ヒヤリ・ハットとは日本語で、重大な事故や災害には至らないものの、そこに存在した異常な事態に気付いたことを言います。文字通り、予想外の事態やミスに「ヒヤリ」としたり、「ハッと」したりするものですが、 しかし結果として事故に至らなかったので、その大半が見過ごされたり忘れられたりしています。
重大な事故や災害が発生した際には、その背後に多くのヒヤリ・ハットが潜んでいる可能性があります。ヒヤリ・ハットの事例を収集して分析することで、重大な災害や事故を未然に防ぐための方策を立てることができます。その為、職場や作業現場などで各構成員が体験したヒヤリ・ハットの情報を収集し共有する活動が行われています。
因みにハインリッヒの法則は、この活動の根拠となっていますが、ハインリッヒの法則における比率の正確性等を検証するのが目的ではなく、放って置くと忘れられがちなヒヤリ・ハットレベルの異常事態の状況を積極的に集めることが重要なのです。
さて、日本語ではヒヤリ・ハットと言いますが、英語圏ではヒヤリ・ハットに相当する言葉としてnear-miss(異常接近)などがありますが、最も近いのは労働災害の分野で生まれた概念で、事故=アクシデントaccidentに対しての、インシデントincidentという言葉です。
しかし、ヒヤリ・ハットとインシデントが完全に同義語なのかというと、厳密には同じ意味ではないようです。かつてはアクシデントが発生する一歩手前の状況がインシデントと呼ばれていましたが、インシデントは多種多様であり、決して災害とか事故を指すものだけではなく、また逆に、具現化された事故などが発生する手前の潜在的な状況のみをインシデントというわけでもないようです。
つまりincidentは、結果として事故となったか否かではなく、予定していた又は予見される状況とは異なる状況が発生した場合全般を示す言葉、とみるのが正しいようです。
未だ個人の責任追及を重視する傾向がある我が国においては、ヒヤリ・ハットは、非常に現場の感覚を反映した解りやすい言葉で、普及・啓蒙に用いるには非常に優れていると考えられます。
正規の事故報告を提出するのは荷が重く、ヒヤリ・ハット報告の方が出しやすいという面があることは否めません。必要なのは個人の責任の追及ではありませんし、実際にはヒヤリ・ハット報告を提出してくれれば安全対策の立案は可能ですから、日本では独自にヒヤリ・ハットという多少幼稚ともとれる簡易な表現・言葉を創り、厚生労働省が正式に用いた意味も理解出来る様な気がします。
たぶんに可能な限り多くの報告を得る事を目的として、抵抗感の少ないヒヤリ・ハットという言葉を用いることになったのでしょう。
個人的な意見としては、インシデントという言葉に統一するか、ヒヤリ・ハットに代わるもう少し学術的に裏付けのある用語に変更した方が良いとも思えますが、広く一般の人々には、ヒヤリ・ハットの持つ感覚的な表現は理解しやすいのかも知れません。
ヒヤリ・ハットが発生した段階で具体的な対策を立てて、現実のトラブルが起きる前に未然に防ぐことが最善です。大事なことは、自らがヒヤリ・ハットを経験した時は積極的に報告することと、当該のヒヤリ・ハットの事例と対策を早期に組織全体に周知徹底することです。多くのヒヤリ・ハット事例の収集と分析・対策の策定で、更に多くの災害や事故を防ぐことが出来るのです。
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