1991年の5月、私は大雨の立野駅にいました。
熊本から豊肥本線でハチロクの牽く「あそBOY」に乗り、スイッチバックで有名な立野駅で下車。その後は南阿蘇鉄道に乗り換えて、終点の高森まで。雄大な阿蘇の山々を満喫する予定でした。しかし、その日の熊本県は大雨。景色を楽しむどころか、無事に列車が走るのかさえを心配する状況でした。
南阿蘇鉄道の名物のトロッコ列車がホームに入ってきました。オープンエアで景色を楽しむために、貨車を改造した観光列車は見事に裏目に出ました。乗り込むことをその場で断念する人々が続出。私と女性の親子の3人だけがホームに残りました。
「乗りますか?」鉄道の職員が、雨の音をかきわけて大声で聞いてきました。
無言でうなずく3人。トロッコ車両は水浸しです。
困った顔をしていた職員は、もう一人の職員と話をすると「わかりました。女性のお二人は、こちらにどうぞ。」そう言って、牽引する機関車に案内したのです。
そして私には「後ろに、機関車がついています。狭くて大変に申し訳ないですが、あちらにどうぞ。」そう言って、おもちゃのような機関車の、一人しか入れない、機械油のにおいのする運転台に案内してくれたのです。
「職員は乗りません。機器類には絶対に触らないでください。お願いします。」雨のしずくを滴らせて、深々と頭を下げた職員。ドアが外から閉められました。
やがて列車は動き出し、雨が鉄板の屋根をたたく音が絶え間なく頭から降り注ぎ、足元からは体全体を揺さぶられるほどの激しい震動に身動きがとれなくなりながらも、風景より感動する何かを得ていました。
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