推理小説のファンならば、多くの人が知っているP・D・ジェイムズ女史。その彼女が残念ながら亡くなったという。
そう云えば、昔はダルグリッシュ警視シリーズなどは随分と読んだものだったが・・・。
AP通信が伝えたところによると、英国の著名な推理小説作家フィリス・ドロシー・ジェイムズ(P・D・ジェイムズ、P. D. James)が英国オックスフォードの自宅で27日に死去したという。享年、94歳。
ジェイムズは1920年に英国のオックスフォードに生まれた。幼少期は苦労して育ち、早くから小説等の執筆には興味を抱いていたが、定収入を得るために公務員となり、英国々民保健サービス局(National Health Service、NHS)の職員や内務省の法整備や警察・捜査関係機関に勤務し、法医学関連の業務にも関わったと云う。また、こうした経歴が後に推理小説を書く上で役立ったとされる。
処女作は42歳の時に発表したアダム・ダルグリッシュ主任警部(後に警視から警視長へと昇進)を主人公としたシリーズの第1作『女の顔を覆え』(1962年)であり、1977年頃に邦訳を読んだ記憶がある。
以降、筆者は、『ある殺意』(1963年)、『ナイチンゲールの屍衣』(1971年)、『黒い塔』(1975年)、『死の味』(1986年)、そして『策謀と欲望』(1989年)と読み進めていった。シリーズのすべてを手にした訳ではないが、1975年~1990年くらいにかけて随分と楽しませてもらったものだ。
皆、ダルグリッシュを主人公としたシリーズで、彼は警官でありながら警官らしく見えない。警官というよりも(副業の?)詩人であることが強調されている。この警察幹部でありながら知的で礼儀正しい紳士を探偵役に起用したことが、ジェイムズの成功の第一歩だった。
若き女性探偵コーデリア・グレイがデビューする『女には向かない職業』(1972年)は、その後の欧米における女探偵ものが台頭する切っ掛けとなった佳作であり、ダルグリッシュものの番外編といった位置づけであるが、当時、知的で美しく高貴なコーデリアという姫? に魅せられた読者は多かった様だ。
そのコーデリアが警護役として招かれた孤島(クローズト・サークル)で推理を繰り広げる『皮膚の下の頭蓋骨』(1982)は、レトロ趣味が極り、ロマネスクな香りが強く漂う。しかしその人間関係の描写が延々と続く大作の読了には、やはりある種の忍耐が必要だ。
個人的には、そのあまりの(直接謎解きには関係がない)心理・情景描写の丹念さが窮屈に思える場合があり、それが彼女の作品全般にみられる「重さ」を感じる一番の原因だろう。しかし、その脇道も含めた描写の細やかさが独特の味わいとなってジェイムズ作品の魅力となっているとの指摘も多い。
またP・D・ジェイムズの小説は、本格推理小説の王道たる重厚で緻密な構成と巧妙な伏線の設定に加えて、時に精神疾病や薬物中毒、そして児童虐待などの現代的なテーマも取り上げるといった作風でも知られている。
その後の代表作には、全人類から繁殖力が失われた世界を描いた(一種のSF?)『人類の子供たち』(1992年:映画『トゥモロー・ワールド』の原作)、アダム・ダルグリッシュが主人公の推理小説『殺人展示室』(2003年)や『灯台』(2005年)、それから、英国人作家ジェーン・オースティンの『高慢と偏見(Pride and Prejudice)』の数年後という設定で書いた『高慢と偏見、そして殺人』(2011年)などがあり、英国や米国では映画化されたり、テレビ番組化されたものも数多くある。
1991年には、彼女は長年の功績を認められ、バロネス(Baroness:女性に与えられる男爵位)を授けられている。
またキャメロン英首相も訃報に接し、自らのツィートで、「P・D・ジェイムズさん死去の報を聞き悲しく思います。英国の偉大なミステリー作家のひとりで、多くの読者に興奮や感動を与えた人でした。」と述べたと云う。
英国には、古くはミード夫人やオルツィ、そして大御所クリスティをはじめとして、ドロシー・セイヤーズやマージェリー・アリンガム、パトリシア・モイーズ、そしてルース・レンデルなどの女流推理小説作家が活躍する土壌が伝統的にある様だ。
そして間違いなくP・D・ジェイムズも、その連なりの中で重要な位置を占めた作家であった・・・。ご冥福を祈る。
-終-
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