中医学では気・血・水が健康を支える三本の柱である、とされている。この三つの要素が過不足ない状態で体を巡ることによって健康が維持されているとし、また各々の不足と滞りが各種の疾病を患う根底(ベース)にあるとも考えられている。そこで本稿では、気の不足(気虚)と滞り(気滞)、血の不足(血虚)と滞り(瘀血)、水の不足(陰虚)と滞り(痰湿)、合わせて六つの不健康を招く体質に関して簡単な解説を試みる。
気虚(ききょ)
気の不足するタイプの体質・・・倦怠感・息切れ・冷え性・風邪を引きやすい など
気は元気・気力・やる気の気であり、人の活力の源であり一種のエネルギーだ。そのため、誰でも激しい運動や労働を行うと気が低下したり不足した状態となり、疲労・倦怠や息切れなどを生じ冷え性になったりする。
しかし、しっかりと食事をしてきっちりと睡眠を取れば普通は自然に気は回復するのだが、過労やストレスが継続すると気の回復が大幅に遅れ、また慢性的に気が低下・不足した状態となると栄養や新鮮な空気を吸収する力までが衰え体調全般が不調になる。この様にして気の低下・不足により、身体の活力が大きく低下している状態を「気虚」と言う。体のだるさや倦怠感は、この気虚の代表的な症状である。
気は栄養素を胃腸が消化・吸収しそこから作り出されると考えられている。そのため胃腸が弱かったり機能低下したりしていると、どうしても気が不足することになる。また、精神的なストレスを連続して受けること、つまり極度に「気を使う」ことが気虚の原因でもある。
気は免疫力や自然治癒力を支えている根本の要素の一つであり、気虚になると免疫力が低下し病気に罹り易くなり、また回復力も弱体化する。また花粉症などのアレルギー症状なども表れ易い。
過労や精神的なストレスの蓄積などによって、身体のエネルギーが低下・不足していることにより気虚となっている場合が多いので、気分転換やリラックスを心掛けるとともに、じっくり体力を回復するための良い生活習慣を続けることが重要だ。
気滞(きたい)
気の流れが滞るタイプの体質・・・イライラ・怒りっぽい・不安・憂鬱 など
本来、気は滞りなく体内を一定のペースで巡ることで健康な状態を招くもの。気が順調に巡ると自律神経のバランスもほど良く整うが、滞るとそのバランスも崩れてしまう。その上、精神的に抑圧されたり強度のストレスが続くことで気の巡りをコントロールする身体機能が低下し、様々な症状が表れ、気の流れが滞る状態を「気滞」と言う。
気滞になると自律神経のコントロールがうまくいかず、更に精神的に不安定となり、イライラや怒りっぽくなり、落ち込みも激しくなる。
気は頭部に滞りがちで頭痛を引き起こし易い。また気の巡りを司る臓腑は肝と言われ、肝の経路が体の両側面にあるため気滞の症状は、こめかみの痛みや、両脇の張り、乳房の張りなど、体の側部に出やすい。胃や下腹が張ったり、不眠、高血圧、生理不順などとして現れてくる。特に女性の場合は月経前や排卵期は気の循環が停滞しがちである。
気滞の状態を放置すると、ストレスに益々弱くなり、気の滞りが増し、気と共に体内を巡っている血の循環までが影響を受けることがある。更に心身が疲弊し、気滞の症状が顕著になる場合が多い。
通常の精神的なストレスはもちろんのこと、季節の変わり目や気候の変動、大きな外傷を負 った時、運動不足や暴飲暴食による体の変調なども気滞の原因。特に精神的なストレスはそれを放っておかず、少しでも滞りを感じたら気がスムーズに巡る様子を意識して、ストレスを発散させ気の流れをコントロールすることが大切だ。
血虚(けっきょ)
血が不足するタイプの体質・・・めまい・立ちくらみ・顔色が悪い・肌が乾燥・不眠 など
血の働きが低下し血液の循環が悪くなり、また、広義の血の総合的な力、すなわち身体全体に栄養分や酸素を充分行き渡らせ、老廃物などの害のある不要なものを体外に排出する能力が低下・不足して、血そのものも少ない状態のことを「血虚」と言う。西洋医学でいう貧血と別もので、単に血の量や成分が足りないのではなく、 血の力が不足している状態。
血には体を温める働きがあるが、血虚となると血行も悪くなり、冷えの症状が表れ貧血気味や栄養失調となることが多い。更にホルモン分泌が不調となることで 自律神経がうまく機能しなくなる。
特に女性の場合、当然ながら生理による出血により男性よりは血が不足し易い。偏食の傾向があり単調な食生活を送っている人は、血を生み出す栄養分が不足して血が足りなくなることがある。また、妊娠そして出産は血をたくさん消耗するので、産後はどうしても血虚になりがちである。更に、月経過多などによって血虚になる場合もあり、血虚をそのままにすると、子宮内膜が薄くなったり、生理の周期が短くなったり、不妊などの恐れも出てくる。婦人科系の病気全般に関わる体質であると言えよう。
瘀血(おけつ)
血の流れが滞るタイプの体質・・・頭痛・肩こり・手足の冷え など
血はサラサラと身体の隅々まで廻っている状態が理想だが、何らかの原因でどろどろと粘度が高くなり循環が停滞してくると、抹消の栄養不足が起き老廃物が排出されずに体内に蓄積される。栄養分が届き難くくなると各々の臓器の働きも弱ってしまう。この様な血の巡りの悪い状態のことを「瘀血」と言う。本来、体の中をスムーズに流れるはずの血があちらこちらで滞ったり、血液そのものが汚れてドロドロとなり流れにくくなった状態だ。
瘀血は万病のもとで、循環器全体に及ぶこともあれば、特定の部位に現れることもある。そして様々な症状を引き起こす。血の巡りが大きく滞ると体内のいたるところで痛みが起こり、慢性的な肩こりや筋肉のしこり、関節痛、肌の黒ずみや強度の頭痛など、色々な症状が発生する。
更に瘀血の状態が進行すると、血管の劣化・老化が進むことで生活習慣病を発病し、心筋梗塞、狭心症、脳卒中など循環器系の疾病や、子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科系の病気に発展することもあるので、注意が必要だ。思考力の低下や、モノ忘れといった症状が現れることもある。
また、運動不足や過労と共に精神的なストレスが瘀血の原因となることもある。大きなストレスを急激に受けることで気分が萎縮し、激しく血が凝固して瘀血が発生するのだ。そして、血は冷えると固まる性質があるので、体を冷やさないように注意することも重要だ。
瘀血が、瘀血を更に悪化させる悪循環に入ると、病気の回復が益々困難となる恐ろしい体質である。
陰虚(いんきょ)
水の不足するタイプの体質・・・微熱・耳鳴り・寝汗・から咳 など
水は陰陽の陰に属し、体内の余分な熱を冷まし体を潤す大事な役割を担っているが、水が不足していて身体に潤いが足りない状態を「陰虚」と言う。慢性的な臓器や体組織の障害の場合にも発生する。長引く疾病により体力が低下したり、生来の虚弱体質などにもよく見られる。また人体は陰と陽がバランスを取りながら健康を保っているのだが、何らかの原因で陰が不足し相対的に陽が過剰になっている状態とも考えられている。
血虚が進むと陰虚になるが、陰が不足し熱気が出る場合は陰虚内熱(虚熱)ともいう。水分が不足し体内に余分な熱がこもっている状態だ。体力は消耗しているが、自律神経の興奮や精神の高ぶりのために倦怠感は強いが、気が高ぶって眠れず、体や手足のほてり、微熱、寝汗、落ち着かない様子などが顕著だ。一見、元気がある様に見えるが、これは見かけだけで実際の体力・活力は無いので、周囲としては注意が必要だ。また夕方になると微熱が出るというのも陰虚の特徴的な症状だ。
陰は加齢により低下するので、必要な水分や潤いが不足して、体の色々な部位に乾燥症状が表れてくる。また更年期は陰虚になり易く、のぼせ、ほてり、急に汗をかくなどの症状が表れるようになる。特に閉経前後の10年は陰虚体質になり易い時期なので注意しよう。
陰虚は肺結核や自律神経失調症などの慢性疾患によく見られる。また食べても太らない人や異常に痩せた人などにこの陰虚体質が多い。
痰湿(たんしつ)
水の流れが滞るタイプの体質・・・肥満体・コレステロール値や中性脂肪値が高い・痰が多い など
生もの・冷たいものを大量に食したり、暴飲暴食で酷使された胃腸の機能が低下して働きが悪くなると、水分代謝が低くなり水の巡りが滞るために余分な水分や脂肪分が体内に溜まる。こうして有害な物質や老廃物が蓄積した状態を「痰湿」と言い、人は有害物を体外へ出そうとする。
痰湿では、溜まった水や有害な物質を排出する動きと共に、ニキビや吹き出物、痰、おりものの増加、肥満、倦怠、吐き気、めまい、むくみなどの症状が表れる。痰湿体質は西洋医学的には、高脂血症や糖尿病もしくは糖尿病の予備軍だったりする。体内の水分(津液)がネバ付いてくるので、動脈硬化性の高血圧、脳卒中などを発症する可能性も高い。
痰湿の予防法は万病の対策であり、運動などで代謝力をあげ、体に溜まった余分な水分や老廃物を排出することを心がける。痰湿には、熱がこもるタイプと冷えるタイプがあるが、どちらのタイプも基本的な対策は水分代謝を高くすることだ。
我国の、特に男性にはこの痰質体質が多い。暴飲暴食で脂っこい食事や甘いお菓子などが大好きで、しかも運動不足な人が痰質を放っておくと、突然死、動脈硬化、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など命にかかわる病気にもなるので大いに気をつけよう。
尚、本稿で取り上げなかった実熱(じつねつ)、陽虚(ようきょ)、腎虚(じんきょ)などは、現代の中医体質学における9種類の体質分類と併せて機会があれば別項で解説を試みる予定だ・・・。
( 注意 掲載の画像などは本稿の内容とは関係がありません )
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