この記事は、自然現象『セントエルモの火』について、その名の由来やそれにまつわる逸話などと共に、科学的な原因等を解説した記事です。
持ち回り連載記事【今日の気になる言葉】の姉妹編《気になる科学の言葉》で今回取り上げるのは、『セントエルモの火』(St. Elmo’s fire)です。
この言葉は、悪天候時などに船のマストの先端が発光する現象のことで、激しい場合には、指先や毛髪の先端が発光する例も。また、航空機の窓や機体表面にも度々発生することが目撃されています。
『セントエルモの火』の由来や逸話
『セントエルモの火』とは、船乗りの守護聖人である“聖エルモ”に由来する事象とされていますが、イタリアのセントエルモ大聖堂(Cathedral of Assunta e Sant’Erasmo)でよく発生したことからこの名となったというのは俗説の様です。
この『セントエルモの火』については、古来より多くの書物において記されてきた現象であり、例えばカエサルの『アフリカ戦記』(De Bello Africo)や大プリニウスの『博物誌』(Naturalis Historia)、マゼランの世界周航に随行したピガフェッタの航海記、カモンイスの叙事詩『ウズ・ルジアダス』(Os Lusiadas)、コールリッジの『老水夫行』(The Rime of the Ancient Mariner)やダーウィンがヘンズローに送ったビーグル号での体験を記した書簡、そしてメルヴィルの『白鯨』(Moby-Dick; or, The White Whale)等において言及されています。
更に、アルゴー船(コルキスの黄金羊毛、“ゴールデン・フリース”を探す冒険に出港した船で、ヘラクレスを始めとするギリシャ神話を彩る半神・英雄たちが乗組んでいたが、彼ら乗組員の総称を“アルゴノート”と云う)の探検神話によると、同船に乗り組んでいた双子の英雄神 ディオスクーロイ兄弟(ゼウスの息子たち)、すなわちカストールとポルックス(ポリュデウケース)の頭上に光が灯ったところで大嵐が静まったので、その後、二人は航海の守護神と崇められました。そしてこの逸話から、船乗りの間では『セントエルモの火』が二つ出現すると嵐が収まると信じられたと伝わります。
尚、大プリニウス(古代ローマの博物誌家、甥に政治家で書簡作家の小プリニウスがいる)によれば、上記の様な神話で描かれた古典期のギリシアでは、発光が一つの場合は“ヘレネ”、二つの場合は“カスト-ルとポルックス”と呼ばれたとされますが、ちなみにヘレネ(ヘレネー)はギリシャ神話に登場する女神で、ディオスクーロイ兄弟の妹です。
『セントエルモの火』の科学的な原因
科学的には、『セントエルモの火』は大気電磁現象の一種であり、学問的な難しい表現を使うと「檣頭電光(しょうとうでんこう)」と呼ばれます。
これは、悪天候時に良く見られる発光を伴う放電現象で、尖った物体が帯電した場合にその先端で静電気などによりコロナ放電(電場の強い場所で部分的に絶縁が破壊されて生じる発光放電のこと)が発生、青白い発光現象が見られます。雷による強い電界が船のマストの先端(檣頭)等を発光させたり、飛行機などの機体や翼に溜まった静電気により引き起こされる事もあるとされます。
尚、1750年に米国の科学者・著述家で政治家でもあったベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin)が、雷を伴う嵐の際にこの現象と同様の先端の尖った鉄棒の端が発光することを観測したことは有名です。
ところで筆者としては、この言葉から連想されるものとしては、1985年のジョエル・シュマッカー監督の映画『セント・エルモス・ファイアー』(St. Elmo’s Fire)を思い出しますね。
ジョージタウン大学を卒業したばかりの若者達を描く群像劇で、大人の世界に接して戸惑い苦悩する友人グループの姿を描いていました。劇中でも『セントエルモの火』についての説明がされていますが、ちょっとだけ間違っていた様な‥‥。またデイヴィッド・フォスターが作曲してジョン・パーが歌った主題歌もヒットしました。
ちなみにこの映画、“ブラット・パック”と呼ばれる俳優たちが出演しており、当時、話題となっていました‥‥。
-終-
【参考】ブラット・パック(Brat Pack)とは、1980年代のハリウッド青春映画に出演した若手俳優の一団に付けられた名称。“小僧っ子集団”といった意味とも。一般的には『セント・エルモス・ファイアー』とジョン・ヒューズ監督の映画『ブレックファスト・クラブ』の出演者が中心メンバーとされています。
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