《都市伝説を語ろう》 「アインシュタインの予言」は偽書だった!! 〈248JKI35〉

そこで中澤氏は、この言葉のルーツを調べてみた。その結果、戦後における古いものでは、元陸軍大将であった今村均の1956年(昭和31年)の著書『祖国愛』に、ドイツの法律学者シュタイン博士の言葉として引用されている。その後、同じ内容の短文が「アインシュタインの予言」として、名越二荒之助氏の著書である1977年(昭和52年)の『新世紀の宝庫・日本』等において発見された。近年のものでは、平成14年(2002年)の清水馨八郎氏の『日本文明の真価』(祥伝社黄金文庫)や、平成17年(2005年)の波田野毅氏の『世界の偉人たちが贈る日本賛辞の至言33撰』(ごま書房)でも紹介されているという。

更に戦前に遡って調査を進めると、「アインシュタインの予言」に趣旨・内容が近似した文章「スタイン博士の至言」が、1928年(昭和3年)の田中智學(たなか ちがく)の著書『日本とは如何なる国ぞ』という本のなかに記載されているのが確認できたという。田中は、戦前・戦中の我国の国体思想に大きな影響を与えた、『八紘一宇』という言葉の提唱者でもある宗教家だ。

しかし田中の著作の中では、その文章の出典元はローレンツ・フォン・シュタインという明治憲法成立にも大きな影響を与えたドイツの法学者だとされていた。(今村大将の引用元は田中の著述であろう)

ところが、中澤氏が調べを進める内に、田中智學が出典元(ソース)としているシュタインの講義録などには、該当する文章がまったく無いことが分かった。

結局、シュタインが田中が引用した文章に関して実際に語ったという証拠は発見されず、中澤氏は最終的には、田中智學が自らの思想をシュタインに寄せて語った文章の可能性が高いという結論に達した。

おそらく田中は、戦前の我国の欧米コンプレックスを背景として、ヨーロッパ人の高名な学者シュタインに日本賛美の言葉を語らせることで、自らの主張に箔を付けたかったのだろう。

 

こうしてオリジナルはシュタインの言葉でもなく、田中智學が自らの思想を基に創作したのだと中澤氏は推測している。

彼の「シュタインの言葉」について、色々な人々が引用を繰り返す内にどこかで「アイン」がついて、シュタインに比べて遥かに著名なアインシュタイン博士の発言を基にした「アインシュタインの予言」だということになってしまったと考えられる。

 

この様な経緯から、中澤氏はこの出元不明の「アインシュタインの予言」の安易な引用(のそのまた引用/孫引き)には注意を促している。

また、「アインシュタインの予言」を取り上げた2006年(平成18年)6月7日付けの朝日新聞の記事において、アインシュタイン研究者で東海大学教授(物理学史)の板垣良一氏も、この言葉はアインシュタイン博士のものではないと断言、「彼はキリスト教徒でもユダヤ教徒でもなく、『神』にこだわらない人だった。日記や文献を詳しく調べてきたが、彼が天皇制について述べた記録はない」としている。

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