Hachinohe   北海道新幹線開業に寄せて 〈1549/3TFU29〉

N君、元気にしていますか。
君とは、学生時代に長い休みが来るたびに、あちこち旅行した。
中でも、僕たちは北海道が大好きで、何度も旅に出た。
学割でワイド周遊券を買って、上野発の夜行列車で一夜を明かし、青函連絡船で北海道を目指す行程はいつもお決まりのコースだった。
いつもは急行「十和田」か「八甲田」を利用していたけれど、1回だけ奮発して寝台特急の「はくつる」を利用した事があったね。

その時の事、覚えているかい。

その日は東京に記録的な大雪が降って、首都圏の鉄道ダイヤはマヒしていた。長距離列車も殆ど運休してしまい、君との旅行も中止しようかと電話で話をしていたんだ。
夕方になって、運転再開のニュースが流れ、とりあえず荷物を持って上野駅に行くと、運休や遅延だらけでまともに走っている列車は無かった。

予定より大幅に遅れて、「はくつる」が上野駅の14番線ホームに入線し、日付が変わった頃にやっと動き出した時は、ほっとしたね。
僕たちは発売直後に下段寝台が予約出来ていたので、安心だったけど、他の列車に乗れなかったお客さんが切符も持たずに列車に乗り込んできて、車掌が困っていたのを二人で心配そうに眺めていた。
それにしても、3段寝台が全て埋まった光景は、圧巻だったな。同じ空間にあれだけたくさんの人がカーテンを閉じて眠っているなんて、信じられなかった。

そして次の朝、超満員の「はくつる」で目を覚ました時、列車はどこかの駅に停車していた。
寝台の窓についたブラインドのハンドルを回して外を見ると「はちのへ」の文字が目に飛び込んできた。時計を見ると予定より2時間以上も遅れていたので、そのあとの予定が心配になり、あわてて君の寝台のカーテンを開けて君を起こし、窓の外の駅名票を見せたんだ。

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その時、君はこう言ったよ。

「まだ、八戸?」

そうだよね、まだ八戸だったんだ。
当初の計画では、もう連絡船に乗っている時間のはずだったのに、二人とも寝台に備え付けられていた浴衣姿で、眠そうな目で「はちのへ」の駅を見ていたんだから。
そのときの光景が何故か、今でも瞳の奥に焼き付いている。
その旅からもう36年も経つんだね。

そして僕はこの前、「はちのへ」の4文字をホームに降り立って見たんだよ。
駅は、当時の八戸駅とは違った場所に設けられた新幹線の駅になってしまったけど、「はちのへ」の文字を目の前にしたとき、君との思い出が一瞬でよみがえってきた。
寝台で体を屈めて、窓の外を見ていた二人の姿も。

でも、僕の口からあの日の君の言葉とは違うフレーズが出てきた。

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「もう、八戸?」

東北新幹線で上野駅から2時間30分あまりで、僕は八戸にいた。8時間もかかったあの日に比べたら、あまりにもあっけなかったんだ。

今年の3月には新幹線はさらに北に延びて、函館まで約4時間で結ばれる。
僕たちが旅したあの頃に比べると、ますます日本は小さくなってしまったように感じる。
N君。いつかまた、君と新幹線で旅をする日が来たら

「もう、北海道?」

僕たちは、そんな言葉を口にするのかもしれないね。

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