紫電改の塗装
『紫電改』の試作機に関しては、カウリング上面以外は全面(黄色に近い)オレンジ色に塗られていた。そして一部の試作機がこの塗色のまま前線の航空隊に搬入されて、急遽、迎撃任務に出撃したとの記録も残っている。
しかし後の343空などの実戦部隊での正規塗装については、当時の日本海軍機の標準仕様に従い、機体上面と側面は艶のある暗緑色で塗装されていたが、機体下面は機種と尾部以外は地肌のままの無塗装で尾翼下の部分だけが灰色、またはアルミ色に塗装されていたとされる。
この一部無塗装の措置は大戦後期から末期の機種に見られる様式で、生産コストと時間を省く為だったとされる。そしてまた塗装全般に関しては、製造工場により色々と細かい差異があった様である。
『紫電改』の“日の丸”のマーキングは胴体と両翼に描かれていた。胴体部分の“日の丸”は直径が85cmで白縁があり、白縁の幅は7.5cmであったとされる。一方で、主翼上面の“日の丸”は直径110cmで、下面は直径100cmだったが、いずれも白縁は無かったと云う。
尚、343空での『紫電改』の写真によく見られる日の丸の中の数字(機体番号?)は、水溶性の塗料(石灰と水と少量の接着剤を混ぜたもの)で書かれていたとされる。しかしここに数字を描いた意味は、訓練中に互いを識別し易くする為であるとか、整備上の便宜から等があるが、正確なところは判然としない。
『紫電改』の性能諸元
【試製『紫電21型』(N1K2-J)性能諸元】
全幅:11.99m、 全長:9.364m、 全高:3.96m、 翼面積:23.5m²、 翼面荷重:161.70 kg/m²、
自重:2,657kg、 全備重量:3,800kg、 過荷重:4,860kg、 プロペラ:住友VDM四翅 直径3.30m、
発動機:“誉”21型 空冷複列星型14気筒、 出力:1,990馬力(離昇)、
最大速度:594km/h(高度5,600m) ※諸説あり 596km/hや海軍計測値では644km/h(高度6,000m)など、
上昇時間:7分22秒(高度6,000m)、 実用上昇限度:10,760m ※諸説あり 海軍計測値では11,250mなど、
航続距離:1,715km(正規)/2,395km(過荷重・増槽装備)、
武装:翼内99式20mm機銃(固定機関砲)×4挺 (携行弾数内側各200発、外側各250発)計900発 爆装60kg爆弾×2発、250kg爆弾×1発 ※諸説あり 各々2発説や60kgは4発説あり
※性能に関する数値については、諸説がある。
『紫電改』のバリエーションと名称
『紫電改』とは、海軍戦闘機『紫電』の21型以降の総称である。この名は、兵器名称付与標準に基づき兵器採用前の試製機として試製『紫電改』とされたものであり、『仮称紫電21型』とも称し、兵器として制式採用により『紫電21型』となった。
日本海軍の搭乗員からは『紫電』や『紫電改』の呼名の他に、『紫電』が「J」、『紫電改』が「J改」と呼称されることもあったし、343空の戦闘日誌などでも『紫電改』及び『紫電21型』両方の記述があり、どうもその呼称は統一されていなかった様である。
昭和19年4月7日内令兵第27号「航空機の名称」では、試製『紫電改』は「試製『紫電』の機体改造及兵装強化せるもの」として定義づけられており、昭和20年4月11日の海軍航空本部「海軍飛行機略符号一覧表」における21型以降(所謂『紫電改』)については、『紫電21型』(N1K2-J)、試製『紫電21型甲(改甲)』(N1K2-Ja)、試製『紫電31型(改一)』(N1K3-J)、試製『紫電41型(改二)』(N1K3-A)、試製『紫電32型(改三)』(N1K4-J)、試製『紫電改四』(N1K4-A)、試製『紫電改五』(25型もしくは53型・N1K5-J)が該当している。
『紫電改』の基本型となる『紫電21型』(N1K2-J)の製造機数は99機とされ、爆撃装備の強化を行った試製『紫電21型甲(改甲)』(N1K2-Ja)は100機製造されている。
試製『紫電31型(改一)』(N1K3-J)は機首を延長、13mm機銃2挺を増設したタイプ。「試製」とあるが約200機近くが生産されている。
試製『紫電41型(改二)』(N1K3-A)は、31型に着艦フックを追加し機体後部を補強して着艦時のバルーニング(接地時に地面効果などによって目標点を行き過ぎてしまう現象)防止を目的としてフラップの開閉角度を減少させた機種である。
試製『紫電32型(改三)』(N1K4-J)は、発動機を低圧燃料噴射装置付の“誉”23型に換装したもので、31型を改造して2機が試作されている。
試製『紫電42型(改四)』(N1K4-A)は、改二とは別の艦載型で32型を艦載化したものであるが、実機が製作されたかは不明である。
試製『紫電25型(改五)』(N1K5-J)は21型甲をベースに、発動機を『烈風』と同じ三菱「ハ43」に換装したもので、発動機の変更により増設した機銃の除去とカウリングの形状変更が行われたが、工場の被災により完成に至らずに終わる。尚、この発動機変更の理由には諸説あり、『烈風』との比較用に企図されたとする説や陸海軍ともに“誉”発動機の採用が増えて無理な増産で品質が下がってきた為に、“誉”を生産していた中島飛行機の負担を減らすことが目的だったとも言われている。
さて当初、『紫電改』の連合軍側のコードネームは”George”であり、『紫電』と同じであった。やがて『紫電改』は低翼でやや全長が長いことが判り、『紫電11型』とは別の機種であると認識される様になる。しかし戦時中においては情報の不足から、依然として『疾風』や『零戦』などの他機種との誤認報告も多く、ようやく戦後になってから『紫電』が“George-11”、『紫電改』を“George-21”と分類したとされる。
ところで今回のレプリカ制作に関しては、どうもネットでの意見の大勢もせっかく作るのならば単なる静態展示機ではなく、実際に飛行可能な稼働機の製造にチャレンジして欲しいとの声が圧倒的であり、これには筆者も同感である。当然ながら、コスト面を筆頭に幾多の困難が予想されるが、現在の技術を駆使して何とか“現実に飛べる紫電改”を実現して欲しいものだ!! 【後編に続く】
-終-
【余談-1】子供の頃、「自動空戦フラップ」という言葉を知ったのは『紫電改』のおかげだった。何だか詳しくは解からなかったものの、とにかく凄い秘密兵器だと思い込み、そのカッコいい響きに酔い痴れた・・・。
【余談-2】そして何と言ってもプラモデルの『紫電改』、私の場合は『零戦』や『隼』よりもこの機種が懐かしい。模型については書きたいことが色々とあるので、別稿(仮称「『紫電改』のプラモデル」)で取り上げるつもりだ。
【余談-3】本当にどうでもイイ話だが、以前、元アナウンサーでタレントに山本モナという人がいたが、この人が大の『紫電改』好きを公言していた。確かに色々な調査に自ら出かけたり、雑誌のインタビューの中で「自動空戦フラップ」に関して熱弁をふるっていたりと、その『紫電改』LOVEの様子は随所で窺えたが、色々あって(笑)一旦は芸能界を引退したハズだが・・・、最近では子育ての側らひっそりと復帰しているらしい。
【余談-4】筆者の同世代では、ちばてつや先生の漫画『紫電改のタカ』(『週刊少年マガジン』に昭和38年(1963年)7月から昭和40年(1965年)1月まで連載された)でこの戦闘機を知った者が多いのではないかと思う。
この作品は単なる戦記物漫画ではない、戦争の悲惨さや従軍する若者たちの苦悩を描いた名作とされる。尚、この漫画の主人公の滝城太郎飛行兵曹長は架空の人物だが、源田実や菅野直、そして坂井三郎らが実名で登場する。
尚、近年に至るもこの作品は数年毎に新装出版され続けていて、比較的入手が簡単である。
【余談-5】『紫電改』の開発の経緯やその運用、また久良湾からの同機の引き揚げに関してのエピソード等については、碇義朗の著した『紫電改の六機―若き撃墜王と列機の生涯』や『最後の戦闘機 紫電改 起死回生に賭けた男たちの戦い』に詳しい。(いずれも光人社刊)
更に343空の活躍については、源田実が著わした『海軍航空隊始末記』(文春文庫)や宮崎勇の著書『還って来た紫電改 紫電改戦闘機隊物語』(光人社刊)、またHenry Sakaida・高木晃治の『源田の剣 第三四三海軍航空隊 米軍が見た「紫電改」戦闘機隊』(双葉社、ネコパブリッシング刊)が日米双方の当事者の証言として貴重だ。
他には新人物往来社文庫の松田十刻著『紫電改よ、永遠なれ』や『歴史群像 太平洋戦史シリーズ24 局地戦闘機紫電改 海軍航空の終焉を飾った傑作機の生涯』(学習研究社刊)、そして丸編集部編『最強戦闘機紫電改 甦る海鷲』(光人社刊)等が参考となる。
【余談-6】正統派読者からは顰蹙(ひんしゅく)を買うかも知れないが、近作(2013年~)に野上武志の漫画『紫電改のマキ』がある。月刊マンガ雑誌『チャンピオンRED』(秋田書店)で2013年10月号より連載中の作品がそれ。コミックス第8巻が来年(2017年)2月20日に発売予定である。
ヒコーキ通学が当たり前な東京のパラレルワールドが舞台の、ある女子高校生の空戦活劇を描く物語で、彼女の愛機が自我を持った『紫電改』であるという設定。友人やライバルたちも多彩な第二次大戦中の空軍機を駆る。
尚、模型メーカーのハセガワから、数種類のタイアップ商品(主人公・羽衣マキの乗る『紫電改』ほか数種類の戦闘機)が販売されている。
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