以下に『鬼平犯科帳』(中村吉右衛門版) テレビ番組シリーズ 第4シリーズ キャスティング・リストを掲載するが、現状は《暫定版》であり、都度、加筆・修正の予定である。また各話のあらすじやその他の諸データは番組公式HPで確認願いたい。
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★ 各欄コメントには、物語の結末や、所謂(いわゆる)ネタバレ的な内容が含まれているので、視聴前や未読の場合は要注意。
第4シリーズ(1992年12月2日 – 1993年5月12日、フジテレビ系 水曜20時台時代劇枠)
●第1話「討ち入り市兵衛」(1992年12月2日)(視聴率20.9%)
・蓮沼の市兵衛 – 中村又五郎 ・松戸の繁蔵 – 下川辰平 ・鞘師長三郎 – 早川保
・壁川の源内 – 内田勝正
※このテレビ番組では、重傷を負った松戸の繁蔵が「五鉄」の店先で倒れる形だが、原作では最初に繁蔵を見つけるのは本所・弥勒寺門前の茶店「笹や」の主・お熊である。
※意外にも、渋い盗人が似合いそうな下川辰平(2004年3月25日没)が吉右衛門版に出演しているのは、この回のみである。
※蓮沼の市兵衛を演じた2代目中村又五郎(2009年2月21日没)は、“剣客商売”のテレビシリーズで主役の秋山小兵衛を演じた(中村又五郎版)。ちなみに、本稿読者は既にご存知の方ばかりだろうが、池波原作の小兵衛のモデルはこの中村又五郎である。
●第2話「うんぷてんぷ」(原作:『霜夜』)(1992年12月9日)(視聴率19.8%)
・池田又四郎 – 神田正輝 ・お吉 – 大塚良重 ・須の浦の徳松 – 北村英三
・栗原の重吉 – 益富信孝 ・常念寺の久兵衛 – 六平直政
※原作では、お吉は須の浦の徳松の女ではなく、又四郎の死んだ女房の妹である。またテレビでは彼が20数年前に江戸を出奔した理由は明らかにならない。
※常念寺の久兵衛役の六平直政はイイ味を出している。その岩石の様な顔と表情が、まさしく悪役風味? に出来上がっている。
※広辞苑によると、「うんぷてんぷ(運否天賦)」は人の運不運は天のなすところであるの意。
●第3話「盗賊婚礼」(1992年12月16日)(視聴率23.3%)
・長島の久五郎 – 中村橋之助 ・一文字の弥太郎 – 三ツ木清隆
・お梅 – 田中由美子 ・瓢箪屋勘助 – 垂水悟郎 ・鳴海の繁蔵 – 寺田農
※原作の傘山一味が、テレビ番組では一文字一味となっている。また久五郎が先代から受けた恩義については、原作では触れられることはない。更に最後の婚礼での騒動も、平蔵と岸井左馬之助が偶然にも巣鴨の三沢仙右衛門宅を訪ねる道すがら瓢箪屋の裏手にさし掛かった時に、屋敷内の騒ぎに気付いて乗り込むという設定である。この話は、2011年9月30日放送のスペシャル『盗賊婚礼』でも取り上げられているが、其々が原作とは異なる点がある。例えばこの回で長島の久五郎を見掛けて跡をつけるのはおまさで、箱根まで追う形となるが、スペシャル『盗賊婚礼』では伊左次が名古屋まで尾行した。何れも原作にはない場面である。また久五郎が鳴海の繁蔵に恩義を感じる理由はスペシャル版と同様だが、本作にはお津世は登場しない。
※原作の鳴海の繁蔵は、ゆったりと大きく肥えている、と描写されているので、いま一つ寺田農のイメージには合わない。また、この人も他の回には登場しておらず、一癖ある役柄が巧い役者だけに不思議である。
●第4話「正月四日の客」(原作:『にっぽん怪盗伝』)(1993年1月13日)(視聴率17.8%)
・亀の小五郎 – 河原崎長一郎 ・庄兵衛 – 坂本長利 ・吉住の紋蔵 – 西園寺章雄
・おこう – 山田五十鈴
※原作は『鬼平犯科帳』シリーズではない。ドラマでは、女将・おこうが、亡くなった亭主・庄兵衛にかわり蕎麦屋を切り盛りしているが、原作ではおこうの方が亡くなっている。そして庄兵衛が亀の小五郎の非道さに我慢ならず密告するのだが、ドラマではおこうが平蔵へ密告する。
※足掛け3年以上の長期間にわたるお話で、真田そば(信州の田舎蕎麦)が物語を紡ぐ一篇。ちなみに、「蕎麦の事典」(新島繁 著、講談社学術文庫)によると「ねずみダイコンとも呼ばれる辛味ダイコンの絞り汁に、くるみ醤油を合わせたものを真田汁と呼び」、池波曰く、「ネズミ大根をすりおろし、このしぼり汁をそばつゆにたっぷりあわせる」としている。作中では激辛とされているが、現実の真田そばはそんなに辛いことはないそうだ。
※亀の小五郎役の河原崎長一郎(2003年9月19日没)が、落ち着いた初老の盗賊を抑えめの演技で演じていたが、蕎麦を食べるシーンでは、コシのある短めの麺を次から次へとまとめて口には運び、さも旨そうに食べていた。
※山田五十鈴(2012年7月9日没)が演じるおこうが、三味線を爪弾きながら親を偲んで信濃追分(追分節)を唄う様(さま)は、流石に艶と深みがあって素晴らしい。尚、この回は山田のどうしても“鬼平”シリーズに出演したいという希望を叶える為に、原作の設定を変更、おこうを生かして彼女の出番を作ったという。
※亀の小五郎・・・信州生まれの盗賊の首領。長年にわたり本格派だったが、直近の盗みで助っ人に雇った者が殺生を犯し、そのことがおこうの反感を買う。
●第5話「深川・千鳥橋」(1993年1月20日)(視聴率17.0%)
・万三 – 高橋長英 ・お元 – 一色彩子 ・大和屋金兵衛 – 根上淳
・乙斐の文助 – 三上真一郎 ・鈴鹿の弥平次 – 山本昌平
※この回で間取りの万三のことを監視していたのはおまさと相模の彦十のコンビだが、原作ではそれは大滝の五郎蔵の役目であり、しかも五郎蔵もかつて万三から間取図を買ったことがあるのだった。即ちテレビでは、五郎蔵の役割がそっくりおまさと彦十に変更されており、本来、万三と大和屋金兵衛の赦免を平蔵に約束させたのも、二人を密告した五郎蔵である。またこの『深川・千鳥橋』の事件が、五郎蔵の密偵初仕事でもあった。また、お元が万三のことを平蔵に訴え出るのはテレビ版のオリジナルであり、原作でのお元は、万三がどのように金策をしているかを知らなかった。
※万三役の高橋長英も、数多くの役でこの吉右衛門版“鬼平”シリ-ズに登場している。詳しくは第7シリーズ第4話「木の実鳥の宗八」(1997年4月16日放送)を参照のこと。
●第6話「俄か雨」(原作:『俄か雨』・『草雲雀』)(1993年1月27日)(視聴率15.3%)
・細川峯太郎 – 中村歌昇 ・お長 – 長谷直美 ・岩口千五郎 – 田中浩
・鳥羽の彦蔵 – 柴田侊彦 ・おきぬ – 志水季里子 ・お幸 – 若林志穂
※このテレビ番組は、細川峯太郎が初登場する『俄か雨』とその後日談である『草雲雀』を合わせたストーリーとなっている。原作の盗賊に女房を寝取られる亭主も実は盗賊だったという設定を割愛し、お長の人物像に関しては原作より深く描いている。
※中村歌昇が同心の細川峯太郎を演じている頃の作品。後には与力の小林金弥役を務める。
●第7話「むかしなじみ」(1993年2月3日)(視聴率17.9%)
・網虫の久六 – 草薙幸二郎 ・水越の又平 – 石山雄大
※ドラマは原作をほぼ忠実に再現している。
※今回は、相模の彦十役の江戸家猫八が頑張った。彦十は、むかしなじみへの同情から盗めに手を貸そうと決心したが・・・。
●第8話「鬼坊主の女」(原作:『にっぽん怪盗伝』)(1993年2月10日)(視聴率15.3%)
・お栄 – 光本幸子 ・鬼坊主清吉 – ガッツ石松 ・六太郎 – 森川正太
・棚倉市兵衛 – 高津住男 ・左官の政次郎 – 丹古母鬼馬二
※原作は『鬼平犯科帳』シリーズではなく、『にっぽん怪盗伝』に収められた一編である。原作では棚倉市兵衛の孝行娘おふゆ(真の詠み手ある浪人には娘が3人いる設定だが)や清吉配下の浪人・高坂左門は登場せず、辞世の歌を詠んだ浪人が殺されることもない。
※何故だろう、この回でもガッツ石松の評価が高い。本来、役者でないだけに、へたな演技ではなく本人がそのまま鬼坊主の清吉になりきっているとでも言おうか。どの場面でも、妙に役にハマっていた。ちなみに、松本幸四郎版第1シリーズ『鬼坊主の花』では、鬼坊主清吉を三波伸介(1982年12月8日没)が演じているが、ガッツの清吉の印象の方が勝る。
※今回は左官の政次郎を丹古母鬼馬二が演じ、入墨の吉五郎は根岸一正が演じたが、上記の本幸四郎版第1シリーズ『鬼坊主の花』では、三波と同じてんぷくトリオのメンバーである戸塚睦夫が粂次郎(左官の政次郎に当たる)役、そして伊東四朗が入墨吉五郎の役でそれぞれ出演している。
※おふゆ役の三宅香菜(子役)が、律義で健気な娘を好演。
※棚倉市兵衛を演じた高津住男(2010/7/31没、真屋順子の夫)も既に故人である。
※この鬼坊主清吉は、江戸時代に実在した盗賊である。生まれは安永5年(1776年)で、処刑されたのが文化2年(1805年)とされている。貧しい生い立ちから商家での奉公を経て盗み等で何度か捕まった後、強盗団の首魁とになり江戸市中で大暴れ、その後、上方に逃亡するが、伊勢で捕縛されて江戸に戻された。そして市中引き回しの上、仲間の左官粂こと粂次郎と入墨吉五郎こと三吉と共に打首・獄門となる。享年30歳。体が大きく異様な風体をしていたと伝わる。尚、実際の辞世は、「武蔵野に名も蔓(はび)こりし鬼薊(おにあざみ) 今日の暑さに乃(かく)て萎(しお)るる」であり、この歌を市中引き廻しの際に何度となく馬を止めては、ふてぶてしく大声で吟じたとされる。但し、現実の火付盗賊改方長官の長谷川平蔵は、この鬼坊主が捕縛・処刑される約10年程前(寛政7年5月19日/1795年6月26日死去)にこの世を去っているので、直接の関わり無い。
●第9話「霧の七郎」(1993年2月17日)(視聴率18.1%)
・上杉周太郎 – 原田大二郎 ・霧の七郎 – 片桐竜次
・鉄頴(馬堀の捨吉) – 大島宇三郎
※原作での上杉周太郎の剣の腕前は、辰蔵からの問いに答えた平蔵に「真剣で斬り合ったら五分と五分」と言わしめるほどだが、このテレビドラマではそこまでの力量はない。
※上杉周太郎・・・辰蔵の剣の師匠である坪井主水の更に師匠であった上杉馬四郎の息子で兄弟子にあたる男。剣術に優れるが何れにも仕官しておらず浪々の暮らしをしていた。霧の七郎に辰蔵の殺害を持ちかけられるが、どこか人の好い変人の周太郎は辰蔵と親しくなり、また彼が主水の門人であることを知って暗殺依頼を断るのだった・・・。
※霧の七郎・・・「小川や」梅吉の弟で本名は由太郎と言い、野槌の弥平の従兄である先代・霧の七郎の養子で霧の七郎の名跡を継いだ盗賊で、本来は中国筋が縄張り。兄や義母のおすえ(『むかしの男』事件で捕まり島送りとなった老婆)の仇を討つべく平蔵をつけ狙って様々な復讐計画を練るが、結局はそれらの行動から足がつき捕縛されてしまう。最後は打首・獄門に処された。劇画版では、五郎蔵の昔の女を殺害したことから平蔵公認の敵討ちに逢う。
※長谷川家の用人である松浦与助を演じる小島三児も、2001年4月16日亡くなっている。ちなみに、第3シリーズ第12話「隠居金七百両」にも登場。
●第10話「密偵」(1993年2月24日)(視聴率21.1%)
・弥市 – 本田博太郎 ・おふく – 友里千賀子 ・乙坂の庄五郎 – 横光克彦
※原作での青坊主の弥市は、平蔵の前任の火盗改方の長官・堀帯刀の頃に与力・佐嶋忠介の密偵となっており、直接、平蔵と顔を合わせたことはない。また、弥市の女房・おふくは弥市の浮気を疑って彼を尾行するなど、意外に勝気な性格の持ち主である。更に弥市は乙坂の庄五郎の盗賊宿であっけなく縄ぬけ源七に殺されてしまうが、テレビ番組では瀕死の重傷を負いながら、妻子の元へ這い戻ろうとして力尽きた。
※この話の原作では、あくまでも事を秘密に運ばなくてはならない密偵は直接には役宅へは出向かない、と記されている。
●第11話「掻掘のおけい」(1993年3月10日)(視聴率21.3%)
・掻掘のおけい – 三ツ矢歌子 ・砂井の鶴吉 – 沖田浩之 ・玉屋 – 佐竹明夫
・伊勢屋仁左衛門 – 北見唯一 ・和尚の半平 – 阿波地大輔
※テレビでの掻掘のおけいは、亡くした息子を忘れられない愛情深い面が見られるが、原作では砂井の鶴吉の弱みを握り、いいように弄ぶ非常な女として描かれている。そして彼女は、この番組の様に捕縛前に自害することもなく、市中引き廻しの上、極刑となった強情な女であった。
※捕えられた和尚の半兵一味の中で、砂井の鶴吉だけが処刑を免れた。その時、おけいは鶴吉を連れ逃げようとしたが、鶴吉はおけいから離れて自らお縄についた。
●第12話「埋蔵金千両」(1993年3月17日)(視聴率17.6%)
・おてい – 中島唱子 ・中村宗仙 – 大前均 ・辻桃庵 – 寺下貞信
・太田万右衛門 – 中丸忠雄
※原作でのおけいが、テレビではおていに変更となっている。ラスト付近で平蔵が久栄に卵酒を頼む台詞は原作にはない。また原作での中村宗仙は、この事件で平蔵に気に入られて引き続き『麻布ねずみ坂』にも登場する。
※中島唱子がおてい役を好演。最近では、橋田壽賀子脚本のTBSドラマ『渡る世間は鬼ばかり』の田島聖子役での活躍が記憶に新しい。
●第13話「老盗の夢」(1993年3月24日)(視聴率16.2%)
・蓑火の喜之助 – 丹波哲郎 ・前砂の捨蔵 – 中井啓輔 ・印代の庄助 – 伊藤高
・岩坂の茂太郎 – 木村栄
※このテレビ番組では、簑火の喜之助は粂八に助けられた形だが、原作ではむしろ逆の立場。また、喜之助の運命を狂わせたおちよは、原作ではおとよという名前で、豊満な体の大女という設定である。
※今回は蓑火の喜之助を丹波哲郎(2006年9月24日没)が演じている。彼は丹波哲郎版では長谷川平蔵役をやっていて、それが今度は大盗とは云え盗賊の役となり、一部には番組イメージの混乱が起きるとの指摘もあった。また蓑火の喜之助は他の編で島田正吾(2004年11月26日没)がやり、重厚な人柄を演じて高い評価を受けていた。しかし、全シリーズを通してこの様な配役の重複や入れ違いは他にもあり、また時間経過により止むを得ない交代(俳優の老齢化や死去など)もあった。
●第14話「ふたり五郎蔵」(スペシャル)(1993年3月31日)(視聴率14.4%)
・暮坪の新五郎 / 弥矢の伊佐蔵 – 菅貫太郎 ・伴助 ‐ 嵯峨周平
・長尻のお兼 ‐ 宮田圭子 ・戸祭りの九助 ‐ 高峰圭二 ・おみよ ‐ 野平ゆき
・髪結いの五郎蔵 – 岸部一徳
※平蔵が彦十に「お前は、この平蔵の宝物だよ」と言う名シーンだが、原作では密偵・お糸が突き止めた千寿院裏手の盗賊の隠れ家の傍らでの話だが、テレビでは、犬をおびき出した彦十の背中に向かって呟くという演出になっている。
※原作での長谷川辰蔵は、この回では充分一人前となって平蔵を助けている。またシリーズ末期に相継いで登場した平蔵の妹・お園、おまさの妹分・お糸と並んで、当初の遊び人から脱皮した辰蔵も、池波先生が存命ならば、この後はもっともっと活躍してくれたと思うと、誠に残念至極・・・。
※髪結いの五郎蔵役の岸部一徳が好演。その根性は甚だ弱虫であり自分より強者の前では泣き出すが、何故か庇ってやりたくなる男である。ところで、この人も今や大名(迷)優となり、いたるところで活躍している。だが最近の若者は、彼がGS(この言葉も死後)のバンド“ザ・タイガーズ”のメンバーで元ミュージシャンであったことなど知らない様だ。
●第15話「女密偵・女賊」(1993年4月14日)(視聴率12.6%)
・お糸 – 岡まゆみ ・押切の駒太郎 – 朝日完記 ・佐沼の久七 – 小林昭二
・鳥浜の岩吉 – 浜田晃 ・森七兵衛 – 遠藤征慈
※原作では、既に同心・小柳安五郎の妻となっていた平蔵の腹違いの妹・お園が“鎌鼬(かまいたち)”こと森七兵衛の居場所を告げる(森七兵衛は、かつてお園が営んでいた居酒屋の客という設定)が、この番組では取り調べを受けた鳥浜の岩吉が告げる形となっている。その他は概ね原作通りのストーリーである。
※原作の発表順では、『二人五郎蔵』より先になっていて、お糸は『二人五郎蔵』でも、おまさと組んで盗賊の探索にあたる。彼女などは原作シリーズが続けば、もっと活躍の機会も増えただろうが・・・。
●第16話「麻布一本松」(1993年4月21日)(視聴率14.3%)
・市口又十郎 – 村田雄浩 ・お弓 – 水島かおり ・田丸屋瀬兵衛 – 今福将雄
※原作では、平蔵と又十郎は『助太刀』の件で既に顔見知りの間柄。また忠吾には、既におたかという女房がいる。
※忠吾が狂言回しのコメディー編だが、彼が主役で登場すると、まずはほっこりとした話になる。またこの回で忠吾が名乗る偽名が木村平蔵。この名は平蔵も使う偽名(「用心棒」)なのだから笑える。平蔵の場合、他には長谷川忠吾というのもあるし(「寒月六間堀」)、「土蜘蛛の金五郎」では木村五郎蔵と名乗る。こうして互いの名前を捩るところから、この二人、よほど仲良しの主従なんだろうと感心してしまう。
※しかし、健闘久しい尾美としのりの“兎(うさぎ)”には悪いが、どうしても古今亭志ん朝が演じた木村忠吾(松本幸四郎版、丹波哲郎版)には負けるなぁ。誠に申し分けないがこれには同意見多しで、やはり志ん朝の科白回しの方が断然歯切れがよくて、見てて聞いてて気持ちが良いのだ。だが志ん朝には落語家として培った話術と、忠吾独特の不思議なキャラ(巻き込まれ型だが強運、適当なのに怪我の功名盛りだくさん、軽妙洒脱だが変なところで純情、美男じゃないのに妙な男の色気を持ち合わせている等々)を演じる技があったのだろうから、其処ら辺を差っ引くと尾美は随分と頑張っていると云えよう。
※何故か鬼平が恋の指南をする剣客浪人・市口又十郎に、これまた素朴で純な感じの村田雄浩がぴったりである。
●第17話「さざ浪伝兵衛」(原作:『にっぽん怪盗伝』)(1993年4月28日)(視聴率19.5%)
・さざ浪伝兵衛 – 又野誠治 ・砂堀の蟹蔵 – 織本順吉 ・政吉 – 高良隆志
・役者小僧市之助 – 趙方豪 ・おだい – 清水ひとみ
※この回の原作は『鬼平犯科帳』シリーズではなく、短編集『にっぽん怪盗伝』に収められた一編である。その為に、幾つかの設定を変更している。伝兵衛は茶問屋「尾張屋」のもと番頭であり、愛用の刀は彼が遊び仲間の別の番頭・伊之助を殺して手に入れたものだった。また役者小僧市之助は登場しない。おだいも名前は妾のひとりとして出てくるが、直接は関係していない。更に、伊之助が川に引きずり込まれそうになる亡霊も伊之助であり、その川も黄瀬川ではなく吉原宿と蒲原宿の間を流れる富士川である。浪伝兵衛はその富士川で蒲原宿の人足・平吉に捕えられる。
※原作では、江戸から追いかけて来た火盗の役人は長官・山川安左衛門の命を受けた清水平内ほか5人の同心と8人の手先、となっている。
※砂堀の蟹蔵役の織本順吉の演技が光った。初めて殺した婆の亡霊にうなされ、その亡霊に向かって刀を振り回す老盗を好演している。
●第18話「おとし穴」(原作:『あばたの新助』)(1993年5月5日)(視聴率15.4%)
・佐々木新助 – 中村梅雀 ・お才 – 山本みどり ・文挾の友吉 – 小野武彦
・お米 – 丸山秀美 ・夜鴉の勘兵衛 – 岩尾正隆
※原作では、お才の亭主は夜鴉の勘兵衛ではなく網切の甚五郎である。また結末も、火盗改方の正規の出役は無く、同心・木村忠吾と密偵の伊三次・小房の粂八が佐々木新助の最後を看取る形となる。
※佐々木新助は、平蔵の仲人で火盗改方の筆頭与力・佐嶋忠介の姪であるお米と結婚して3歳になる娘・お芳もいる同心で、御先手・長谷川組に代々属する家系。
※中村梅雀のハマリ役。真面目だが初心(うぶ)で世間知らずだった役人が賊の罠に引っ掛かり、悩みながらも開き直る。しかし平蔵に見抜かれていると思い込み逃げ出し、やがて腹を据えたがその時は既に遅かった。刻々と移り変わる新助の感情の変化を巧みに演じて見事だった。
※最近では善いお父さん役が多い小野武彦だが、文挾の友吉の様な狡賢い悪党を演じるのも巧い。第3シリーズ第12話「隠居金七百両」の奈良山の与市などもその好例。ちなみに文挟の友吉は逃げ延びて、『兇賊』(第1シリーズ第9話「兇賊」)で再び登場する。
※お才を演じた山本みどりの演技も、どこまで新助に肩入れしているかを微妙に演じ、またその独特の色気も好評であった。
●第19話「おしゃべり源八」(1993年5月12日)(視聴率16.9%)
・久保田源八 – 佐藤B作 ・日妻の文造 – 椎谷建治 ・仁助 – 花上晃
・およし – 永光基乃
※最初に源八を発見するのが木村忠吾の叔父・中山茂兵衛である点を除き、このテレビ版はほぼ原作通りとなっている。
※久保田源八については、お役目の上で記憶喪失になってしまったにも関わらず妻・およしに離縁されてしまうのは不幸だが、復職してからは新たに妻・おきのも娶り、記憶喪失以前の無口で陰気な性格が忠吾から「おしゃべり源八」のあだ名を付けられるほどに饒舌で明るい人間に生まれ変わったのは、これ幸いかも。
※番組の最後の方になって喋り出した佐藤B作だが、それでようやく本来のこの人らしくなった(笑)。但し、原作の源八は、背丈ががっしりと高く腕力も強かったとされ、B作氏のイメージとはちょっと違うが・・・。
※ちなみにこの原作では、忠吾の菩提寺が目黒村の(「感得寺」ではなく)「威得寺」となっている。
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