若い中国人の友人と話していて気付いたことがあります。彼女が言うには、「昔から日本のアニメが好きだが、中国にいる時は不思議だった。なんで日本の中高生は遊んでばかりいるのかな?」
そうなんです、中国の若者は日本のアニメで描かれている中高生の日常には違和感を抱いている様なのです・・・。
中国の大学受験事情
日本では韓国の受験戦争の厳しさがよく報道されたりしていますが、中国の状況も、韓国に引けをとらないほど過酷なものだそうです。良い大学に入らなければ人生のお先は真っ暗で、その後の生活のすべてが受験戦争に勝ち残れるかにかかっているのです。
一流の大学を卒業していないと、一流の企業には入れないし、当然ながら共産党や役所での栄達は望めません。
■「高考」とは
ところで中国には、日本のセンター試験に当たる全国一斉の学力試験があります。全国普通高等学校招生入学考試といい、略して「高考」と呼ばれています。
中国には私立大学自体が極めて少なく、多くの人々に認められている著名な私立大学は存在しません。その為、一流大学へ進学する道は「高考」を受験して優秀な結果を獲得して国立/公立大学へ進学するしかないのです。
また浪人して再受験するには、一学年後輩の現役の高校3年生に交じって出身高校で共に勉強することになりますが、そういう人はほとんどいないと云います。全てと言ってよい人たちが、人生の選択をただ一回限りの「高考」に賭けて勝負しているのです。
受検生たちは「高考」の試験後に自己採点をします。その結果を参考にして入学希望校を決定し、願書に第1から第3希望までの大学名を記入して提出します。その後、合格通知が届いてみて、はじめて自分の合格した大学が判るという仕組みです。
こうして苦労の末に入学した多くの中国の大学では、日本や欧米の大学とは異なり、日本の専門学校の様なカリキュラムが主で、専攻分野に即した実践的な職業訓練タイプの授業が多いそうです。(もちろん、すべてではないでしょうが・・・)
即ち大学での専攻が、卒業後の就職に直結しているのです。言い換えれば、大学受験でその後の就職先もほとんど決まってしまい、極論すれば「高考」の結果で人生が決まってしまう様なものなのです。
■中高生たちの日常
前述の中国人の友人(仮名:朱妍さん)によると、中学生くらいからはひたすら勉強漬けの毎日で、部活動やクラブ活動などの時間はまったく無いそうです。更に、これは日本にも似た制度がありますが、高校生の途中からは本人の選択する受験科目のみを学習するカリキュラムのようです。
彼女曰く、「中学、高校の頃に関してはほとんど良い想い出はありません。毎日毎日、勉強ばかりで本当に他は何も無いのです。勉強を終えて寝るのはいつも深夜遅く午前2時過ぎでしたが、次の朝早くには学校の早朝自習に参加しなければなりません。その頃の平均の睡眠時間は3時間~4時間弱くらいでしたから、昼間はすごく眠い。その眠さに打ち勝って勉強しなければなりませんでした。結局、常に勉強をしていて、とにかく覚えていることすべてが受験勉強に関してです。」とのことでした。
日本のような学習塾も地域によってはあるそうですが、一般の公共学校が塾や予備校のような機能も備えており、早朝や放課後の補習も含めて膨大なサポートを受験生に提供しているといいます。
その様な生活には疑問はなかったのか、という私の質問に対して「周りの誰もが同じ環境にいたので、あまり不思議には思いませんでした。とにかく大学受験へ向けて一本道だったし、それ以外の選択肢もありません。ただ、家族や親戚の期待や、そこから受けるプレッシャーはもの凄いものがあり、それに負けてしまった友達も少しですがいましたね・・・。そして高考が終わった時の解放感は格別でした。これで受験勉強が終わると思うと、その爽快なことは言葉では言い表せません。」と語りました。
また中国の一般的な若者たちの受験戦争は、今の日本の同世代の人達には理解出来ないだろう、とも言われました・・・。
中国でも人気の日本アニメ
さて、日本のアニメは中国でも大人気のようですが、朱妍さんが面白いことを教えてくれました。
彼女によると、「日本に来る前は、日本のアニメは仲間を大事にしたり、友達との友情を強調するものが多く、自分たち(中国人学生)の境遇と比較するとなんだか違和感があるなと感じていました。」、また「中国の一般的な中高校生たちにとって、生活の最も重要な部分は受験勉強であり、同級生は互いにライバル関係にあります。日本のような部活動などは盛んではなく、友達や仲間と一緒に活動するという経験はほとんどありません。」、更に「チームワークや友情を大切にしたり、体験することもまずありません。」と話します。
「きっと、私だけではなく、同じく違和感を感じる中国人のアニメ・ファンは多いと思います。」とのことでしたので、そこで、朱妍さんの中国人の友達の声も聴いてみました。
「漫画やTVアニメ、ドラマなどを通して知った日本の中高生の生活って、なんであんなに毎日お気楽に過ごせるんだろう? と思っていた・・・。」
「部活動やアルバイトをする余裕があることが信じられなくて、その内容を嘘だと疑っていました。」
「漫画やアニメの姿は現実とは大幅に違うとしても、日本の中高校生の生活の自由度には驚いていたが・・・、その甘さには、しまいには腹が立ってきた。」
「きっと誇張があるんだろうけど、我国と比較した場合、まるで別世界だと感じていました・・・。」
「アルバイト!? とかに励むなんて、ずいぶんと余裕がある話だよ。私達の国では受験優先で、そんなことをやっている時間的な(精神的にも)余裕なんて全然ないしね。」
この様に、朱妍さんと同じ様な意見が多く聴けました。
中国の高卒者たちの姿
また意外な話としては、もともと大学進学を目指していたグループから脱落した者、つまり最終学歴が高卒者(もしくはそれ以下)についての話が興味深かったです。
「我国では、進学コースから外れて大学卒以上の学歴が得られなかったら、もう文化的な生活は一生諦めなければならないのです。」との意見があり、そういったことは現実にはまず無いそうですが、高校の同級生が大学へ進学出来ずに社会人となってしまった場合、もうかつての同級生、つまり同一のコミュニティの一員でいることは難しいとのことでした。
その後の収入や社会的な地位の違いから、もともとの同級生との関係は断絶してしまい、そもそも互いに同じ目線や価値観で物事を見たり論じることが出来なくなってしまうそうです。つまり日本の漫画やアニメなどで、高卒の同級生と大学を出た人物が同窓会などで仲良く談笑しているシーンなどを観て、中国人たちはビックリしているのでした。
やはり、凄まじいばかりの階級社会なのですね。
また、その見方が本当に正しいかどうかは別にして、高卒の地位や収入で結構普通の生活が送れる日本の社会の成り立ちに驚いたそうです。(私達からみると少々大袈裟に思えますが)彼ら中国人のアニメ・ファンはそういった状況を漫画やアニメを通して知る訳で、これらのコンテンツにより日本の社会の成熟度や余裕といったものを感じるそうです。
彼らによると、高校を卒業する際に進学するか就職するか、といった形で進路について悩むことなどは想像すら出来ないとのことであり、中国の普通の高校生にとっては進学する以外の選択肢は無い、と笑いながら言っていました。
今回お話を聴いた中国の若者たちも、実際に日本に来てみて、日本でも塾や予備校に通ったり、寝る間を惜しんで受験勉強をする学生がいることを知ったといいます。
漫画やアニメでは、主人公たちの学校での様子は描かれていても、毎日夜遅くまで学習塾に通って勉強している姿などはあまり出てきませんからね。きっと、その辺に誤解の原因もあるようですが・・・。
・・・そして、やっぱりそうだよネ、日本でも受験勉強は大変なんだ、と彼らも妙に納得し安心していました(笑)。
-終-
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