B-17の登場する映画の第6回目をお送りします。今回はいずれも2000年以降の作品『フライング・フォートレス』と『マイティ・エイス/第8空軍』に関して触れますが、『マイティ・エイス/第8空軍』については2018年10月10日現在、未だに公開(放映)されていない模様です‥‥。
『フライング・フォートレス』(FLYING FORTRESS/2011)は、監督がマイク・フィリップス(Mike Phillips)、出演者にはバグ・ホール(Bug Hall)、ドニー・ジェフコート(Donnie Jeffcoat)、ショーン・マッゴーワン(Sean McGowan)、クリス・オーウェン(Chris Owen)などが配された映画ですが、ここに登場する俳優は皆が我国ではほぼ無名に近いキャストです。
物語の内容は、第二次世界大戦中盤の地中海戦域でのB-17爆撃隊の活躍を描きます。補充の副操縦士として赴任してきた新人マイケル・シュミット少尉を主人公に、彼が経験豊富な機長の指導を受けながら、また仲間のベテラン搭乗員達に揉まれつつ一人前のパイロットへと成長していくというものです。
※1942年11月以降、駐英のベテラン部隊であった第97爆撃航空群と第301爆撃航空群が選ばれて、北アフリカ戦線に移動して任務を開始しました。
※1943年11月1日、第15空軍が編成され、ジェームズ・H・ドーリットル将軍が司令官に任命されます。この新しい部隊は、第9空軍と第12空軍から重爆撃機を集め、第12空軍からP-38戦闘機を擁する3個戦闘航空群とP47主体の1個戦闘航空群を集めて、それに中型爆撃機から成る5個爆撃航空群が加って編成されていました。
少々、辛辣かもしれませんが、この映画には『頭上の敵機』ほどの重厚さはなく、また『メンフィス・ベル』の様な清涼感・達成感も感じられません。また何と云っても、CG表現故の淡白さが真の主役であるハズのB-17“Flying Fortress”に、題名にある“空の要塞”を感じさせるほどの存在感を与えていません。
また無名のキャストがほとんどで、華やかさがありません。低予算のB級作品の割には出演者たちの演技を含め、一生懸命に作られた真面目な映画だとは伝わりますが、空戦パートも少なく人物描写にもリアリティが乏しくて、物語の展開がありきたりで予定調和に陥り、結局は新味に欠ける印象でした。
更に、航空機の登場するシーンは全てCGによる描写ですが、制作・公開当時としてはごく普通のレベルと云うか、監督がVFX関係の出身の割にはCGのクオリティが低いとも。登場する軍用機もCG画像の為、妙に綺麗過ぎて違和感があります。しかし、近年では(低予算の場合は)動態保存機を確保することは困難だし複数揃えることはなおさら難しいことから、編隊を組んでの実機での撮影はあり得ないでしょう。
結論としては、低予算のB級作品ではありますが、第二次世界大戦の軍用機やB-17のファンであればそれなりに楽しめるレベルかも知れません。敢えて好意的に評価するならば、気楽なスカイアクションとしてであればそれなりに楽しめる映画だし、冒頭の空中戦のシーン等は充分評価出来るレベルだと思います。
ストーリーの概略 1943年の地中海戦域。爆弾を抱えて敵地に赴くアメリカ陸軍航空部隊の爆撃機の編隊。だが激しい対空砲火に加え、ドイツ軍の戦闘機が迎撃に飛来、編隊に突っ込んできます。そして何とかイタリア上空での激戦から北アフリカ沿岸の基地へと帰還したB-17爆撃機でしたが、機体は激しく損傷し副操縦士や数名の搭乗員も戦死してしまいました。しかし、再びこの機は人員を補充しては出撃を繰り返さなくてはならないのです‥‥。
そこに副操縦士として補充されてきたマイケル・シュミット少尉がベテラン機長の指導を得ながら、また仲間の搭乗員達に揉まれつつも成長していくという物語なのですが、当初のマイケルは堅物な性格から他の搭乗員となかなか馴染めませんでした。更に彼のミスで乗機が作戦から脱落する羽目となり、仲間たちからの反感は強まるばかりでした。
ちなみに冒頭の爆激行からの帰投後には、機体の修理を待つ間のちょっとした戦場あるある逸話やパイロットと整備士の諍い事、また軍法会議ネタ等の戦争映画お約束のストーリー展開が繰り広げられます。しかしこの地上でのドラマ部分はあまりにもよくありがちな筋立てで、いささか退屈な感じがします。また脇役たちのキャラが薄く没個性である為に、群像劇としてもいまひとつ成立していない様に思えます。
やがて徐々に経験を積んでベテランの仲間入りを果たしたシュミット少尉でしたが、物語のラストでは、爆撃任務からの帰投行程におけるトラブルや困難の連続の中で、主人公たちとその乗機のB-17が果たして無事に生還出来るか? という過酷な状況が描かれており、映画のクライマックスに向けた最後の見どころとなっています‥‥。
尚、この映画については現在手元にDVD版が見当たらず、本記事を執筆するに当たっての、内容に関しての詳細のチェックや確認が出来ませんでした。レンタルDVDを鑑賞したのかも知れませんが、本記事は以前の記憶を頼りとしたレビューとなり、一部に勘違いや誤りがあるかも知れませんことを、よろしく、ご了解願います。
『マイティ・エイス/第8空軍』(THE MIGHTY EIGHTH/未定)は、スティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)やトム・ハンクス(Tom Hanks)が関わり、HBO社が制作する新たなるテレビ向け戦争ドラマ(10回構成)シリーズですが、同作に関しては2013年にティーザー映像が発表されて以降、公式の情報が皆無の様子です。
過去にスピルバーグとトム・ハンクスは、HBO社のもとで欧州戦線におけるアメリカ軍落下傘部隊 第101空挺師団の将兵の苦闘を描いた『バンド・オブ・ブラザース(Band of Brothers)』と、太平洋戦域で激戦を生き抜いた海兵隊(第1海兵師団)の兵士たちを描いた『ザ・パシフィック(The Pacific)』の二つのテレビシリーズを制作していますが、『マイティ・エイス/第8空軍』はその第二次世界大戦シリーズの第3弾に当たるとされ、欧州戦線でのアメリカ陸軍航空部隊を舞台とした作品となっています。
また当初の発表では、同作品の脚本は米海軍特殊部隊“SEALs”の英雄的な活躍を描いた映画『ネイビーシールズ(NavySEALs)』(原題は『Act of Valor(勇気ある行為)』)やスパルタの戦闘をダイナミックに描いた映画『300(スリーハンドレッド) 』の脚本を手掛けたカート・ジョンスタッド(Kurt Johnstad)氏が、また 『スカイライン -征服-(Skyline)』や 『テイク・シェルター(Take Shelter)』を手掛けた視覚効果のVFX製作会社ハイドラックス(Hydraulx)が編集を担当の予定とされていましたが、現状に関しては不明です‥‥。
ところで、このテレビシリーズの原作はノンフィクション作家ドナルド・ミラー(Donald L. Miller)のベストセラー小説『MASTERS OF THE AIR:America’s Bomber Boys Who Fought the Air War Against Nazi Germany』であり、第二次世界大戦下の第8空軍所属の爆撃機搭乗員らの姿を通して過酷なドイツ本土及びドイツ軍占領地への昼間爆撃を描いた著作となっています。
そしてまた“The Mighty Eighth”とは、アメリカ陸軍の主力航空部隊のひとつで、第二次世界大戦において英国に拠点を置き欧州上空で戦った第8空軍(航空軍)の部隊愛称(ニックネーム)のことですが、このテレビシリーズについては、当初は原作と同名の『Masters of the Air』というタイトルの予定でしたが、後に『マイティ・エイス/第8空軍(The Mighty Eighth/Eighth Air Force)』という題名に変更されました。
※アメリカ陸軍航空部隊(United States Army Air Corps, USAAC)とは、かつて存在したアメリカ陸軍の一部門です。1926年にアメリカ陸軍航空部(US Army Air Service)の再編によって生まれ、1942年にアメリカ陸軍航空軍(US Army Air Forces)へと統合されました。その後、この航空軍は1947年にアメリカ空軍として陸軍から独立しました。本連載記事では、本来、厳密には“アメリカ陸軍航空軍”とするべきところも、解かり易くする為に陸軍内部の航空隊という意味で“アメリカ陸軍航空部隊”と云う名称に統一して表記しています。
このテレビシリーズも、第二次世界大戦中の欧州戦線でドイツ攻略の際に投入されたアメリカ軍の第8空軍 (Eighth Air Force)の B-17爆撃機 “Flying Fortress”(空飛ぶ要塞)の若きクルーら(及び護衛の戦闘機隊)の過酷な任務の実態とその勇気溢れる活躍が描かれると思われます。
※原作者のミラー氏によると、当時の第8空軍の搭乗員の平均年齢は24歳だったと云います。また、平均的な出撃任務(ミッション)の達成回数は11回(言い換えると、11回が平均的な生存回数とも)でした。
2015年に原作者のミラー氏が、退役米空軍中佐の記者にインタビューで答えたところによれば、同年6月時点でも撮影は始まっておらず、イギリスで撮影候補地をロケハンしている段階で、撮影地についての最終決定権はトム・ハンクスにあるとのことですが、脚本に関してはほぼ出来上がりつつあるとのことでした。この時点でミラー氏が語ったところでは完成は2016年か2017年になるのではというものでしたが、その後も完成披露の情報はありませんでした。
2017年2月&2018年6月のWAR HISTORY ONLINE.COMの記事によると、イギリスのリンカンシャーで撮影が行われる可能性がある事や、2019年には公開されることを示唆していますが、未だ詳細不明で確かな事は何も解りません。しかし昨年(2017年)から今年(2018年)にかけての状況を鑑みると、制作が中止となった様子は無く、同作品は大幅に遅延しながらも5億ドルもの予算をかけながら公開(放映)に向けて制作進行していると思われますので‥‥今後の、情報をひたすら待ちましょう!!
さて、この回で一旦は連載を終えたいと思いますが、またB-17“Flying Fortress”が登場する新作映画などが製作・公開された暁には、是非とも視聴の上、皆さんにご紹介したいと考えています。
ところで、ご紹介したどの作品においても、映像の中の出演者たちは“ボマージャック(ボンバージャケット)”のA-2やB-3を皆が皆、揃いも揃って、カッコよく着こなしています。が、どうしてもこうしたショート丈のアウターは、背が低く短足の日本人には似合わない様ですね。筆者もこうしたミリタリーファッションの愛好家ではありますが、背も高くなく、当然乍ら足も短く、周囲の「似合わない」とか「イケてない」の声に耐えながら、秋冬シーズンにはよく着用しております。また、ナイロン製のMA-1なども嫌いではないのですが、やはりW.W.Ⅱの頃の革製のジャケットの質感が好みですネ‥‥。
そして最後になりますが、未だにその後の詳細が伝えられていないHBOのテレビシリーズ『マイティ・エイス/第8空軍』の製作状況に関しての最新情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非、コメントをお寄せください。何卒、宜しくお願いします!!
-終-
【参考】イギリス空軍は、戦争のごく初期において、昼間爆撃は損失が多すぎるとして中止しました。これに対してアメリカ軍の戦略爆撃論者たちは、昼間爆撃に頑固に固執していました。彼らはB-17、即ち「空の要塞」ならば充分ドイツ空軍の迎撃戦闘機隊に対抗可能だし、緊密な大編隊を送り込まば、夜間よりも昼間爆撃の方がより効果的で損失も少なく、大陸奥地の目標も攻撃・破壊出来ると考えていました。そしてその後の多くの尊い犠牲と苦しい体験から、「空の要塞」はドイツ軍戦闘機に対しても緊密な編隊を組んで当れば、何とか持ちこたえることが出来ることを証明します。また落伍機については、敵戦闘機から攻撃を受けて損傷を追いながらも、どうにか基地に戻ってくることが可能な頑丈な機体であることが解りました。
※連載第1回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第1回、『空の要塞』と『空軍/エア・フォース』 〈18JKI15〉
※連載第2回はこちらから ⇒【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第2回、『コンバット・アメリカ』と 『戦略爆撃指令』〈18JKI15〉
※連載第3回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第3回、『頭上の敵機』〈18JKI15〉
※連載第4回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第4回、『戦う翼』と 『空爆特攻隊』〈18JKI15〉
※連載第5回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第5回、『最後のミッション』と『メンフィス・ベル』〈18JKI15〉
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