本稿は名刀『へし切り長谷部』について、その来歴を中心に概要を解説する刀剣初心者向けの入門記事である‥‥。黒田官兵衛の生涯を辿る、本年(2014年)のNHK大河ドラマ『軍師 官兵衛 』もいよいよ佳境に入ってきた。《既に放送終了》
ところで、官兵衛の差料で有名なものは、なんと言っても『へし切り長谷部』だろう。上記のドラマにも登場し、人口に膾炙したこの名刀について紹介してみたい・・・。
『へし切り長谷部』の「へし切り」とは、漢字では「圧し切り」と書き、その意味は「押し付けて切る」こと。
逸話によると、織田信長が茶坊主が無礼を働いたことに激怒して追いかけたが、茶坊主は膳棚の下に隠れたので棚が邪魔して刀を振り下ろす事が出来ない。そこで、棚の下に刀を差し込んで茶坊主の胴体に押し当て切り殺したとする説と、棚の上から棚ごと圧し切ったとする話とがある。通常、刀は引いたり強く押し上げないと切れないが、押し付けることで対象物を切断するとは、凄まじいまでの切れ味ということになろう。
だがどちらにしても、この時に使用した刀が『へし切り長谷部』として今に伝わる名刀なのだ。但し、いずれにしてもことの真偽は不明、他の異説もあり、その名の由来の確定については注意が必要だ。
そしてその後、この刀は信長から官兵衛に褒賞として授けられたという。(秀吉経由との説もあるが、「ヘシ切 国重ハ小寺政職ノ使トシテ孝高公信長ニ面会ノ時中国征 伐ノ献策ヲ賞シ与ヘラレタルモノ」と黒田家旧蔵の『黒田家御重宝故実』に記されていると云う)
『へし切り長谷部』は、鎌倉時代の末期から南北朝時代にかけて活躍した刀工の長谷部国重の最高傑作と云われている。国重は建武期(1334年~1336年)頃(延文年間:1356年~1361年に活躍したとの説もあり)の山城国(現在の京都府)の刀工だが、鎌倉時代に相州伝を完成させた岡崎五郎入道正宗の弟子で、「正宗十哲」の一人とされている。また彼の作には、一尺前後の短刀が多い。
さて、この刀の刃長(じんちょう)は、実測で64.84cm、反り1.0cm、磨り上げ前は3尺近かったとみられる。大きな特徴は、波打つ刃紋が刃先だけではなく地鉄部分を含む刀身全体に見られ、鎬(しのぎ)や棟(むね)にまで焼き入れを行う「皆焼刃(ひたつらば)」(国重の垂れ刃紋として有名)となっていることだ。皆焼は非常に難しい技法とされており、製作に失敗すると刀の品質を大幅に落としてしまう可能性が高い。
国重は師匠の正宗譲りの、この皆焼の技術で見事に迫力ある刃紋の焼き付けに成功しており、その姿のダイナミックな豪快さが観る者を圧倒する名作である。
後に、大太刀(おおたち/おおだち)であった『へし切り長谷部』は大磨上げした結果、打刀(うちがたな)とされ、江戸時代前期に「本阿弥光徳」が茎に金象嵌銘で「黒田筑前守」と入れたとされる。
1953年(昭和28年)3月31日には国宝に指定され、現在は、黒田家52万石の居城があった、福岡市の福岡市博物館に名物として所蔵されている。
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