航空業界での『重大インシデント』とは、事故には至らないが、事故が発生する恐れがあったと認められるもので、例えば滑走路からの逸脱や乗客・乗員の非常脱出、機内における火災や煙の発生及び機内気圧の大きな降下、異常気象との遭遇などの事態を指し、国土交通省が認定したものです。
我が国では航空機や鉄道において重大な事故には至らなかったものの、そうなる可能性のあった危険な状態、事案のことを重大インシデントといい、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会が認定します。
一つは、航空法第76条の2で、航行中に他の航空機との衝突・接触の恐れがあった場合と、事故が発生する恐れがあると認められる国土交通省令で定める事態が発生したと認めたときは、機長は国土交通大臣に報告することが義務付けられており、この報告義務が発生する事態のことです。尚、これに該当する事態は、航空法施行規則第166条の4により定められています。
また同じく、鉄道事業法第19条の2では、列車又は車両の運転中における事故が発生する恐れがあると認められる国土交通省令で定める事態が発生したと認めたときは、鉄道事業者は国土交通大臣に報告することが義務付けられています。この報告義務が発生する事態も重大インシデントと言います。これに該当する事態も、鉄道事故等報告規則第4条により定められています。
現実には、このまま放置しておけば、いずれ重大な事故に発展する可能性があると判断された事案を、国土交通省の事故調査委員会が重大インシデントと認定して、原因究明の為の調査を開始するのです。そして、重大な災害・事故を起こさない為には、重大インシデントの原因を徹底的に究明し、再発防止に最大限努力するということがセオリーとなっています。
重大インシデントが招く災害や大きな事故には、火災や交通事故のようなある程度の頻度で発生が想定されるものから、大規模な自然災害のように極めて頻度が低いものまで、様々な種類があります。
また重大インシデントは、航空や鉄道、自動車などの交通業界や医療などの分野では事故に至らない『ヒヤリ・ハット/インシデント』の中の危険性が高く重大なもののことですが、ITサービスマネジメントの業界では標準の運用に属さない事象すべてを意味し、情報セキュリティ分野ではセキュリティを脅かす偶発事故や意図的攻撃、システム運用上のサービスレベルの低下となる要因などを指します。また、これらのインシデントは報告・調査・管理等の対象となっています。
通常のビジネスにおいても、発生したインシデントの内、最も優先順位の高いものを重大インシデントと指定します。その企業経営の全体に大きな影響を及ぼし、かつ緊急度の高いインシデントの場合です。例えば、会社の基幹システムが長時間ダウンした場合や、主要商品に大きな欠陥が見つかった場合等があります。
事故そのものではないインシデントを管理する背景には、既に解説したように『ハインリッヒの法則』があります。不安全行動や不安全状態をなくすことで労働災害の多くが予防可能だとし、安全対策の原則となりました。
また『ヒヤリ・ハット』の回で説明したように、厳密には日本語にはインシデントの意味に合致する言葉は存在しません。突発的な出来事だったり不測の異常な状態が発生し、即応しなければ被害が広がっていくものは全てインシデントという言葉で包含します。
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