ネコ好きな私は、先週(2月2日)発表されたある論文が気になりました。その発表によると、人間によって野生から飼い慣らされたネコが、世界中に広まって行った経緯を追跡する手法が開発されたとのことです・・・。
猫(以下、ネコ)は人間にとって代表的なペットであり、犬や馬などと並んで古来より人間社会の一員(一匹?)として、大変、馴れ親しんできました。斯く言う私も、ネコ大好きのひとりです。
ネコの変化
もともと野生動物の「ヤマネコ(Felis silvestris/Wild cat)」が人間に懐(なつ)いた結果、やがて人間と共生する「イエネコ(Felis silvestris catus/Domestic cat もしくはHouse cat)」となった訳ですが、ヤマネコがイエネコへと変化していく上で大きな影響を与えた遺伝子が明らかになったのは、比較的最近のことです。
オクスフォード大学やワシントン大学医学大学院などでの研究によると、ヤマネコからイエネコへと遺伝子が切り替わった正確なポイントを調査した結果、ネコのゲノム(全遺伝情報)のシークエンス配列を識別することで、ヤマネコがどのようにして人間や他の(犬などの)動物に馴れていったのかが解かりました。
この研究により、本来、肉食獣であるヤマネコが食生活を大きく変化させた脂肪代謝に関する遺伝子など、その生態がイエネコへと変化していく上で大きな役割を果たした281もの遺伝子が明らかになったのです。
また、研究チームが22種のイエネコのゲノムについて、中近東地域原産の「リビアヤマネコ」と他の「ヨーロッパヤマネコ」などを比較調査した結果として、野性的で凶暴な性質から人間に懐いて友好的な性格となる効果を持つ13の遺伝子を発見しており、これらの遺伝子は人間から餌を与えられた時に警戒心が緩むといった性質や、人間と同じ場所に自らの居住エリアを設けることを許容する効果がある、と考えられています。
更に今回発表された研究成果は、細胞のDNA配列に入り込むウイルスの一種に感染した痕跡を調べることで、私達ち人間が約1万年近く前に中近東地域で飼い始めたヤマネコたちが、その後、人間と共に世界中に広がった経緯を追跡する手法を、京都大学ウイルス研究所の宮沢孝幸准教授らのチームが開発したもので、2月2日の英国科学誌『サイエンティフィック・リポーツ(デジタル版)』がその発表内容を報じました。
宮沢准教授らは、感染した細胞のDNA配列に入り込む特性を持つ「レトロウイルス」のRD144が生殖細胞に侵入したネコの場合、そのネコの子孫のDNAにも同様の痕跡が残ることに着目したといいます。そして世界中の広範囲に生息しているイエネコのDNAを調査し、そこに残るウイルスの痕跡を比較することで、移動の経路や品種の枝分かれを解明する手法を考案しました。
こうして世界各地のイエネコを調べた結果、欧州では平均で約40%くらい、北米では約55%のネコが当該ウイルス由来の物質を保有していることが判りました。ところがアジア地区のネコがこの物質を保有している割合は約4%と極めて少なく、血統の違うネコが各々別々に広まっていったことが裏付けられたとしています。
現実には、ヨーロピアンショートヘアが北欧から英国に移り、その後、1620年にはメイフラワー号に乗せられて北米へと渡り、アメリカンショートヘア、アメリカンカールへと変化したとされていますが、今回の研究結果でも、当該ウイルスの一つについて、北欧のヨーロピアンショートヘアと英国のブリティッシュショートヘア、そして北米のアメリカンショートヘアやアメリカンカールというイエネコに共通して感染していた痕跡が見つかり、イエネコの広がりと品種の分化の実態と一致しました。