スコットランドの独立は取り敢えず見送りとなっりましたが、そのスコットランドがイングランドと合併した1707年に創業した百貨店があります。
ウィリアム・フォートナムとヒュー・メイソンの二人が始めた小さなグローサリーショップは、300年を経て老舗の高級百貨店フォートナム&メイソン(Fortnum & Mason)へと発展しました。
クオリティの証、「ロイヤルワラント」
英国王室御用達の称号、それが「ロイヤルワラント」です。
この名誉ある称号を獲得するためには、英国王室御用達商人委員会の審査からロイヤルファミリーによる最終承認まで、多くの厳格な審議に合格しなければなりません。
ヴィクトリア女王の時代から、フォートナム&メイソンはその優れた品質とサービスで、これまでに数多くのロイヤルワラントを授与されてきており、現在でも、エリザベス2世女王とプリンス・オブ・ウェールズ(チャールズ皇太子)2つのロイヤルワラントを所持しています。
それでは、時代を越えて英国人の信頼と憧れのブランドであり続ける百貨店フォートナム&メイソン(F&M)について解説していきましょう。
その歴史
【1707年、創業】
フォートナム&メイソンの歴史は、ウィリアム・フォートナムとヒュー・メイソンがささやかなグローサリーショップ(食品雑貨店)を開店させたことから始まります。
彼らの店がオープンした1707年は、イングランドとウェールズにスコットランドが加わり、グレートブリテン王国(北部アイルランドは含まず)が生まれた年に当たります。君主はアン女王でした。その頃、我が国では江戸幕府の成立からおよそ100年と少々、その年は元禄の後の宝永4年で、将軍はまだ5代綱吉ですが宝永大地震の発生と富士山が大噴火した災害の年として歴史に名を留めています。
さてその後、2人の店は瞬く間に王室と貴族階級の間で評判を高めて、やがて高級百貨店としての地歩を固めながら発展していきます。そして以降300年以上にわたり、英国の盛衰と共に歩んできました。
【1714年~】
フォートナム&メイソンは、ジョージ王朝の始まりの時期にその最初の基盤を確立していきます。この頃は英国が世界の中心として大きく発展し始めた時期でもありました。
【1744年~】
その後、英国のインド経営と連携して、東インド会社と深い関係にあったフォートナム&メイソンは、珍しくてユニークな商品を扱う百貨店として、当時のトレンドの最先端を走っていました。
【1794年~】
英国郵政省管轄の中央郵便局が設立される前の時代。フォートナム&メイソンは郵便事業に進出し、本店には手紙の投函箱が設置されました。1839年に中央郵便局が設立されて、翌年、ビクトリア女王の肖像が印刷されたペニーブラック(ペニー切手)が発行される1年前まで、この郵便事業は続きました。
【1811年~】
ジョージ王からウィリアム王、そしてビクトリア女王の時代。産業革命の進展と大英帝国の世界的な勢力拡大を背景に、フォートナム&メイソンはいよいよ影響力と名声を増していったのです。
【1815年~】
フォートナム&メイソンは、ナポレオン戦争で戦う大英帝国の兵士たちに、常に潤沢で美味な食糧を供給していました。はちみつ、ドライフルーツや香辛料、そして特にジャムは、戦地の兵士たちが喜ぶ食品でした。その内容に関しては当時のタイム紙などでも紹介されています。
【1846年~】
フォートナム&メイソンの経営者、リチャード・フォートナムが従業員に1,500ポンド(現在の貨幣価値では約50万ポンド)のボーナスを支払いました。サービスの向上のためには、現場の従業員に手厚い待遇を施す必要があると考えてのことです。またその数年後には、啓蒙的な経営陣により、希望するフォートナム&メイソンの従業員の全員が労働組合に加入することが認められました。
【1851年~】
1851年の万国博覧会は大英帝国の産業振興に大きく貢献しました。この博覧会でフォートナム&メイソンはドライフルーツとデザート各種の輸入業者として最優秀賞を獲得しましたが、それ以上に、当時の英国上・中流階級の人々の食習慣に大きな影響を与えました。それがF&M発祥といわれるハンパー(hamper:食べ物などを入れるふたつきの籠)です。
フォートナム&メイソンは、万国博覧会から工場生産製品を運搬し組み立てて完成するという「プレハブ」の概念を学び、調理・盛付け済み高級料理を考案しました。
それらの食品をハンパーに入れて屋外のイベント先に持ち込んで、豊かで贅沢な食事をする習慣を英国に根付かせたのがF&Mなのです。
ちなみに、ここでいう屋外イベントとは、アスコット競馬、オックスフォード大学とケンブリッジ大学対抗のボートレース、ヨーロッパ最古のボートレースであるヘンリーレガッタ、ウィンブルドンのテニス大会、世界で最も有名なクリケット競技のローズやトゥイッカムナムのラグビー戦などです。
【1855年~】
クリミア戦争に際して、ビクトリア女王が直々に「スクタリのナイティンゲールに大量の濃縮ビーフティー(病人用牛肉スープ)を直ちに発送せよ」とフォートナム&メイソンに命令しました。こうしてクリミアに向かうすべての補給船には、F&Mのラベル付きの軍需食料品が積まれたのですが、その食料品を狙った盗賊が蔓延(はびこ)ったといいます。
【1876年~】
アレクサンダー・グラハム・ベルによる電話の発明以降、フォートナム&メイソンの商品は、ロンドンはもとより遠隔地からも、多くの調理済食品の注文を受けることになりました。
【1886年~】
米国の若き食品業者ヘンリー・ジョン・ハインツとの交渉の結果、ハインツの缶詰「ベークドビーンズ」の取り扱いを始めました。これにより英国に初めてベークドビーンズが広がったのですが、最初は高価な舶来品でした。
【1914年~】
第一次世界大戦が勃発、フォートナム&メイソンの従業員たちも多くが出征しますが、帰還後にも以前の職に復帰することを保証されていました。また戦場では鼠(ネズミ)による食糧の被害が多かったのですが、これには金属製の缶詰が有効だということをF&Mは知ります。
【1922年~】
この頃、フォートナム&メイソンには、「エベレスト登頂」を目指した探検などを代表とする遠征探検隊を顧客とする専門販売部門がありました。こうして当時の遠征探検隊員にとっての各種の必需品が、F&Mから遥か遠いアフリカやヒマラヤへと渡っていきました。
また、ハワード・カーター率いるツタンカーメンの遺跡発掘隊が、エジプトの数々の古代遺物や美術品を、英国王室御用達であるフォートナム&メイソンの刻印のあるワイン箱を使って分類・搬送したといいます。
【1925年~】
食料品以外の新部門が次々に誕生。婦人服装飾品、子供服、台所用品と香水が取扱いのラインナップに加わりました。
【1930年代】
経済的に急成長する米国において、F&Mもニューヨークのマディソン・アベニューに出店しましたが、間もなく世界大恐慌の影響が押し寄せて来ました。しばらくは暗黒の時代が続きます。
しかし、新たにロンドン近郊のカウズに支店を設け、そこから毎年恒例のヨットレースの観客のために、自らのモーターボートでフォートナム&メイソンの食品を運搬していました。
また、1935年のジョージ5世25周年祝賀会では、多くの高級品に対する注文に関して特別部門を設けて対応しました。
【1940年代】
第2次世界大戦が勃発。フォートナム&メイソンは、各種軍需品を供給しようと軍人専用部門を設置することにしました。食事に関するもの以外にも、兵士たちが戦場での生活に必要とするありとあらゆるものを扱っていました。
またこの頃、フォートナム&メイソンは、従軍女性運転手用に膝上までを覆うストッキングを考案し特許権を取得したりもしています。
【1964年~】
困難な大戦期を耐え抜いたフォートナム&メイソンの本店正面に、1964年には有名なフォートナム時計が設置されました。ビッグベンと同じ鋳造工場で作られた18個の鐘が15分おきに心地よい音色を響かせ、毎時ごとに創業者のフォートナムとメイソンの人形が姿を現します。
【1984年】
F&Mの従業員の“Do They Know It’s Christmas?”のシングルレコードを販売するべきとの主張を受けて、フォートナム&メイソンは慈善活動的なレコード販売に踏み切りました。
【2004年】
この年の3月に、フォートナム&メイソン・ジャパン社を設立。同年10月には、「フォートナム・アンド・メイソン・コンセプト・ショップ」第1号店を、日本橋三越本店新館にオープンしました。
その後、名古屋、京都、仙台、横浜、福岡など日本各地にネットワークを広げて12ヶ所のコンセプト・ショップを展開しています。
英国ではフォートナム&メイソンの成功の秘訣に関して、代々、英国王室と密接な関係を維持しつつ、政治的には中立的立場を維持してきたことが、今までに至る繁栄の理由のひとつとされています。
伝統的だが革新的、そして保守的でありながら常に最新トレンドの発信源でもありました。しかしフォートナム&メイソンの礼儀正しさと卓越性という根本的な価値観は、いつの時代にも変わることはないでしょう。
因みにブランドカラーは、「オー・デ・ニール(Eau de Nil/ナイルの水)」と言われれる、モダンな水色基調のデザインです。
ピカデリー本店
バッキンガム宮殿にほど近く、人通りの絶えないピカデリーの一角に建つ荘厳な本店は、ロンドン随一の優雅なウィンドウ・ディスプレイでも有名です。
四季折々の風情に合わせて設営されるその芸術的なディスプレイは、ロンドンに暮らす人々に季節の変化を知らせる、ピカデリー街のシンボルとなっています。
しかし、実際にこのロンドンの本店を訪れてみると分かりますが、百貨店といっても意外と小さな佇まいです。伝統的に高級食糧品を中心としたこだわりの品揃えであり、何でもござれの総合デパートとは趣を異にしています。
2007年の創業300周年にあたり、フォートナム&メイソンのピカデリー本店は大々的に改装されました。
フードフロアを以前の倍の規模となる地階と1階の2フロアに拡張して、中央部分に豪華な螺旋階段を設置しました。また、地階から最上階までの吹き抜けには、天窓からの外光が差し込み、寛げる開放的な雰囲気となっています。
特に伝統の食品関連の充実度は素晴らしいものがあります。食事処も従来の3つから5つに増やして、レストランの他にも2012年にリニューアルされた最上階のお洒落なカフェや、英国内最大級のコレクションを誇るワインバー、フィフティーズ風のアイスクリームパーラーなど、上質のサービスと美味しさに溢れた空間となりました。まさに「食の殿堂」と呼んでも過言ではありません。
もちろん食品以外の、紳士や婦人向けの小物類などの厳選されたギフト用商品なども充実しており、上品で高級感溢れるギフトを選ぶのにも優れた品揃えとなっています。
尚、フロア構成は以下の通りです。
・4F:カフェ「ダイアモンド・ジュビリー・ティーサロン」
・3F:紳士用小物、革製品、文具、ギフトサービス
・2F:婦人用小物、ジュエリー、化粧品、香水、ベビー用ギフト、バス用、 ベッドリネン、ビューティートリートメントルーム
・1F:ハンパー、キッチン用品、テーブルウェア、パーラー「ザ・パーラー」、 カスタマーサービス(VAT還付手続き)
・GF:食品(コーヒー、紅茶、菓子、ジャム等)、べーカリー、レストラン「ザ・ ギャラリー」、「ザ・ファウンティン」
・-1F:食品(肉、魚、野菜、果物、チーズ、調味料等)、ワイン、スピリッツ、 デリカウンター、ワインバー「1707」
<DATA>
Fortnum and Mason
住所:181 Piccadilly, London W1A 1ER
TEL: 0845 300 1707
アクセス:Piccadilly Circus駅より徒歩5分
営業時間:10:00~21:00(月~土曜)、12:00~18:00(日曜)
定休日:なし
※イースター(3~4月頃)やクリスマスなどの時期は営業時間や営業日が変わりますので、訪問の際はHPで事前に最新情報を確認してください。
※本文に書き忘れましたが、本店の屋上で飼っているミツバチの蜂蜜を、毎年数量限定で販売してます。
公式HP ⇒ Fortnum and Mason
そう云えばある意味、日本の「デパ地下グルメ」のルーツはここなのではと思いたくもなります・・・。(意外とリーズナブルな)地下の食品や惣菜売場の美味しそうな雰囲気は、とてもハンパじゃありません!!
最上階のカフェでのアフタヌーン・ティもお洒落ですが、必ず予約することをお勧めします。
-終-
【注意】本記事の紹介内容(扱い商品や各階の配置など)は、時期により変更となっている可能性もあることを、宜しくご留意ください。
関連記事はこちらから ⇒ 英国の老舗百貨店 ハロッズ(Harrods)
【参考動画】
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