ハラールとは何か? 《前編》 〈2417JKI24〉

 

《食品に関するハラール》
ハラールに関して、一般的にイスラム世界で食べてはいけない食べ物としてよく知られているのは豚肉ではないでしょうか。

豚だけでなく、犬や狼、そして虎などの獲物を捕獲するために牙や爪がある動物たち(そして何故か啄木鳥)やロバ・ラバなどを食べることも禁止されていますが、それ以外の肉(例えば牛肉や鶏肉)などであっても屠殺方法や調理方法が(イスラム教の規則に従った)正しい手順で行われたものでなければ食べてはいけません。

当然ながら一般の魚介類や穀物類・野菜などを食する為にもイスラム教の掟や規則を守る必要がありますが、その他の(特に食べられない)食材に関しては後編で述べたいと思います。

貯蔵・運搬や調理方法などにも細かい規定があります。その為、実際に食事を行う際に材料のみならず製造・加工や調理方法の過程まではなかなか確認することが出来ないので、イスラム教徒にとってはその食材や食品のトータルの合法性(良し悪し)を判断する為にハラールの(シールの添付などでの)表示が必要となるのです。

また彼らイスラム教徒は飲酒を全面的に禁じられています。間接的な場合もダメで、従ってワインを調理に使用したフランス料理などの西洋料理や日本酒(みりんを含む)などを使う和食、同じく酒類を使用した中華料理やラム酒を使った菓子なども食べることが禁止されているのです。こうした調理の為の料理酒(調理用のアルコール)を使用した料理や食品は、たとえ食材そのものがハラールであってもハラールとは見做されないのです。

 

さて、イスラム教徒が大多数を占めるサウジアラビアやエジプトなどの中東諸国では、身の周りにある食品や食材に関してはハラールであることが当然と考えられていて、普段、人々はあまりその食品や料理の合法性を意識していないとされていますが、反対に、豚肉料理などを多く食する中国系の人種も多数居住するインドネシア等の東南アジア地域では、イスラム教徒の住民や旅行者も相当に意識してハラールかハラームかを確認する傾向が強いようです。

また我国などのイスラム教徒の居住が極めて少ない国や地域では、イスラム諸国からの旅行者や留学生などの為にマークでの表示やシールなどを添付することによって当該の食品などがハラールであることを示していますが、これとは逆にイスラム教徒が多い国や地域ではハラールなものは原則として無表示であり、イスラム教徒以外を対象顧客とした食品に関してハラームの表示がされていることがあります。

 

こうして敬虔なイスラム教徒は普段はハラームを排して生活していますが、彼らも生死を分かつ緊急時にはハラールではない食品を食べることが容認されているそうです。例えば、スマトラ島沖地震でインドネシアのイスラム教徒に対して、外国からの援助物資に豚肉やその関連品などが入っていたとしても食べて良いとするファトワーが出されたことがありました。

しかし逆の事例としては、中国の四川省で発災した四川大地震により被災した中国在住のイスラム教徒は、大変な非常事態であったにもかかわらず、ハラールではない(即ちハラーム)の救援物資の受け取りを拒否する者が多かったといいます。これは、イスラム教徒が少数派である地域においては、必要以上にハラールを守ることが重要視されていることの発露であり、戦争や大災害などの緊急時に接しても、少数派のイスラム教徒にとっては、一旦ハラールを破ると簡単にハラームな環境に飲込まれてしまうのではないかとの危惧が強いのです。

ところが例外的に、「ビッスミッラー(「アッラーの御名において」)」と唱えればどの様な種類の肉でも食べて良いとする世俗派もいるようです。そしてトルコや東南アジアのタイ・フィリピンなど国や地域では、飲酒や豚肉食も平気なイスラム教徒も多くいます。つまり現代においては、それほどハラールが厳格には守られていないイスラム教国もあるのです。

 

《具体的な規制の例、食肉》
牛肉などの食べられる食肉に関しても、下記の規則を守らなければなりません。

合法的な食肉は、対象家畜が食べた餌にハラールに違反するもの(ハラームなもの)が混入してはいけませんし、イスラム教徒が屠殺したものに限られます。但し、輸送などの作業にはイスラム教徒以外の人々が関わっても良いとされているようです。また屠殺の際には、鋭利なナイフ等で「アッラーの御名によって、アッラーは最も偉大なり」と唱えながら喉のあたりを横に切断しなければなりません。

屠殺方法については、電気ショックなどは好ましくないとされていますが、やむなく電気ショック等を使用する場合でも、子牛や子羊、もしくはヤギなどの家畜の種類によって電流・電圧や対象の家畜に電気を流す時間等まで細かく規定されています。

また絞殺や撲殺は禁忌であり、更になんらかの事故や病気で死亡した家畜の死肉を食することも禁忌とされています。

そして食肉の解体処理についても、牛肉の場合は、その頭を「キブラ」(後述)の方向に向けて置き、完全に血が抜けて死んだことを確認してから行う事とされており、また血を食用とすることも禁忌とされており、その為に完全な血抜きを実施しなければなりません。

輸送や保管に関しても、冷蔵庫などのその肉の保管場所や鉄道・トラック等の運搬車両や輸送船などにハラームな豚肉(もちろん生きた豚も含む)などを一緒に積載する事は認められません。

更に肉ではなく野菜や穀物類についても、その栽培の過程で肥料に豚の糞尿などが使用されている場合は禁忌であると厳しく解釈される事もあるそうです。

そして、イスラム教徒にとって豚肉入りの食事から豚肉を取り除いて食しても決してハラールにはなりませんし、もちろんポークエキスが入っているスープやブイヨンは見た目では分からなくとも食することは出来ません。またゼラチンを使ったデザート類を食べることはダメであり、更に豚カツを揚げた油と同じテンプラ油で揚げられた野菜や魚を食することは不可なのです。

-終-

ハラールとは何か? 《後編》…はこちらから

 

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