【OIC/へぇー!そうなんだぁー♪】の第1回。
皆さん、ご存知ですか? あのスコットランドが9月18日に、英国(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国、以下、連合王国)からの独立の是非を問う住民投票を実施するそうです。
日本ではこの話、ほとんど誰も知りませんよネ。でもこの住民投票の結果は英国(連合王国)のみならず、欧州や世界的にも大きな影響を及ぼす大問題となる可能性があります・・・。
住民投票の行方
英国(連合王国)の一部、スコットランドが英国(連合王国)からの独立を決する住民投票が9月18日に行われます。
現在の英国(連合王国)とは、実際はイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドという4つの国の連合体です。歴史的には、人口や経済力、武力等の国力全般で勝るイングランドが周辺の3国を順次併合して「イングランドが支配する連合王国」を完成させた、というのが実情ですが、特にスコットランドは歴史や文化などの厚みや、輩出した人材などもイングランドと遜色ない国なのです。
ところが、この307年の歴史を持つ英国(連合王国)が、今回の住民投票の結果次第では、いよいよ分裂の瀬戸際にあるのかも知れません。たとえ僅差で現状維持となっても、英国(連合王国)にとっては、アイルランド自由国(現アイルランド共和国)が成立した1922年以来最大のショックな出来事となるでしょう。
スコットランド独立運動
スコットランド独立運動は長年水面下で進められていましたが、第二次世界大戦後の英国(連合王国)の総合的な国力の低下、北海油田の開発によるスコットランドの経済的自立の可能性の高まりや、かつてのサッチャー保守党政権による相次ぐ炭鉱閉鎖などでスコットランド地区の失業者が急増したことなどを背景に、1980年代から顕著となってきました。
1997年のブレア政権下で自治議会の設置を要求し、1999年にスコットランド自治議会が復活しました。議会の多数派を占める政権与党はスコットランド民族党(SNP)であり、保守党や労働党を圧倒しています。スコットランドにとってこの自治議会復活は大きな転機だったといえます。
賛成派の主張
独立賛成派は、同様に北海油田を所有し経営にも成功しているノルウェーなどをお手本に、小国でも豊かでユニークな国家を目指しているのです。
賛成派の言い分は「自分たちの税金の使い道は自分たちで決めたい」というものが主で、独立を支持する中小企業団体ビジネス・フォー・スコットランド(BFS)は「スコットランドは英国の税収の9.5%を納めているのに、支出の9.3%しか戻ってこない。独立すれば自分たちで使い道を決められる」と訴えています。
また経済面では、独立後はスコットランド人1人当たりの所得が年1,000ポンド増えると、彼らは試算しています。
また経済面の主張以外に、独立すればスコットランドはより民主的になるというものがあります。かつて保守党のサッチャリズムのせいで、スコットランド地区が犠牲にされてスコットランドの工業が大きく打撃を受け経済が低迷したことを、スコットランド人はいまだに忘れてはいないそうです。
反対派の主張
これに対し反対派の考えは、スコットランドが英国(連合王国)から分離すれば、どちら側にとってもある程度のコストが増加し、一方、得られる利益は不確実であり、ほとんどの予測ではコストが利益をはるかに上回ると見られているからです。
英国政府によれば、賛成派が根拠としている数値のもとになっている原油価格、スコットランドの債務負担、人口動態、生産性に関する想定は、信憑性が低いとされます。そしてより現実的な想定に基づき、スコットランドが残留すれば、住民は1人当たり年1,400ポンド豊かに暮らせると見積もっているのです。
またスコットランド人は、英国(連合王国)全体の平均よりも高齢で健康状態も良くないとされています。また生産性は英国(連合王国)のその他地域よりも11%低く、そのため、スコットランド人1人に対する国家支出は、英国(連合王国)全体の平均よりも1,200ポンド多くなっています。原油価格の推移によっては、短期的には北海油田からの収益でそうしたコストをある程度埋め合わせることが可能だが、やがて北海の原油も枯渇する時がくる、と心配しています。
そして独立すれば多くの人材流出が発生するかも知れず、間違いなく一時的なコスト高も生じます。何しろ、新しいスコットランド国家は、軍備や福祉制度、通貨など、多くのものを新設しなければならないのです。
反対派は民主化に関しても、スコットランドには既に独自の法制度があり、スコットランド自治議会は医療、教育、住宅といった幅広い分野の政策に関する権限を持っていて、決して英国の政治制度がスコットランドから権力を奪っている訳ではない、とします。
住民投票に向けた過程
住民投票に向けたこの一連の過程(プロセス)は、すべて中央政府である英国政府との合意に基づくものです。2011年のスコットランド自治議会選で、独立派のスコットランド民族党(SNP)が単独過半数を獲得したのを受けて、独立反対のキャメロン英国首相はスコットランドの民意を尊重し、SNP党首と住民投票実施協定に署名しました。
SNPは油田収入の帰属を主張、核兵器の撤去や脱原発を掲げており、2011年のスコットランド自治議会選で住民投票の実施を公約とし、単独過半数を獲得しました。
SNP党首で自治政府のサモンド首席大臣(首相に相当)は昨年11月、独立国家の青写真となる「独立白書」を発表しました。通貨は引き続き英ポンドを使用し、中央銀行も現在と同じイングランド銀行(BOE)を利用します。欧州連合(EU)の多くの国がユーロを使うのと同じように、英国と「通貨同盟」をつくり、ポンドを使う計画とのことです。
独立への壁
SNPの方針について英国政府は完全に否定しています。オズボーン財務相は今年(2014年)2月、エディンバラで演説して「英国から去るなら、ポンドからも去ることになる」と述べました。連立与党の保守党と自由民主党、そして最大野党の労働党も同様の見解を示しています。
英国経済社会研究所のアンガス・アームストロング調査部長は「独立してもポンドを勝手に使い続けることはできるが、(国家として)BOEをコントロールはできない。BOEは英国の納税者のものだからだ」としています。
各国の中央銀行は紙幣を発行し景気に応じた金利政策などを実行しますが、中央銀行を持たなければ、そうした金融政策が実施出来ません。また民間の銀行に金を貸し出す「最後の貸手」としての中央銀行がなければ国家は機能しないのです。
これに対し、前述のBFSのトニー・バンクス会長は「通貨を使わせないというのは脅しだ。だが、違う通貨になって大きな打撃を受けるのは、スコットランドとの貿易に依存している英国の方だ」と反論しています。
しかし、欧州でも屈指の金融都市エディンバラの金融業界団体では「住民投票で独立賛成が過半数を占めれば、金融が不安定となり、多くの金融機関はロンドンに移る」と指摘しています。
またスコットランド商工会議所の調査によると、独立後の独自通貨やユーロの導入について、回答企業の3分の2が「マイナスの影響がある」と答えているそうです。
更に、もし独立後に「通貨同盟」が英国(連合王国)との間で締結できたとしても、課題は大きいでしょう。
「通貨同盟」の成立と継続には、参加国がどれだけ主権を手放すかが問題となります。独自通貨の発行といった金融上の権限に加え、政府予算を決定する財政に関する権限の自由度も限られるからです。
これは、スコットランドが「通貨同盟」というスタイルを採用する場合、政府予算を「自分たちで決める」という独立の大きな目的が達成できないという矛盾となります。
この点については、スコットランドの金融業界団体のオーウェン・ケリー事務局長によれば「SNPがポンドの維持を掲げるのは、住民投票までだろう。賛成が過半数を占めれば、独自通貨の導入に向かうのではないか。独自通貨こそが最大の主権だからだ」とのことです。
草の根的な独立運動
実際に今回の独立運動/住民投票で特徴的なことは、反対派には大企業やイングランド出身の著名人が多いのに対して、賛成派のほとんどが一般市民によるボランティアで草の根の活動に支えられていることです。資金も活発な市民活動での募金などから調達されているものが主です。
反対派は、「ハリー・ポッター」シリーズの著者、J・K・ローリング氏が100万ポンド(約1億7000万円)を寄付するなど豊富な資金力を武器にしていますが、現実には講演会や集会などの行事をほとんど開催しておらず、活発な議論を進めているという印象はないようです。
最新の世論調査では、独立反対が45%(前回6月調査は43%)、賛成が34%(同36%)で、反対派が優勢な状況が続いています。最終的にどの様な結果になるにせよ、いたって民主的に独立運動を進めていくこの動きから、世界の他の国々や地域が学ぶことは多いハズです。
そして投票の結果、賛成が過半数となれば2016年には国家として独立する予定だそうです。独自貨幣の保有や中央銀行の設立、社会保障、北海油田の帰趨、欧州連合(EU)への加盟など、課題や問題点は山積で多岐にわたりますが、この平和的な独立運動の意義は大変大きいと言えるでしょう。
-終-
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