さて警察ドラマには検視官を主人公とした作品も多いが、内野聖陽さん主演によりテレビ朝日系で放映された 『臨場』は、L県警本部捜査一課検視官(警視)を描く。超個性派のスーパー検視官が主人公のこのドラマの原作は、横山秀夫さんの傑作短編集だ。この作品、巷での評価は高い様だが、筆者には内野聖陽さんの演技は抑え気味でも暑苦しく感じて、原作の倉石義男警視のイメージとは少し異なる様に感じられた・・・。
フジテレビ系の2時間ドラマ『女検視官・江夏冬子』【2012年~】は、かたせ梨乃さん主演の江夏冬子(京都府警捜査一課検視官)を主人公としたドラマ。TBSでも同名のドラマが1997年から2001年まで放映されていたが、こちらは萬田久子さんが冬子を演じた。更に、テレビ朝日系列の『京都二年坂殺人事件』【1990年11月17日放送】では秋野暢子さんが江夏冬子に扮した。テレビ局の垣根を超えて人気の作品だが、原作者は山村美紗さんである。
またフジテレビ系では、天海祐希さん主演の『女検死官』【2000年7月21日放送】があった。北海道警の特別検死官の頼口涼子を天海さんが演じているが、相棒役の刑事にここでも内藤剛志さんが扮していた。ちなみに、道警の特別検視官という職務も謎である・・・。
ところで、実際に検視官の経験がある方の話によると、刑事ドラマでよく犯行現場で刑事が検視官や鑑識課員から「ホトケさんの死亡推定時刻は、昨夜の午後10時から深夜0時ころまでの2時間ですね・・・」などと報告を受けるシーンがあるが、現実にはそれは絶対にあり得ないとのこと。
残念ながら現在の検査技術ではそこまでの細かな時間の特定をすることはムリで、判定を下すまでにももっと時間がかかるそうだ。そして死亡推定日時に関しては、せいぜい「(たぶん)○日~✕日の間の2日間くらい」といった表現になるそうだ。
ということは、よくドラマ(や小説)で描かれているアリバイ崩しや立証のストーリーは微妙なものになってくる。刑事の「あなたは昨夜の午後10時ごろ、どちらにいましたか?」というセリフは通じないのだ。現実の死亡推定日時はずっとアバウトなものだから、2~3時間単位ではなく2~3日間のアリバイが必要となってくるのだ・・・。
さて、科学捜査ものといえば、鑑識課員が活躍する作品もある。
少し前の作品には日本テレビ『警視庁鑑識班』シリーズ(当初は2時間ドラマ)があり、西村和彦さん演じる中山淳彦巡査長(警視庁刑事部鑑識課第一現場鑑識班員)と現場鑑識係の同僚の鑑識活動を描くドラマ。
『警視庁鑑識課 ~南原幹司の鑑定~』は、2011年から放送されているTBS系の2時間ドラマのシリーズ。中村雅俊さんが演じる南原警部をはじめとした警視庁刑事部鑑識課の活躍を描く。主人公の推理好きで食にも造詣が深い南原幹司(中村雅俊さん)は第一現場鑑識係長を務めているが、部下には星野真里さん演じる小山内春佳巡査部長がいる。星野さんも刑事ドラマに数多く出演しているが、彼女の場合は犯人役や被害者役になることも多い。
同じ2時間ドラマでは、テレビ朝日の『京都南署鑑識ファイル』がある。主演は田中美里さんで上司の主任は小林稔侍さんが演じている。この作品の鑑識さんたちは、いたってオーソドックスな手法で仕事をこなしているみたい。驚くような鑑識テクニックは見られない。京都ならではの、ゆっくりのんびりと犯人を特定していくスローな展開だ…。
またこれも同様の2時間ドラマであるテレビ東京系『鑑識特捜班・九条礼子〜骨を知る女〜』は、捜査権を付与された鑑識特捜班が舞台の鑑識ドラマ。主演は渡辺えりさんで鑑識特捜班(上部組織などの詳細は不明、警察庁の指示で開設されたらしい)の班長を演じている。渡辺さんと共演の霧島まどか役の安達祐実さんとの掛け合いが楽しいが、同じ班に所属する医師の韮沢晃一(石原良純さん)と九条が揃うと、ちょっとばかり暑苦しい。当然だが、(後述の海外ドラマ:CSIシリーズと同様の)この鑑識特捜班の様な組織は日本の警察には存在しないし、九条・霧島と警察官でもない韮沢の3名で(刑事部捜査一課その他の刑事部門を差し置いて)捜査を進めていく流れは非現実的である。また肝心の鑑識作業が大雑把なところや検視も行ってしまう乱暴な展開は流石にやり過ぎだろうと思うのだが…。
そして鑑識課員の代表といえば、誰もが『相棒』の六角精児さん演じる米沢守巡査部長に止めを刺すだろう。彼もある意味、スーパー鑑識さん。劇中では何から何までひとりでこなす超人的な鑑識課員である。
しかし実際の鑑識は職務毎に分かれている。現場鑑識、現場指紋、指紋照合、指紋理化、現場足跡、現場写真、検視、警察犬係など。ひとりの鑑識課員が全部をこなすのは、そりゃ嘘でしょ。
でも逆に、橋爪功さん演じる警視庁刑事部鑑識課現場指紋係々長の塚原宇平警部の活躍を描く『指紋捜査官・塚原宇平』シリーズ(テレビ東京)というのもあったが、指紋がらみの推理ドラマなので、そう長くは続かなかったようだ。現実に即して主人公の職務を限定すればするで、物語のネタが尽きてしまうのだろう。
厳密には鑑識さんではないが、遺留品から犯人逮捕に向けて捜査を進める主人公を描くテレビ朝日の『遺留捜査』シリーズ。主演は上川隆也さんで、元鑑識の糸村聡警部補を演じるが、第二シリーズからは所轄署(架空の月島中央警察署)の所属となる。ここで主役をはる上川隆也さんも刑事ドラマの常連だが、第二シリーズ以降で主人公の上司で所轄署の刑事課長役の斉藤由貴さんも刑事ドラマの出演が多い人だ。
海外の鑑識ものであれば、米国CBS系の『CSI:科学捜査班』(Crime Scene Investigation)シリーズが大ヒット作となり、2000年に始まってシーズン15でやっと終了となった。
このドラマはラスベガスの、鑑識というよりは検視までを含んだ科捜研に近い科学捜査部門の職員(技官)の活動を描いている。つまりこのドラマの主人公たちも本来はあくまでも研究員・技官であり、現実の犯罪捜査において容疑者の尋問や逮捕等の捜査活動を刑事の様に行うことは有り得ない。
しかしドラマの中で、彼らは拳銃を所持して容疑者宅に突入していくが・・・。そして犯人への尋問もバンバンやっちゃうのだ。しかしスピンオフ作品の『CSI:マイアミ』や『CSI:ニューヨーク』では、主人公たちは研究者・技官ではなくCSI捜査官・刑事となっている。鑑識の仕事をしながら、堂々と犯人と銃撃戦を繰り広げる不自然さを無くしているのだ。ムチャと言えばムチャだが、こちらの方が潔い。
だがこの設定もアメリカならではのものであり、誰もが街中で銃をぶっ放しても違和感が無い社会だからで、日本じゃこうはいかない。
またCSIは早番・遅番・夜番の三交代制(各シフトは8時間勤務)であり、1週間毎に別時間のシフトへ移行する方式。 しかしドラマの中では、長期間にわたり各自のシフトが変わることは無いようである。
更に余談だが、海外ドラマシリーズでシーズンの途中で女性レギュラー役の女優が唐突に姿を消す場合は、その多くが妊娠・出産が原因であり、次作のシーズンで再び唐突(強引)に復帰することがよくある。これに対して男性レギュラー陣の急な降板は、他のドラマに引き抜かれたかギャランティに不満がある場合で、シーズン終了などの節目での降板は、TV界からハリウッド(映画界)へのキャリアUP・転身が主な目的であることが多い。