを乗り越えていくことで、やがては彼らが人間として大きく成長する姿が観られる作品なのでした‥‥。
この映画『メンフィス・ベル』は、筆者も劇場公開時に映画館を訪れて鑑賞した想い出の作品です。また、以前より関心のあったフライト・ジャケットやノーズ・アートにより一層興味を抱く切っ掛けとなったのも、この映画だったと記憶しています‥‥。
さて次回は、当面の最終回として映画『フライング・フォートレス』とテレビシリーズの『マイティ・エイス/第8空軍』のご紹介を予定しています。どうぞ、ご期待ください!!
-終-
【参考】第358爆撃飛行隊の“地獄の天使(HELL’S ANGELS)”号(41-24577)は、1943年5月13日に第8空軍で25回の戦闘ミッションを完了した最初のB-17でした。そしてこちらの写真は、同機とその地上整備員たちの姿を写した記念撮影です ⇒
【余談-1】映画『メンフィス・ベル』の劇中で、新参のB-17“マザー&カントリー”号の新人無線士をラスカルやユージーン、ジャックたちが揶揄う場面がありますが、同じ無線士のダニーが優しくフォローしてあげます。しかし映画ではこの新人の階級は曹長であり(ノヴェライズ小説では階級は不明)、ラスカルやユージーンよりも二階級も上位者で、現場の下士官の間柄はこの様にフランクなものなのか? と観ていて少々と戸惑ってしまいます。またこの新人は翌日の出撃中に無線でダニーに助言を求めてくるのですが、可哀想な事に彼の乗る“マザー&カントリー”号には悲惨な末路が待ち受けています‥‥。
【余談-2】クレイグ・ハリマン大佐は手元のDVD版などの資料には“基地司令”と記載されており、ノヴェライズ小説でも同様です。但し、同小説では指揮下の部隊を彼が「わが航空群」と表現している箇所があった上に、ハリマン大佐の他に群司令が見当たらないことから、彼が爆撃航空群の司令なのではと考えたくなりますが、この人は常に自ら出撃する様子が無いことからやはり“地上の人”基地司令なのだとみるべきでしょうね。しかしノヴェライズ小説の翻訳は相当に曖昧であり、第8空軍(航空軍)を“第8飛行隊”と訳していたりもしますので、原書を持たない筆者にはその真相(原文での職務表記? )は解りません。
【余談-3】これもノヴェライズ小説と実際の映画の間の矛盾ですが、小説では“メンフィス・ベル”号最後の任務での護衛戦闘機は P-47“サンダーボルト”が就く、とされています。しかし映像では P-51“マスタング”の様に見えてなりません。(現実での)時期的には、航続距離の短かったP-47“サンダーボルト”のハズですが、史実では1943年8月に初のB-17護衛任務が行われたとされているので、ベルの最後のミッションをP-47が支援したとは考え難く、もしかすると第8空軍第4戦闘航空群所属のアメリカ戦闘機などではなく、英空軍のスピットファイア辺りの方が妥当かと‥‥。
※連載第1回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第1回、『空の要塞』と『空軍/エア・フォース』 〈18JKI15〉
※連載第2回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第2回、『コンバット・アメリカ』と 『戦略爆撃指令』〈18JKI15〉
※連載第3回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第3回、『頭上の敵機』〈18JKI15〉
※連載第4回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第4回、『戦う翼』と 『空爆特攻隊』〈18JKI15〉
※連載第6回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17の登場する映画 第6回、『フライング・フォートレス』と『マイティ・エイス/第8空軍』〈18JKI15〉
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⇒ 【超入門】 フライトジャケットについて 〈13JKI00〉
【おまけの動画】
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