以下に『鬼平犯科帳』(中村吉右衛門版) テレビ番組シリーズ 第6シリーズ キャスティング・リストを掲載するが、現状は《暫定版》であり、都度、加筆・修正の予定である。また各話のあらすじやその他の諸データは番組公式HPで確認願いたい。
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★ 各欄コメントには、物語の結末や、所謂(いわゆる)ネタバレ的な内容が含まれているので、視聴前や未読の場合は要注意。
第6シリーズ(1995年7月19日 – 1995年11月1日、フジテレビ系 水曜20時台時代劇枠)
●第1話「蛇苺の女」(スペシャル)(原作:『蛇苺』)(1995年7月19日)(視聴率12.6%)
・沼目の太四郎 – 中尾彬 ・張替屋(針ヶ谷)の宗助 – ベンガル ・おさわ – 余貴美子
・おきさ – 藤吉久美子 ・彦次郎 – 潮哲也
※原作でおきさを陵辱したのは、葵小僧(第7シリーズ第3話「妖盗葵小僧」)である。またテレビ番組と原作との相違点としては、テレビで平蔵におきさの様子を見に行く様に促すのは久栄であるが、原作では平蔵自身が思いついて赴く。更に、おさわが女中として入り込むのは「玉屋」だが原作では料理屋「川半」であり、自分を襲った田島を逆に仲間に誘い込む沼目の太四郎の行動は原作にはなく、この田島仙五郎という浪人は無関係な辻斬りであった。尚、ラストで捕縛されたおさわだが、原作では伝馬町の牢内で狂死している。
※原作では、相模の彦十とコンビを組んで張り込みに活躍するのは密偵の仁三郎であるが、珍しく尾行を何度としくじる。
※原作によると、張替屋(張り替え屋)とは紙や道具を持ち歩いて諸方を廻り、提灯や障子、傘の張替えを行う商売で、中には看板の字を書く者もいると記されている。
※原作でも、平蔵が「五鉄」で朝寝坊をしている相模の彦十を叩き起こす場面はあるが、テレビでは「おい、いつまで寝てんだ。起きてツラ洗え。猫でもツラ洗うぞ」と怒鳴る平蔵を見て、(江戸屋猫八演ずる)彦十が目を丸くして、キョトンするところがカワイイ。
●第2話「お峰・辰の市」(原作:『泣き男』)(1995年7月26日)(視聴率12.1%)
・辰の市 – 市川左團次 ・お峰 – 田島令子 ・青木源兵衛 – 堀田真三
※原作では、木村忠吾ではなく勘定方へ戻されて塞込(ふさぎこ)んでいた細川峯太郎が事件の発端を手繰り寄せる(というよりは巻き込まれるといった方が正しいか)。また辰の市が助けを求めたのは相模の彦十ではなく、(火盗の密偵とは知らない)小房の粂八であった。更に辰の市 の妻・お峰とおまさも特に繋がりは無く、過去に知り合いであったこともない。それどころか、おまさはこの事件には登場しない。辰の市とお峰の夫婦はその後、赦されて密偵となる。そして(忠吾ではなく)峯太郎は坪井道場で剣術の稽古を始め、平蔵の長男・辰蔵に扱かれることとなるが、探索方への復帰がかなった。
おまさと彦十が盗賊発見を祈願する芝・三田寺町の魚籃観音堂の場面はない。
※原作で平蔵が辰の市に名乗る偽名は、細川峰右衛門。いつもの通り、当該の事件に関連したお調子者の名前を捩っている・・・。
●第3話「泥亀」(1995年8月2日)(視聴率13.7%)
・泥亀の七蔵 – 名古屋章 ・関沢の乙吉 – 森次晃嗣
※原作では、関沢の乙吉と出会うのは相模の彦十ではなく伊左次。テレビ番組の方では、感動的なシーンとして、七蔵と乙吉が火盗の牢内で再会する場面があるが、原作では二人が会うことはない。
※伊左次が関沢の乙吉と出会ったのは、舟形の宗平の薬を受け取る為に芝・新銭座の表御番医師・井上立泉の屋敷に行った帰り道で、これは鯉肝のお里の見張りで大滝の五郎蔵とおまさが忙しかったからであるが、この辺のちょっとした背景は“鬼平”シリーズのファンには堪らない流れだ。ちなみに彼はこの後、泥亀の七蔵に50両の金を渡す時、朝熊の伊左次と名乗っている。
※泥亀の七蔵役の名古屋章(2003年6月24日没)が、ひどい痔病で歩くのもひと苦労だが、その体で三河・御油まで亡きお頭の女房と娘の為に旅をする、コミカルでユーモラスな元盗人を演じていて好ましい。
※座業(執筆業)の池波先生も、ひどい痔疾に悩まされたそうである。もしかすると、泥亀の七蔵はご本人の体験から生まれたキャラクターかも知れない・・・。
●第4話「浮世の顔」(1995年8月9日)(視聴率13.6%)
・巣鴨の伊三郎 – 高原駿雄 ・神取の為右衛門 – 五味龍太郎
※原作では、相模の彦十ではなく密偵・大滝の五郎蔵と巣鴨の御用聞き・伊三郎の活躍で凶賊・神取の為右衛門一味を召し捕ることが出来た。つまり彦十執念の探索行はなく木村忠吾も特に出番はないが、逆に平蔵の剣友・岸井左馬之助が登場する。また、物語の当初においても口合人・鷹田の平十は既に故人となっており、彼の女房・おりき(小房の粂八が亭主を務める船宿「鶴や」に預けられている)の証言から事件解決の道が開ける。
※番組最後の方で、平蔵が娘を襲う不埒者を懲らしめるエピソードは、その場所についてはテレビの中では何処とも語られていないが、原作では御家人・八木勘左衛門(“鴉の勘左”)見舞った帰り道、中村宗仙の『麻布ねずみ坂』事件でも所縁の麻布鼠坂の近辺での出来事である。
※この回のテレビ番組では、役宅で“猫どの”こと村松忠之進が朝餉&バカ貝について強弁を振る場面があるが、当然ながら原作にはそんなところはない。筆者は何故か、頑なにこの“猫どの”が嫌いだ。彼のファンがいることも知っているが、いつもその薀蓄が鼻につく。原作の様に、さらりと美味そうなものを紹介して欲しいのだが・・・。
※「五鉄」で働く下女役の江戸家まねき猫(江戸家猫八の娘)だが、今回は多少台詞が多かった。しかし相変わらず棒読みで感情が入っていない。親爺さんの御蔭で登場しているのは分かり切っているが、こうした配役はどうも気に入らない。また誰とは言わないが、中村一門もバーターはいけない。
●第5話「墨斗の孫八」(1995年8月16日)(視聴率11.0%)
・墨斗の孫八 – 内藤武敏 ・助川 – 宮口二郎 ・法月 – 崎津隆介
・おきよ – 上野めぐみ
※原作には伊左次は登場しない。おきよも登場せず、平蔵が孫八の息子のために金を渡す場面もない。平蔵が盗みに使う鋸に油を塗っておくエピソードもなく、孫八も押し込む前に卒中で倒れて息を引き取る。
※原作の途中で、平蔵が召し捕った後に孫八を赦して密偵として使うのではないか、と五郎蔵とおまさが語り合う場面があり、読者もそうなんだと思ってしまうが、結果はそうはならない。池波の描く物語に予定調和は通用しないのだった。
※原作での今回の平蔵の偽名は、木村忠右衛門。
※墨斗の孫八を演じた内藤武敏も幅広い役柄をこなす名脇役であったが、2012年8月21日に亡くなった。
※平蔵が孫八の使用する鋸について大工の棟梁・長五郎から聞き及んだ話では、鋸は会津の中島鍛冶が一番だと云う。蒲生氏郷が会津地方の推奨産業として刀剣等と共に多くの鋸鍛冶職人を育てて、その技術は越後から東北地方全般、更には江戸方面へと拡散した。この鋸は全て鋼で造られており、硬くて真っ直ぐでしかも弾力性があって丈夫だった。それを鍛えるには熟練の高度な技が必要で、非常に手間がかかる作業であったとされる。
※鬼平犯科帳スペシャル『一本眉』(2007年4月6日放送)にて、墨斗の孫八のキャラが清洲の甚五郎に流用されている。
●第6話「はさみ撃ち」(1995年8月23日)(視聴率14.7%)
・おもん – 松田美由紀 ・弥治郎 – 垂水悟郎 ・針ヶ谷の友蔵 – 内田直哉
・大亀の七之助 – 三上真一郎 ・猿皮の小兵衝 – 中村嘉葎雄
※テレビ番組では大亀の七之助が助っ人集めを頼むのは相模の彦十だが、原作では舟形の宗平である。そして平蔵以下、火盗の同心に大滝の五郎蔵が盗人に化けて一味に加わったが、テレビでは五郎蔵に代えて伊三次が参加する。また、平蔵の偽名も原作の浦山平太郎からより勇ましい虎蔵に変わっている。
※針ヶ谷の友蔵は、『谷中いろは茶屋』事件の際に墓火の秀五郎一味にいて運よく捕縛をまぬがれた2人の内の1人で、もう1人が相棒の大亀の七之助である。
※歯がほとんんど抜け落ちている小兵衛の食生活は、1日2回、卵の黄身をまぶした飯と酒1合の他、何も口にしないというもの。
※中村嘉葎雄演じる猿皮の小兵衝と垂水悟郎演じる弥治郎の関係は、第8シリーズ第3話「穴」(1998年4月29日放送)での平野屋源助(坂上二郎)と茂兵衛(木村元)や、第7シリーズ第10話「見張りの糸」(1997年6月11日放送)和泉屋東兵衛(奥村公延)と奉公人並びにスペシャル「見張りの糸」(2013年5月31日)の堂ヶ原の忠兵衛(中村嘉葎雄)と太助(本田博太郎)にそっくりである。要するに、盗人の家に盗賊が入るストーリーや引退した老盗賊の遊び心を描くのは、池波先生好みのシュチエーションだったのである・・・。
●第7話「のっそり医者」(1995年9月6日)(視聴率13.2%)
・およし – 高橋貴代子 ・土田万蔵 – 遠藤憲一 ・今井宗兵衛 – 樋浦勉
・荻原宗順 – 宍戸錠
※火盗改方と医師・荻原宗順を結びつける役回りは、「盗賊人相書」事件以降、役宅で預かっていた身寄りのない娘・およし(前回と同じ高橋貴代子)がつとめ、また彼女の身の上を案じる火盗の面々の心情が描かれる回。
※荻原宗順役は宍戸錠だが、テレビドラマでの宗順の名字は荻原だが原作では萩原であり、身長は六尺とあって大柄の宍戸錠にはよく似合う。また現在は人々に慕われる町医者だが、その心中は仇と狙われる逃亡者(早川民之助)の不安で苛まれていることを、宍戸は巧みに演じていた。
※宗順が医術を学んだ地とされる大和国の芝村だが、“剣客商売”では嶋岡礼蔵の故郷という設定だし、この付近は“鬼平”シリーズの『凶剣』(テレビでも同じ「兇剣」)でも登場する。はたして、池波先生所縁の地でもあろうか・・・。
●第8話「男の毒」(1995年9月13日)(視聴率14.9%)
・おきよ – 川上麻衣子 ・伊助 – 中井啓輔 ・直吉 – 坂本あきら
・簣の子の宗七 / 黒股の弥市 – 本田博太郎
※原作は『江戸の暗黒街』の一篇『男の毒』で、本来は平蔵たち火盗の面々は登場しない。原作での黒股の弥市は盗賊ではなく、香具師の元締の腕利きの子分だがおきよに殺害されてしまう。だがテレビ番組では、火盗の捕り方の前で労咳により喀血して死亡する盗賊となっている。伊助が煮売り屋なのは同じだが、おきよの祖父ではなく亡父の知人で阿呆烏まがいの様なことをしている。テレビでは“本所の銕”の古馴染みとされていて、昔の場面には幼い頃のおきよも登場する。また原作では、宗七はおきよと駆け落ちする黒股の弥市の弟の堅気の経師屋で、簀の子の宗七などという名前の盗賊ではない。だがこの番組では、 黒股の弥市とは兄弟でも何でもない(瓜二つの)他人の設定である。
※おきよ役の川上麻衣子が、男に翻弄されて狂わされた人生をおくる女を好演。
※おきよに毒を仕込んだ弥市と最後の男となった宗七を、本田博太郎が2役で演じている。獣の様な弥市の凶暴さと盗賊だが優しくて気のいい宗七とを見事に演じ分けている。また本田博太郎は、第1シリーズ第18話「浅草・御厩河岸」(1989年12月13日放送)では松吉役、第4シリーズ第10話「密偵」(1993年2月24日放送)では青坊主の弥市を、第7シリーズ第15話「見張りの見張り」(1997年7月16日放送)の長久保の佐助、第9シリーズ第1話「大川の隠居」(2001年4月17日放送)では津村の嘉平役、鬼平犯科帳スペシャル「兇賊」(2006年2月17日放送)では馬返しの与吉、鬼平犯科帳スペシャル「見張りの糸」(2013年5月31日放送)では太助と数多くの配役をこなしている、シリーズ常連のゲスト俳優である。
●第9話「迷路」(スペシャル)(1995年9月20日)(視聴率13.8%)
・玉村の弥吉 – 阿藤海 ・竹尾の半平 ‐ 中丸新将 ・法妙寺九十郎 ‐ 早川保
・秋本源蔵 ‐ 山内としお ・安藤玄舟 ‐ 大林丈史 ・岸井左馬之助 ‐ 竜雷太
・京極備前守高久 ‐ 仲谷昇 ・池尻の辰五郎 – 有川正治 ・矢野口の甚七 – 井上昭文
・猫間の重兵衛 – 石橋蓮司
※原作・前半における同心・細川峯太郎の役割は、このテレビ番組では木村忠吾に代わっている。また原作とテレビ番組では居酒屋「豆甚」の扱い方も多少異なっている様だ。尚、原作は長編の為、テレビ版でも出演者が多い。
※原作では、「豆甚」の甚七とお松の人相書を描く絵師が、飯田町の絵師・菊池夏信になっている。この人相書を観たおまさの口から矢野口の甚七の身元が割れ、平蔵も昔の甚七のことを想い出す。テレビでは人相書きを見た密偵・相模の彦十が、それが盗賊・矢野口の甚七であることに気づく形に変更されている。
※物語の中盤で、平蔵の息子・長谷川辰蔵も闇討ちに合うが、この頃になるとなかなかどうして腕を上げている彼は、逆に浅手を負わせ暗殺者を退け、しかも峰打ちにして捕えようとするが逃げられてしまう。
※玉村の弥吉・・・法妙寺九十郎が、密偵になっているとは知らずに玉村の弥吉(阿藤海)に接触を図ってきたことが、事件解決の糸口となるのだが、原作のラストで、火盗の長官に復帰して役宅に戻った平蔵が珍しく、「もしも、この玉村の弥吉を密偵にしておかなかったら、どうなっていたろう・・・中略・・・あの異常事態の中にあって、玉村の弥吉は落ち着きはらい、あわてず騒がず、しかも、いささかの手ぬかりもなくはたらいた」と思う場面がある。また重要な報告の為に、深夜、役宅の平蔵の寝所の脇まで誰にも見咎められずに進入するくらいの凄腕な弥吉だが、テレビ番組での、ぼーっとした阿藤海の仕草ではどう見てもミスマッチなのだった。『男の隠れ家』事件(テレビでは2001年5月1日放送の第9シリーズ第3話「男の隠れ家」)の後に密偵となった彼だが、さすがに只者ではなかったという訳であるが、原作の容貌(人並み以上の馬面、目・鼻・口の間隔が離れすぎている)のイメージだと阿藤海だが、やはりその仕事ぶりは「男の隠れ家」で弥吉を演じた地井武男(2012年6月29日没)の方がよく似合う。
※猫間の重兵衛・・・本名を木村源太郎といい、昔、御家人の父親であった惣助を平蔵に殺害され、自分も右腕を斬り落された。後に池尻の辰五郎の娘と結婚するが、義理の弟・2代目池尻の辰五郎が火盗に捕まり自害したことを恨み、平蔵への復讐心は否が応にも燃え上がった。こうして“鬼平”周辺の人々を次々に暗殺していったが・・・、最後には捕縛されて処刑された。
※岸井左馬之助宅で虚無僧に変装する平蔵、原作では虚無僧ではなく頭を丸めて托鉢僧に。
●第10話「おかね新五郎」(1995年10月18日)(視聴率14.0%)
・おかね – 南田洋子 ・原口新五郎 – 滝田裕介 ・弥助 – 山田吾一
・為吉 – 森下哲夫
※このテレビ番組ではおかねとおまさの交流が描かれるが、原作にはおまさは登場せず、平蔵と原口新五郎の間柄がより詳細に触れられている。またある意味、新五郎とおかねの子供の敵討ちを兼ねた純愛物語である。
※南田洋子(2009年10月21日没)の演じたおかねが好評であり、人生経験豊かな女の姿がよく描かれていた。また原口新五郎役の滝田裕介も、2015年5月3日に亡くなった。
※弥助を演じた山田吾一も、2012年10月13日に死去。彼は、初代の木村忠吾役の古今亭志ん朝とは大親友であったことが知られている。また萬屋錦之介版の第3シリーズ第3話「霧の朝」(1982年5月4日放送、テレビ朝日)では井関録之助、吉右衛門版・第1シリーズ第3話「蛇の眼」(1989年7月26日放送)では彦の市の役、第3シリーズ第17話「忠吾なみだ雨」(1992年4月29日放送)のつちや善四郎、などを演じている。
●第11話「五月闇」(1995年11月1日)(視聴率15.9%)
・強矢の伊佐蔵 – 速水亮 ・おとら – 正司照枝 ・市野の馬七 – 中嶋しゅう
・医師・飯島順道 – 牧冬吉 ・およね – 池波志乃
※テレビ番組も原作もストーリーはほぼ同じだ。テレビの終盤、「平蔵の手控えには密偵・伊三次の名も、その生死も記されていない。火付け盗賊改め方の密偵とはそういう仕事だった」といったナレーションが流れるが、当然、これはテレビドラマのみの演出である。また伊左次が刺された場所もテレビとは異なるが、原作での瀕死の伊左次は、襲撃現場近くの伊勢亀山の大名・石川日向守の屋敷に担ぎ込まれた後に数日持ち応えたが、やがて息を引き取った。
※原作の終盤で「みよしや」へ張り込むのは大滝の五郎蔵だが、テレビでは相模の彦十。伊左次が死に際に平蔵からもらった小判2両を、およねに渡してほしいと頼むのもテレビ番組独自の演出。伊佐蔵や伊佐蔵の女房・おうのとの因縁話を告白するのも、川日向守の屋敷へ見舞いに来た平蔵にである。そして伊三次が、もはや命もわずかで尽きるという場面で枕頭に寄り添うレギュラーの面々、死に際が描かれずに終わるのは原作と同様である。
※伊左次役の三浦浩一はインタビューに答えて、「『五月闇』をやるときは、鬼平シリーズの本当に最後のときにやらせてください」とプロデューサーに頼んでいたという。その為、この「五月闇」を撮り終えたところで吉右衛門版は終了だと勘違いしていたら、自分抜きで続いたので寂しい想いをしていた。暫くして伊左次復活の話があったが、一旦、死んだ伊左次が再び登場するのは変だと思い、涙をのんで出演を断ったと云う。すると番組の市川プロデューサーが「じゃあ、ナレーションで“これは伊左次が生きていた頃の話である”と一行足すが、それでどうでしょうか」と述べたので、待ってましたとばかりに引き受けたとの逸話が有名だ。
※三浦浩一は、テレビ“剣客商売”シリーズの藤田まこと版でも秋山小兵衛馴染みの四谷の御用聞き・弥七役を演じているが、筆者の周りにも伊左次と弥七の区別が付かなくなっている友人が多い(笑)。それほど池波ワールドにうまいこと染まっている役者さんである。
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