ハラールとは何か? 《前編》 〈2417JKI24〉

ハラール777TKY201101130380
イマーム・アリ・モスク

増加するイスラム(ムスリム)圏からの観光客等に対応して、最近、「ハラール(ハラル)」の認証を取得する飲食や宿泊などのサービス業の業者が増えていますが、ではその「ハラール」とは何でしょうか?

近頃ではよく耳にするようになりましたが、まだご存知無い方の為に、前編・後編に分けて簡単にご紹介しましょう。

 

《ハラールとは》
イスラム社会や教徒にとってイスラム法で許された=合法(正しいもの・こと)を「ハラール(حلال‎ Halāl)」といい、非合法な場合を「ハラーム(حرام‎ harām)」と呼びます。そして、最近ではそれ以外のハラールではないものの事を、「非ハラール(non halāl)」と称することもあるようです。尚、ハラームは「禁じられた」という意味で、ハーレムと同じ語源であるとの説もありますが、やはりハーレムは不徳で不浄な場なのですね(笑)。

ハラールは、日本語では「ハラル」と表記されることも多い様です。ローマ字で書くとHalalですが、ネイティブな発音を聴くとHalaalとなります。そのため、カタカナで記述する場合は「ハラール」の方が正しいようですね。

尚、ハラールとハラームの中間に「シュブハ(شبهة shubha)」 という概念があるようで、これは「疑わしきもの」「不明なもの」を表すようですが、本稿での解説は割愛させて頂きます。いくつかの文献によれば、「シュブハな食品は可能な限り食することを避けるように」などと表現されています。

また、不浄なものを意味する「ナジス((نجس najyas)」については別途の記事で触れる予定です。

 

さて我国でハラールと聞くと食べ物に関する規制の様に思われがちですが、広義に用いられる時は食品などに限定されずに、その対象がなんであろうとイスラム法において合法(正しいもの・こと)であるか否かを示します。

日本人には少々大袈裟に見えますが、ハラールかハラームであるかはイスラム教徒の通常の生活全般における全て事柄が当てはまります。(物事がハラールであるかハラームであるかを決めるのはアッラー(神)のみとされますが)ハラールであるものは清浄で安全であり、要するに人間が良識を持って考えて問題ないと思うものはハラールで、その逆がハラームです。ハラームなことには賭博や高利貸し・利子、婚前交渉や同性愛、そして姦通、男性が女性の服装を着て格好をする女装の性癖やまたその反対の行為(男装)などもハラームとされています。

ハラームなものをハラールと偽ることは当然ながらハラームであり、ハラームな行為をする人はもちろんハラームですが、その行為を手助けすることもハラームとなります。そしてハラールかハラームか判断がつかず、不明と思われるものは避けるべきでとされています。

 

狭義な意味での「食に関する以外の物(商品・製品など)の具体例」としては、衣服や家電製品、玩具などにもハラールは適用されるのです。衣服であれば、ハラール・マーク付きの物はイスラム教の教義が禁止している女性の体の露出に違反していないことを示しますし、「ブルキニ(burkini, Burqini)」というハラールを取得している水着などもあります。

また子供向けのゲームなどにおいても、ハラール・マークがイスラム教で禁止されている賭博性がないことを保証する印として用いられたりもするのです。

そして公的な審査機関(後述)から、対象物がハラールと認められれば認証を得てハラールのマークなどを付与する許可を取得できるのです。

 

特に注意が必要な点としては、イスラム原理主義の強い国では法律でハラールでない商品や製品の販売や輸入流通が禁止されている国もあり、それらの国々においてハラールではない物を販売したり、同様のサービスを提供した場合には犯罪とされ、ハラールでない物をハラールであると偽装することも重罪とされていますから、ハラールやハラームに関して無知なイスラム教徒以外の者(特に日本人)は慎重に対応する必要があります。

 

ところでハラールにはイスラム法下において合法であること以外にも、もう1つの意味として、健康的で清潔なもの、安全や安心を担保したもので、更に高品質であることなどの意味もあるとされています。

これは「ハラール タイバーン(حلال طىبان )」と云い、「良質で清らかなものを提供する」という意味合いであり、その為にハラール認証を受ける際にはイスラム法に乗っ取った基準をクリアする事はもちろんですが、対象物の製造工場や関連する施設の衛生基準はタイバーンで定められた基準もクリアしなければなりません。

日本国内では、極めて不衛生な状態での食品製造などの可能性は低いものの、諸外国においてはまだまだ衛生状態の劣悪な国も多く、イスラムの法に触れない(イスラム法的に合法の)屠殺方法で処理された家畜であっても、非常に不衛生な方法で保管・管理されていたり輸送していることなどで、製造・運搬環境がハラールの基準値を下回っていると審査機関が判断した場合にはハラール認証が許可されないのです。

イスラム教の教えでは、日々の生活においては身の周りを常に清潔に保つ事が大事とされ、また自らや自身の家族が食するにふさわしい食材・食品しか他人にも供してはならないとされています。そしてこれが、ハラール タイバーンの考えの源泉なのです。

 

《ハラールの取得・認証》
ハラールの適合審査は、「ウラマー(علماء ulamā)」と呼ばれる人々の中でも上位に属するリーダー的な存在で、「ムフティー(مفتي muftī‎)」と呼称される「シャリーア(شريعة shari’a)=イスラム法」の解釈と適用に関する見解を述べることを認められたイスラム教の法学者が行います。そして彼らは「ファトワーفتواfatwā)」を発行する資格を持っており、特定の商品・製品をハラールであると認定するファトワーが出されることがあるのです。

現実には、(有償で)ハラール適合の審査を実施し認証を与える組織・団体/機関が各国に存在していますが、一つの機関の認証が全世界で通用することにはなっていません。

つまり、宗派の違いや意見の対立するムフティーの存在により互いに相反するファトワーが公開されたりすることも多く、現在においても世界的に統一された基準の様なものはなく、個人のムフティーのみならず各国の公的認証機関によっても制度等が異なっているため、ある国(場合によっては特定地域)では禁止されているもの(製品・商品やサービス等)が他国では合法とされていることもあるのです。そこでイスラム教徒によっては、(自分が信頼している)特定のハラール・マーク以外は信用しないという人も多いようですが、自分が信じる以外のハラールとされるものに対して強硬に異議を唱えることは稀なようです。

これは、イスラム教が本来的に他の宗教以上に神と各個人との契約であるとの考え方が強く、ハラールの基準のバラつきを問題視する事は他人の信仰心に口を挟むことと同義となると考えられてもおり、その為にイスラム教徒が自分の考えとは異なる基準のハーラルに異を唱えることが難しいとされているのです。

そこで、昨今ではイスラム諸国の国際会議においてハラールの世界標準の制定が議論されていますが、宗派の相違や各国間の文化や政治・経済情勢の違いなどが理由で、まだまだ合意には時間がかかると言われています。

次のページへ