今回も分かり易い話です。「対比効果」という名前の通り、複数のモノやサービスが対比されて提示されていると、その中で相対的に安価なものを大変「お得/安い」と感じてしまう心理学的な効果です・・・。
人は訪れた売場で、10万円もするの商品が展示されていたその隣に、3万円台の同じような商品があった場合、そちらの商品を「これは安い」と感じてしまうものです。(当然、個人差はありますが・・・)
現実には3万円が安いという根拠はありませんし、一般的に(絶対額として)そんなに安価ではない価格でしょう。
隣に10万円という大変高価な商品が展示されていることで、対比的に3万円の商品が安く思われてしまうのです。
またその人は、普段ならばその程度(レベル)の商品には2万円くらいまでしか支払うつもりがなくても、「これは安い」と感じている為に購入してしまうかも知れません。
そしてこの様な行動が、心理学でいう『対比(コントラスト)効果』と呼ばれるものの影響と考えられているのです。
また皆さん、こんな経験はありませんか? 食堂で定食メニューを注文する際などに、例えばA定食とB定食があってこの二つの内から選ぶとします。
A定食:2,400円
B定食:1,800円
この例の場合は、相対的に安価なメニューであるB定食の方が注文され易いそうです。
ところが、もしこの例がABCの三択になると、どうなるでしょうか?
A定食:2,400円
B定食:1,800円
C定食:1,200円
実はこの場合でも、B定食が一番注文を集めるそうです。
AとBの二つの定食メニューに加えて、更にもう一つC定食の選択肢を用意することで、相対的に、B定食の価値を上げながら価格を安く見せることが可能になるのです。
実は、食堂の側もB定食が一番売れることを承知していて、事前の準備数も多く、且つ重要なことは、B定食の利益率が三つの定食の中で、最も高い設定となっていることが多いことです。
一見、高額なA定食がたくさん売れた方が店にとって有難いように思えますが、現実には利益率の高いB定食が多く売れることで、十分な利益が確保される、という仕組みなのです。
この例などは、まさしく『対比(コントラスト)効果』が巧みに活用されている例だと思われます。そして、もうお分かりの通り、マーケティング活動においては、この効果が随所に応用されているのです。
『対比(コントラスト)効果』は、不動産販売や仲介業で多く使われる手法でもあります。
敢えて高額な物件を見せられた後に、同様な物件だけど本来の価格帯より少し高い程度のものを見ても、リーズナブルだと錯覚してしまうのです。価格だけでなく、設備不良や交通不便の物件との意図的な対比もよく行われるので、契約者側には注意が必要です。
また、決して悪徳な業者などではなくとも、購入や契約行為の促進を図るために、この効果を活用している場合は多く見られるのです。
その他の売買の場面でこの効果が頻繁に利用されるのが、値切り交渉での応用でしょう。我国では、安価な消費財などの販売現場ではあまり見かけない行為ですが、高額商品、例えば住宅や自動車、宝飾品などであれば、この様な交渉はあり得ます。
モノを買う側が、先ず売る側にとって最も厳しい(最悪の)条件を提示し、次に順次条件を緩和することで、売り手の側は当初の売価よりも多少損をしても販売しようという気持ちになりがちです。
もちろん、赤字での販売はないでしょうが、許容範囲内であれば利益の圧縮を受け入れる可能性が高いのです。所謂、売れないよりマシ、ということでしょう。しかし現実には売り手の側が、その辺の状況は折り込み済で対応する場合が多いようですが・・・。
商品の売り場や食堂の例とは逆に、買い手の側が対比条件を提示していく点が異なりますが、効果の影響は同じといえます。
『対比(コントラスト)効果』は、商品の売り買いの場面だけではなく、人と人の交渉事においても応用が可能です。
例えば、会社が人員整理をする際に「会社を辞めるか、給料の30%カットを選ぶか?」と問うと、対象者の多くが給料30%カットの方を選ぶとされます。
つまり対象者は、職を完全に失い路頭に迷うよりも、給料がカットされてもまだ仕事がある方がマシである、と判断しているわけです。
心理学的には、これも『対比(コントラスト)効果』によると考えられます。
この効果は、交渉事全般に応用が出来ますが、但し、対比効果を有効に利用するには、必ず(相手にとって)最悪の条件から提示し、次にそれよりは良好な条件の順に提示していきます。
しかし失敗の弁明などの際に、単純な陳謝と言い訳から入ると失敗してしまいます。無難なことや特に他の成功した事柄を比較対象に述べてから、失敗の件に触れる様にしましょう。この時は、対比の順序を間違えると却って逆効果になるので、充分に注意が必要です。
つまり、五つの案件があったとして、内一つが失敗したとします。この失敗した件をいきなり上司に報告するよりも、成功した他の案件から説明して、最後に失敗した案件の報告をします。必ずという保証はありませんが、 上司の叱責は比較的軽く済むハズです。
よく言われる、「不幸中の幸い」という考え方も、『対比(コントラスト)効果』が影響していると考えられるでしょう。
このパターンとしては、「家族でドライブに出たが事故に遭った、しかし家族が全員無事で何よりだった」という場合などで、良くない事に遭遇した時に、よりひどい事態にならずに良かった、と勝手に納得しようとする心理状態です。
人は何かを判断する際に、このように相対的に物事を捉える認知特性があります。そこでクローズアップされるのが、所謂、意外性やギャップというヤツです。
例えば強面の怖そうな人が、動物を可愛がっている姿を観るだけで、すごく良い人に思えてしまうのはこの為です。
無意識か、意図的かという問題はありますが、『対比(コントラスト)効果』の正しい活用で、対人関係の好転がはかられる可能性はあるのです。
恋愛心理学でも、ギャップの効用はさんざん言われていることでもありますし、相対的な比較対象の存在が恋愛の成就に繋がる場合も(残念ながらその逆の場合も)多くあるのです・・・。
皆さん、身の回りに多く存在する『対比(コントラスト)効果』の応用について、ご理解頂けたでしょうか?
マーケティングや対人交渉術においても、使い方を誤らなければ比較的効果が明確なものです。そして買物をする立場の場合、この効果の影響を知り、注意して高過ぎる買物をしないように心掛けましょう!!
-終-
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