《病気治癒》
宇喜多秀家に秀吉の養女として嫁いだ、利家の四女である豪姫(樹正院)は度々原因不明の病に罹り、それは狐が憑いたのが原因だとも云われていた。
(そこで豪姫を可愛がっていた秀吉は、狐といえば稲荷神社の使いと考えて「豪姫から出ていかぬのならば、日本中の狐を根絶やしにするぞ」という恫喝の書状を総本社である伏見神社に送りつけたが、効果は無かったという話も伝わる)
ある時、またまた病に臥せっている豪姫を心配した利家は、秀吉に頼み込んで大典太を借り受け、豪姫の枕元に守り刀として置いた。すると病は三日後には好転したので、利家は大典太を秀吉に返した。
ところが、大典太を返した途端に豪姫の病は再発してしまう。そこで利家は再び大典太を借りて豪姫のもとへ運び、そして病が好転すると秀吉に返却するが、大典太が遠のくとまた病が重くなるといったことを繰り返した。
この経過には、さすがに秀吉も見るに見兼ねたと思われ、大典太を正式に利家に譲り、以降は豪姫の病気も完治したという。
しかしこの説には幾つかの異説があり、病気治癒の対象が豪姫ではなく利家の三女麻阿であったり、大典太は一旦秀吉から徳川家康を経由して2代将軍の秀忠にわたり、その秀忠から前田利常の長女である鶴亀の病魔退散の為に前田家に度々貸し出された末に贈られたのだ、とする説などがある。
(但し、慶長3年8月に、死期を悟った秀吉が単に形見分けとして利家に分け与えとする説もある)
この様に大典太光世には強い退魔の能力があると考えられたようだ。つまり大典太は最強の守り刀であった。そしてもう一つ、その霊験を後世に残す逸話がある。
《鳥とまらずの蔵》
大典太光世の不思議なパワーを示す逸話としては、この様なものもある。
それは、前田家の所有になってからまるで祀られるように大切に保管されていた大典太だが、その所蔵されていた(わざわざ新たに建設されたという)蔵の屋根には、その強い霊力の為にか鳥などがとまることが出来なかった。
時折、雀などの鳥が蔵の屋根にとまろうとするのだが、屋根に降りた鳥は雷に撃たれたように急死してしまい屋根から真っ逆さまに落ちてしまったという。その為に、蔵の周りの地面には鳥の死骸がよく転がっていたらしい。
ちなみに前田家の所有となってからは、普段は立派な唐櫃(からびつ)に納められて、しめ縄で封印されていた。そしてその時々の当主のみが大典太を見たり触れることが許され、年に一度、当主が自ら刀の手入れを行っていたと云われている。
延享3年(1746年)に前田家当主を継いだ利安(重煕)は、大典太と小鍛冶の薙刀を金沢から江戸に取り寄せて、その後は江戸に置かれたようである。
文化9年(1812年)3月に本阿弥重郎左衛門が加賀藩江戸藩邸において前田家所蔵の名刀の手入れをした際の記録にも大典太の名が残る。また安政3年(1856年)に江戸において本阿弥喜三次に研がせたという記録もある。
さてこの名刀の実際の切れ味であるが、 寛政4年(1792年)8月19日に江戸千住の小塚原で行われた試し切りでは、下記の通りの記録を残している。
幕府の公儀御様御用(こうぎ おためしごよう)首斬り役の山田浅右衛門吉睦が大典太光世で試し切りを行ったが、1回目は一ノ胴、2回目は両車(臍の辺、骨盤あたりで一番切断が難しい部位)を試したところ、ともに土壇に切っ先が五寸(15cm以上)程くい込んだとされる。
3回目は骨の多い雁金(腋の下)を試したところ、同じく土壇まで届いたので、4回目には三つ胴を試したところ、積み重ねた罪人の死体を2体の擦り付け(鳩尾)を切断し、3体目の一ノ胴の少し上を切り裂いた上で背骨で止まったと云われている。
1957年2月19日に国宝に指定された。現在は前田家が所蔵していた貴重な文化財を保存・管理する前田育徳会が保管している。
さてこれで《名刀伝説》で解説してきた 天下五剣も、残りは「数珠丸恒次」のみとなった。そして次回はその「恒次」の予定であり、乞うご期待、といったところだ!!
-終-
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