北海道新幹線乗車記(後編) 青森から先は日本土木技術の結晶 〈17/38TFU03〉

はやぶさ1号は、七戸十和田を発車後も、農村風景を走ります。

やがて日本最長の陸上トンネル、全長26,455メートル(26キロ)の「八甲田トンネル」に入ります。複数断面のトンネルでは世界一!意外と知られていないのが残念です。新田次郎の小説で、映画「八甲田山」でも描かれたような想像を超えた冬の厳しい寒さの中、八甲田山の裾野を切り開き、1999年建設開始、2005年2月に完成、2010年12月に開通しました。八甲田トンネルを出た後も、短いトンネルが続きます。

やがてもう一つの「日本一」に差し掛かります。新青森が近づくころ、背後に八甲田山の大きな姿を望みながら、車窓に「三内丸山遺跡」が現れます。ここの「三内丸山架道橋」は橋脚と橋脚の間隔が150メートルあり、新幹線の架道橋の中で日本一の長さを誇っています。柱が低く、ケーブル角度も水平に近い「エクストラドーズド橋」と呼ばれる橋で、都会などで見慣れた高架とは違う、やや低めで眺めの良い微妙な高さの橋で、風景のスケール感が違います。

乗換案内がはじまり、9時49分、列車は新青森駅に到着。新青森では大半の客が下車し、車内は空席が目立つようになりました。私の周囲も、殆ど人がいません。
乗務員が交代し、ここからJR北海道の乗務員になります。

9時51分、列車は青森を発車すると、右手に青森湾を遠望します。思っていたよりも見晴らしがよく、ぜひ、乗るときは進行方向右手をお勧めします。
青函トンネルは10時10分ころという車内放送。と、列車は速度を徐々に落とし始めました。そろそろ新中小国信号場です。ここから海を越えて木古内までの約82㎞が在来線の線路と新幹線の線路の3線軌道になるのです。しかも、片側の線路はそれぞれが使うという合理的な共用区間です。車窓を見ていると右手からすうっと在来線の軌道が近づいてきて、新幹線の車体の下に潜り込んだように見えました。これで3線になったのです。するとすぐに、短いトンネルに突入。10時07分、奥津軽今別。

地下鉄の駅のような。本州最後の新幹線駅

トンネルは真っ暗で、シェルターの駅みたいです。発車して少しして、右手に在来線の線路が見えました。軌道は新しい状態です。測量する人が立っていました。

その後はトンネルを断続的にくぐり、青函トンネルに入ります。案内放送も同タイミングで流れます。通路を見ると、勾配が下りになったのがよくわかります。筆者は「北斗星」で何度かこの区間を通りましたが、そういう感覚になったのは初めてでした。音はブルトレ時代に比べると、はるかに静かです。10時18分かつての竜飛海底駅通過。10時21分、いよいよ待望の(?)コンテナ列車とスレ違います。

青函トンネル内のデッキで。当然ながら窓の外は真っ暗です・・。

これがネックで、新幹線は在来線並みの140キロまでしかスピードを出せないのです。すれ違う列車の風圧で、貨物列車に荷崩れの危険があるからなのです。しかし、衝撃もありませんでした。新幹線側も速度も安定していて、遅さは感じません。すれ違い後、徐々に速度上げています。10時27分、かつての吉岡海底駅通過。ついに、車内の電光板に出ていたスクロールするニュースは、北海道新聞ニュースになりました。

10時36分、車窓がパアッと明るくなり、ついにトンネルを出ました。その瞬間、車内放送で「ようこそ、北海道へ」というアナウンスが流れました。新幹線で北海道上陸!私も感慨深くそのアナウンスを聞いていました。車窓右手に見えてきた遠くの奇怪な形の建物群は、太平洋セメントの上磯工場でした。広い大地、果てしない大空、牧歌的な風景の北海道は、このあたりではイメージできません。

先ほどの写真と極めてよく似ていますが、木古内駅にて。

10時45分、木古内到着。

デッキへ出てみましたが、降りる客はそこそこいました。木古内を発車したあたりは、防音壁が高く、外の風景は見えません。そしてトンネル。速度はグングン上げていきます。やっと本来の新幹線らしくなりました。10時48分、右手函館湾越しに函館山が見えてきたころ、終点を告げるアナウンスが流れました。

これも前編の八戸駅に似ていますが、終点です。終点の新函館北斗駅のホーム。

そしてついに10時57分に終点、新函館北斗駅に到着しました。
また北海道が近くなった、日本が狭くなった、そんな気持ちを胸にホームに降り立ちました。

 

この先、札幌までの区間は2030年度末に完成予定です。新函館北斗の先は、新八雲(仮称)、長万部、倶知安、新小樽(仮称)、札幌の各駅が予定されています。盛岡から先、トンネルの多い新幹線でしたが、この先の札幌までの区間もトンネルが多そうです。今回くぐった八甲田トンネルよりも長い32,675メートル(32キロ!)の日本一の陸上トンネルになる渡島トンネルをはじめ、全長10キロを超えるトンネルが6つもあるのです。車窓を楽しむには、「この区間ではこの風景が見える」と予習していったほうが、楽しめるかもしれません。いずれにしても、世紀の難工事や、最先端の土木後術を駆使して開通した北海道新幹線。これから先も人々の重要な足として頑張ってほしいものです。

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