英国の俳優で監督の、リチャード・アッテンボローが亡くなった。享年90歳。
監督としてアカデミー賞を受賞しているが、筆者には俳優/演者としてのイメージが強い。
「サー(騎士/勲爵士)」はおろか「ロード(貴族/卿)」の称号を授与された、大英帝国が誇る名優であった・・・。
映画『大脱走(The Great Escape)』(1963)や『ジュラシック・パーク(Jurassic Park)』(1993)などに出演し、『ガンジー(Gandhi)』(1982年)でアカデミー賞監督賞を受賞した英国の俳優で監督のリチャード・アッテンボロー(Richard Attenborough)が、8月24日(現地時間)の昼ごろ90歳で死去したことを、同氏の子息が英国放送協会(BBC)に明らかにしたという。
BBCによると、アッテンボローは2008年に脳梗塞を起こして自宅の階段から転落して怪我をして以来、徐々に体力を失い車椅子の生活となり、最近では老年性認知症の妻で女優のシーラ・シムとともに介護施設に入り余生を暮らしていたという。
尚、英国のキャメロン首相は24日にツイッターで、「映画界の巨匠だった」とその死を悼んだそうである。
リチャード・サミュエル・アッテンボロー男爵、CBE佩用者(Richard Samuel Attenborough, Baron Attenborough, CBE)は、1923年8月29日に英国ケンブリッジで生まれた、映画監督、映画プロデューサー並びに俳優で、60年にわたり映画界で活躍した。
ロンドンの王立演劇アカデミーで学び、1942年に俳優としてデビューする。以降、俳優として舞台や映画で活躍、性格俳優として評価され多数の映画に出演することになる。
1960年の『紳士同盟』や『大脱走』(1963年)、『砲艦サンパブロ』(1966年)あたりから魅力的な脇役を多く演じていたが、この頃から監督業・プロデュース業にも興味を持ち始め、1969年の反戦ミュージカル『素晴らしき戦争』で監督デビューを果たした。
その後は俳優と平行して監督活躍を続け、1982年にマハトマ・ガンジーの生涯を描いた大作『ガンジー』でついに第55回アカデミー賞監督賞を獲得した。監督としては『コーラスライン』(1985年)やアパルトヘイト問題を題材にした『遠い夜明け』(1987年)、喜劇王チャプリンの生涯を描いた『チャーリー』(1992年)など、問題作・話題作を制作して才能を発揮。俳優としては『ジュラシック・パーク』(1993年)の実業家ジョン・ハモンド役や、『34丁目の奇跡』(1994年)でのサンタのクリス役などで名演技をみせ、以降も1998年の『エリザベス』など総計で70本以上にも上る映画に出演した。
また教育活動にも関心が強く、国際的な教育組織UWCの重要な後援者の一人だった。ユニセフの親善大使や王立演劇アカデミーのチェアマンに就任したこともあるが、演劇・映画界での活動に対しては早くも1967年に大英帝国勲章を授与されている。その後、人道支援やユニセフ活動に対する貢献などが大きく評価されて、1976年に「サー/騎士」、1993年には「ロード/一代貴族・男爵」の地位・称号を与えられている。
更に2002年10月には、英国映画協会内に創設された「チャップリン研究財団」の初代総裁に就任している。
1945年に女優のシーラ・シムと結婚し3人の子供をもうけていたが、2004年のスマトラ沖地震による津波で、タイで休暇中の長女のジェーンや孫のルーシーら親族3人を失った。
アッテンボローは、人道活動家としても有名だったが、その原点は「ラジカルな家庭」(アッテンボロー談)にあるようだ。
宗教や人種による差別を嫌悪していた彼の両親は、ナチスの迫害で孤児になったユダヤ人の女の子2人を引き取り、家族同様に育てたという。
彼は、その両親の深い愛情を見て「人種なんて関係ないということと、愛情の素晴らしさを知った」と語っている。
-終-
【参考】筆者が実際に観たアッテンボロー出演並びに監督作品を紹介すると・・・映画の詳細はリンク先にて(公開年は日本公開時)
●封鎖作戦 1953年公開 出演(’Dipper’ Daniels 役)
第二次世界大戦中の英軍のサンナゼール奇襲作戦を描く。今観るといかにも古びた映像だが、主人公のフレイザー艦長を演じるトレヴァー・ハワードが渋い。若き日のアッテンボローは水兵の役で大事な場面にちょくちょく顔を出す脇役だ。
●大脱走 1963年公開 出演(Bartlett._Big_X 役)
スティーブ・マックイーンやジェームズ・ガーナー、チャールズ・ブロンソンにジェームズ・コバーンをはじめとした多士済々の出演陣の中で、「ビック-X」こと頭脳に秀でた脱走のカリスマ、バートレット中隊長を演じたアッテンボローの存在感は大きかった。物語の後半、デヴィッド・マッカラム演じるアシュレー=ピットともどもゲシュタポに処刑されるシーンはショックだったが。
●飛べ!フェニックス 1966年公開 出演(Lew_Moran 役)
リメイクもされた砂漠からの奇想天外な脱出劇。J・スチュワート、H・クリューガー、アーネスト・ボーグナイン、ピーター・フィンチそしてアッテンボローといった錚々たる顔ぶれのまさしく冒険映画の名作で、筆者の好きな役者が勢ぞろいだ。
●砲艦サンパブロ 1967年公開 出演(Frenchy 役)
舞台は1926年の中国。楊子江沿いの閑港長沙に駐留する米海軍の老朽砲艦サンパブロと乗組員たちをめぐる人間模様を軸に展開する歴史大作。名匠R・ワイズ監督の三時間に及ぶ長編で、アッテンボローはスティーヴ・マックィーンやキャンディス・バーゲンらと共演した。
●遠すぎた橋 1977年公開 監督
第二次世界大戦後期に行われた連合軍の空挺作戦である「マーケット・ガーデン作戦」を題材にした超大作戦争映画。ロバート・レッドフォード、ジーン・ハックマン、ショーン・コネリーなど、当時の名優がオールスターキャストで出演して話題となったアッテンボローの監督作品。
●ガンジー 1983年 監督、製作
アッテンボローが監督、脚本はジョン・ブライリーが担当。第55回アカデミー賞の作品賞や監督賞など8部門で受賞。「インド独立の父」として知られるマハトマ・ガンディーの青年時代から暗殺までを描いた伝記映画であり、主演のベン・キングズレーが極限までガンディーの外見と仕草を模倣し、アカデミー主演男優賞を獲得した。
●ジュラシック・パーク 1993年 出演(John Hammond 役)
マイケル・クライトンの原作で、スティーヴン・スピルバーグ監督の恐竜スペクタクル映画。大ヒットして続編シリーズが作られた。ジュラシック・パークを建設した大富豪ジョン・ハモンド役をアッテンボローは演じ、サム・ニールやローラ・ダーンと共演した。
●34丁目の奇跡(1994年版) 1994年公開 主演(Kriss Kringle 役)
1947年の映画『三十四丁目の奇蹟』のリメイクである。監督はレス・メイフィールド。アッテンボローは、実はサンタクロースであるクリス・クリングルという老人の役を演じている。当時の年齢も相俟って、本当のサンタに見えてくるその演技は、アッテンボローの真摯で誠実な人柄を反映しているかの様だ。
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