李氏朝鮮(李朝)の身分・階級制度 〈2408JKI27〉

中人(チュンイン:중인)

医官(ウィグァン:의관)や訳官(ヤクグァン:역관)の様な職種は、その専門性から世襲されることがほとんどでした。 これらの役職は、科挙の中の雑科を受験することで官吏に登用されました。

また父が両班に属していても、実母が良人の場合は庶子(ソジャ:서자)、賤人の母の場合は孽子と呼ばれ、この庶子と孽子は合わせて庶孼(ソオル:서얼)とされて、両班ではなく身分の低い良民(良人)階級とされました。そして彼らには文科への道が閉ざされていた為、雑科を受験することが多かった様です。

李朝の前期では、上記のような雑科の合格者の家系や中小規模の富裕層を中人と呼んでいましたが、17世紀以降には広範囲に中間層を表す表現として、この言葉が定着していきました。

但し中人のポジションに関する重要な点としては、学問の領域が儒教に限定されていた両班とは違って、雑学の対象である外国語や医学、法律、天文学から数学など、広範で実用的な学問を究めることが可能だったので、実際に国家を維持・構成する上で大切な役割を果たしていましたが、現実には両班よりも下層に止まらざる得ない身分制度の掟に縛られていました。

 

常人(サンイン:상인)/常民(サンミン:상민)と】 

当時の農業従事者や商工業者の大部分が常人とされる身分で、国の人口に占める割合が最も多かったのがこの階級です。彼らには納税義務や軍役義務が課せられていましたが、その為か形式的には科挙の受験資格を有していました。しかし現実には時間的にも金銭的にも受験する様な余裕はなく、仮に合格したとしても大きな登用差別があった為に、現実に官吏となる者はまずいなかったとされています。

現実にはこれらの人々の生活はとても厳しく、重い税に苦しめられました。上記のように制度上は科挙に合格すれば下級官吏になれましたが、そんな例は実際には有り得なく、家業の成功などで裕福となることを除くと上位の階級に這い上がれる可能は皆無だったのです。 一方で、貧困などの理由で下位の階級に転げ落ちる危険は常に迫っていたと云えるでしょう。

 

賎人(チョンイン:천인)/賎民(チョンミン:천민)とも

賤人とは、一般的には奴婢(ノビ:노비)のことですが、広義にはより下層の階級とされた白丁(ペクチョン:백정)なども賤民の一部として扱われています。商工業の現場に従事する者は、現実的にはほとんどがこの奴婢に属する人々でした。また奴は男性の奴隷を意味し、婢は女性の奴隷のことでした。

彼らは一種の財産と見做されて売買や相続などの対象となっていましたが、多くの者の普段の生活は常民に近いものだったともされています。またこの階層の人々は、李氏朝鮮初期においては全人口の30%程度ほどを占めていました。

奴婢には、公賎・官婢/公奴婢(コンノビ:공노비)と私賎/私奴婢(サノビ:사노비)があって、公奴婢は王宮や官庁での仕事に従事する者たち(公有財産)を指し、私奴婢は両班等の富裕層の所有物(私有財産)でした。また官婢の中でも、特に王族や朝廷が功臣に下賜した奴婢は丘史(クサ)と呼ばれました。そして、奴婢の中にも更に細かく分けられた階層があったとされます。

 

ちなみに李朝第4代の世宗の時代に領議政(後述)を務めた黄喜(ファンフィ:황희)という人物が、「七般賤人(チルバンチョンイン:칠반천인)」を定めました。これは、1. 官庁の使用人である皁隸(チョレ:조례)、2. 罪人の処刑人である羅将(ナジャン:나장)、3. 地方官庁の門番などを勤めた軍奴の日守(イルス:일수)、4. 舟のこぎ手である漕軍(チョグン:조군)、5. 水軍に属する兵卒・水軍(スグン:수군)、6. 狼煙を上げる役をになった烽軍(ポングン:봉군)、7. 三十里ごとに置かれていた駅の従事者である驛(ヨク:역)、となります。

またその他の定義としては、1. 官庁や両班の使用人の奴婢(ノビ:노비)、2. 酒席・宴席で歌や踊りを披露し風流に興をそそることを職業とする女性・妓生(キーセン:기생)、3. 輿の担ぎ手(サンヨックン:상여꾼)、4. 唐風の革靴を作る鞋匠(ヘジャン:혜장)、5. 楽師や廣大をあらわす伶人(ヨンイン:영인)、6. 廣大(クァンデ:광대)仮面劇や綱渡りをしていた芸人、7. 朝鮮固有の巫女、巫堂(ムダン:무당)、8. 官庁の使用人、使令(サリョン:사령)、9. 国教でなくなった仏教の僧侶(スンリョ:승려)、10. 革製品の加工を生業とした生皮匠(センピジャン:생피장)・カッパチ(갖바치)、11. 最下層の民とされる食肉加工を生業とした白丁(ペクチョン:백정)、があり、更に重複が多く見られますが「八賤(パルチョン:팔천)」もしくは「八般私賤(パルバンサチョン:팔반사천)」として、1. 私奴婢(サノビ:사노비)、2. 僧侶(スンリョ:승려)、3. 白丁(ペクチョン:백정)、4. 巫女(ムダン:무당)、5. 廣大(クァンデ:광대)、6. 喪輿軍(サンヨグン:상여군)、7. 妓生(キーセン:기생)、8. 工匠(コンジャン:공장)、という分類もありました。

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