もはや回転する物体から音は聞こえません。運動速度が非常に高いため、人間の耳は振動を音として捉えることができないからです。それから熱の上昇を感じます。時間が経過すると、物体が鈍く暗い赤みを帯びた色になるのを見ることができるでしょう。
速度が増すにつれ、赤はより明るくなっていきます。さらに速度が増すと赤はオレンジ色に溶け、オレンジ色は黄色に溶けて行きます。そして速度が増すにつれ、緑、青、藍、そして最後に紫へと変化します。
やがて紫が消えると人間の目ではとらえられなくなり、すべての色が消えます。しかし目には見えない、写真撮影で使用されるような光線が放出されているのです。次第に物体の構造が変化し、「X線」などの放射線を発するようになります。特定の振動数に達すると、電気や磁気が発生します。
物体が一定の振動速度に達すると、その分子は崩壊し、元の元素または原子に分解されます。それから原子は、振動の原理に従って、それらが構成されている無数の素粒子に分けられます。
そして最後には素粒子さえも消え、物体は「エーテル性物質」で構成されていると言える状態になります。
科学は敢えてそれ以上の説明をしませんが、もし振動数がそのまま増え続ければ、物体はそれに続く現象へと状態を変えていき、やがて精神的な段階を経て、最終的には究極の精神であるジオールへ帰着するとヘルメス学は教えています。
「物体」はエーテル性物質の段階に達するずっと前から「物体」ではなくなっているのですが、振動数の増加がもたらす効果を示すには、ここまで説明するのが正しいでしょう。
説明の中で、振動により光や熱などを放出する段階では物体がこれらの形態のエネルギーに「変化」したのではないということを覚えておいてください。分子や原子が結びつく力がエネルギーとして解放される振動数に達したということなのです。
これらのエネルギーの形態は物質よりもはるかに高い位置にあるにもかかわらず、物質の形態を通じて現れたエネルギーであるがゆえに、物質の結びつきにとらえられています。すべての創造にあてはまることですが、創造力が創造物によって生じています。
ヘルメスの教えは現代科学よりもはるかに先を行っています。思考、感情、理性、意志、欲望、あるいは精神状態のすべてが振動を伴い、その一部が放出され「誘導」によって他の人の心に影響を与える傾向があるとされます。これが、心が心におよぼす影響や、感応を起こす原理です。現在では様々な学校、教師による知識の普及により心の力が(テレパシーと呼ばれる現象やオカルト的な知識も含めて)急速に認知されつつあります。
あらゆる思考、感情、精神状態にはそれに対応する振動の速度とモードがあります。そして、楽器を一定の速度で振動させることによって音階が再現されるように、あるいは特定の色を再現できるように、人は意志によって特定の精神状態を再現することができます。
「振動の原理」を知ることで、人は自分の心を望む状態に偏位させ、精神状態や気分を望む度合いにコントロールすることができるのです。同様に、他の人の精神にもよい影響を与え、望ましい状態を作り出すこともできます。
この力は適切な指導、演習、実践などによってのみ修得でき、「精神的変容」と言われるヘルメス学のひとつになっています。
ここまで述べたことを少し振り返ると、ヘルメス学のマスターや熟練者と呼ばれる人たちが示す現象は、根底に「振動の原理」があることがわかります。その力は自然の法則をくつがえしているかのように見えますが、実際にはある法則や原理を他に応用しているにすぎません。物質の振動数やエネルギーの形態を変えることで、奇跡と呼ばれることを実現しているのです。
かつて古代ヘルメス派の著述者が、「振動の原理を理解したものが王の権力を握る」と記したように。
(第9章終わり。次回から第10章「極性の原理」を解説します。)
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