元ゲーム会社の人間としては、なんだか寂しさ一杯です。ここ最近の(日本の)ゲーム業界では、スマホ向けのソーシャル・ゲームでテッペン取った人達がキングのように崇められているからです・・・。
そこで今、スマホ向けゲームで接戦を繰り広げているネット企業を取り上げて、業界の王者を予想したいと思います!!
最近の、SNS大手企業ミクシィの業績好調の理由は、スマートフォン(以下、スマホ)向けのゲーム『モンスターストライク(通称:モンスト)』(以下、『モンスト』)の課金収入の拡大にあります。
ミクシィが2013年9月27日にリリースした『モンスト』とは、基本的には敵とのバトル(戦闘)とモンスターの収集や育成を繰り返していき、自分のユニットを強化していくゲームです。バトル方式はビリヤードのようなスタイルです。フィールド(画面)上に配置された敵キャラクターに対して、味方のモンスターを当てることでダメージを与えたり、特殊な技が発動したりします。
攻撃の手順は、タッチパネルでモンスターを引っ張って離すだけです。比較的シンプルな操作で遊べますが、そこにはビリヤードのルールを模している為、壁面にバウンドさせて複数の敵に連続でぶつけたり、複数のモンスターと連携させて必殺技を繰り出すといった要素があります。
昨年のサービス開始から約9ケ月で、利用者は世界で900万人を突破しているようです。手軽さや友人と連携して遊べることで人気が高まり、今年2月にユーザーが300万人を突破し5月から台湾でもサービス開始。6月4日に800万人、早くも24日には前述の通り900万人と成長を続けています。
『モンスターストライク』はこの様に、先行のガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下、ガンホー)のスマホ向けゲーム『パズル&ドラゴンズ(通称:パズドラ)』(以下、『パズドラ』)に迫る勢いです。
いつ『モンスト』が『パズドラ』を抜くのか、ネットゲームの関係者は皆一様に注視していました。そしてついに、『モンスト』は5月15日、米アップルのアプリ配信サイト「アップストア」のセールスランキングで初めて『パズドラ』を抜き、首位となりました。
業界では、ミクシィは今やSNS運営会社ではなく、まるでスマホ向けゲームビジネスの大手企業、との声も聞こえます。最近の発表では、2015年3月期の計画では、売上400億円のうち約300億円を『モンスト』が稼ぐと見込んでいるからです。
ミクシィは2013年第二四半期には2億5,300万円の最終赤字に陥り、業績悪化が表面化していました。SNS分野ではFacebook等に利用客を奪われ、LINE(ライン)などの新興サービスの台頭も響いたと言われています。それが『モンスト』のブレイクで息を吹き返した形となっているのですが・・・。
新たに社長に就任した森田仁基氏も『モンスト』の立ち上げで実績をあげた人ですが、「本年(2014年)は『モンスト』の更なる海外展開に力を入れていく」と発言しています。
片や、東の正横綱とも云うべき『パズドラ』ですが、この5月に国内だけで2,800万ダウンロードを達成したそうです。ガンホーの森下一喜社長は「パズドラはまだ下降局面に入っていない」と自信を見せています。
『パズドラ』は、RPGとパズルゲームを融合させたパズル型RPGゲーム。特にストーリーはなく、プレイヤーキャラクターも存在しません。RPGの要素としてはモンスターの収集と育成、そしてバトルです。
プレイヤーは最大6体のモンスターで構成されるパーティを編成しダンジョンへと進入、パズルブロックを消す事によって敵モンスターを攻撃し各ダンジョンのクリアを目指していきます。
プレイヤーが配下にできるモンスターは、敵モンスターを倒した際のドロップや、ガチャ、また関連グッズや雑誌などの特典等によって獲得する事が可能です。
基本ゲームは無料で配信されていますが、コンティニューやスタミナ回復に必要な「魔法石」、レアガチャや使用可能モンスターの上限の拡張などに必要なアイテムが有料課金で販売されています。
さて両雄の甲乙ですが、先ずは『モンスト』のビリヤード的なゲームシステムを高く評価したいと思います。手軽に遊べるカジュアル・タイプの、パズルやシューティング型のゲームはシンプル・イズ・ベスト。これは昔も今も変わりません。
スマホの限られた画面を広く使えるし、味方や敵の配置も意外と複雑に出来ます。指で弾くという『パズドラ』よりもはるかにシンプルな動作で、より戦略性を生み出せる可能性を持っている上に、マルチプレイができる点も極めて重要です。
しかし現状の『モンスト』のゲームデザインとレギュレーションは、難易度の高いクエストをクリアする場合、残念ながらプレイヤーの戦略性の有無よりも、所持しているモンスターの強弱やオーブなどのアイテムの良しあしに左右されることが多いのです。
これでは、ある程度のユーザーを獲得できても、ディープに遊ばせるには限界があることを伺わせます。宣伝費が潰えればブームは去っていくことから、焼畑農業で海外への横展開を目指す、というパターンに陥り易いでしょう。
とは云え、『パズドラ』もいい加減飽きられてきています。こちらはRPG性に制約がある点が惜しい。頻繁な新キャラ追加でどこまでの延命が可能でしょうか・・・。物語性を無視したことが成功の要因という意見もありますが、その結果、RPGとしての基本的な骨格を失ったともいえます。
結局のところ、わずかながら現状の勢いは『モンスト』に軍配が上がるでしょう。ゲーム会社ではないSNS運営会社のゲームにです! しかし前述のように、戦略性の縦深(じゅうしん)を拡大できれば、息の長い名作ゲームとなり得るのですが、(今更無理だろうし)ミクシィがそこに手を入れるとは思えません。
もちろん両作品とも、そのユーザー数は画期的であり、大きく評価されていいゲームであることには相違ありません。シンプルでかつ奥深いという、カジュアル・ゲームの成功要因の(永遠の)二律背反にどう挑むかは、今後とも業界の課題として続くでしょう・・・。
ただ、スマホ向けゲームでは第三勢力ともいえるLINEの台頭が凄まじい。既に「LINE GAME」では9タイトルが1,000万ダウンロードを突破し、特にこのうち『LINE POP』は4,300万ダウンロードを超える人気を集めているといいます。
『LINE POP 〜ブラウンのクッキー〜』は「LINE GAME」の一つであり、2012年11月19日のサービス開始で、LINEのスタンプに登場するキャラクターがブロックとして登場するパズルゲームです。ダウンロード数は2012年12月1日に1,000万、2013年1月16日に2,000万を突破し2013年9月6日時点では約3,400万でした。
制限時間1分で7×7マスにあるブロックを左右上下にスライドさせて同じブロックを3つ以上並べて消していくというもので、ブロックには、“ブラウン(クマ)”と“コニー(ウサギ)”、“ムーン(白と赤の2種類)”や“カエル”、“サリー(ヒヨコ)”、“ネコ”の7種類がいます。
基本的にどのブロックを消しても得点は同じですが、スライドさせてブロックが消えなかった場合は元の位置に戻ります。連続して消していくとコンボが発生しより多くのスコアが加算されていくタイプです。
同じアプリをインストールしていれば、世界中のユーザー同士で互いにスコアを競い合う「POPリーグ」(ランキングとして表示され、翌週にはリセットされる)や、毎日課せられるミッションをクリアしていくなどの遊び方があります。
ある意味、通信サービスのプラットフォーマーであるLINEが自らゲーム配信をしていることは、一般のゲーム会社にとっては掟破りのことであり、LINEのプラットフォームの上で自己増殖的に利用者が増えていく構図は最強の成功モデルとも言えます。
この為、多額のマス広告宣伝費を投入する必要もなく、LINE利用者自身がこのゲームを一緒に遊ぶ他のユーザーを、自主的にLINEの中で開拓してくれるという仕組みは、競合他社にとって大きな脅威でもあるのです。
この業界は、いつ主役交代が起きても不思議ではない世界です。たしかにネット配信・接続型のゲームでは、昔のゲーム専用機向けのパッケージものとは異なり、その製品のライフは長くはなったとは云え、やがてはユーザーから飽きられていきます・・・。
『モンスト』『パズドラ』に続く次のタイトルが、既に水面下でスタンバイしていることは間違いないでしょう!!
-終-