このH-8クラスは、初期・中期・後期の3タイプに分かれるが、初期型は1941年12月10日から納入が始まった最初の10輌(Nos.1600~1609)と翌年納入の10輌(Nos.1610~1619)であり、外見上の特徴としてはサンドパイプの後ろ側5本を垂直に取り付けている点が挙げられる。またNos.1607~1609は、実験的にテンダー台車に一体鋳鋼のコモンウェルス型を採用していた。中期は、戦時輸送力増強の為に追加で発注された25輌(Nos.1920~1944)を指し、サンドパイプが前後で富士山の様に裾野に向かって広く散開しているのが特徴。更に火室の側面に片側5個の消煙器が設置されている。戦後になり最終グループの15輌が納入されたが、これが後期型(Nos.1645~1659)となる。重量の若干軽減に成功し消煙器が片側9個に増設され、サンドパイプは等間隔で垂直に取り付けてある。
こうしてこのH-8クラスは全タイプ合計で60輌となったが、その内の23輌が旅客輸送用の蒸気暖房装置を備えていたとされ、またその動輪径からも分かる通り決して速度性能も悪くはなかった。但し、実際の旅客輸送では存分にその性能を発揮する機会を得られなかったとされるが、大戦中の兵員輸送列車や急行郵便列車の牽引機として活躍したとも伝わる。
ちなみに、H-8クラス“アレゲニー”は凡そ20年にわたり運用されたが、そのあまりの重量の為に線路の負担が大きく、この機関車が走る路線の保線周期は極めて短かったとも云う。1952年になるとディーゼル機関車の多重連・統括運転にその役目を奪われる様になり、1956年には全車引退となった。
現在、1601号機(H-8クラスでは数少ない”For Progress”ヘラルドが描かれている)がヘンリー・フォード・ミュージアム(自動車だけではなく鉄道関連の車両の展示も多い)に、1604号機がB&O鉄道博物館(B&O鉄道は後にC&O鉄道ほかと合併してチェシー・システムを構成)にそれぞれ静態保存されているが、この機関車はデトロイト近郊の火力発電所群へのケンタッキー炭の輸送に大活躍したことで知られており、それ故に1601号機がフォード・ミュージアムに献納されたとの説もある。
またC&O鉄道の近隣で運行していた、ウェストバージニア州南部の石炭をハンプトン・ローズの港へ輸送する為に設立されたバージニアン鉄道(Virginian/VGN)も、1945年にC&O鉄道のH-8クラスと同形機を8輛購入、AGクラスとして“ブルーリッジ(Blue Ridge)”と名付けた。尚、この“ブルーリッジ”に関しては“アレゲニー”と全くの同形機である為、基本性能その他に差異はないとされる。
さて、前述の様になかなか実感としてつかめないその巨大さを理解頂く為に、ここで我国最大級の蒸気機関車C-62との大きさの比較をみてみよう。
H-8クラス“アレゲニー” | C-62 | |
動輪直径 | 1,701mm余 | 1,750mm |
全長(連結機間) | 38,303mm(約38m)余 | 21,475mm(約21.5m) |
最大幅 | 3,276mm余 | 2,910mm |
最大高 | 5,003mm余 | 3,980mm |
運転整備重量 | 514.83t余(600t 近いとの説あり) | 145.17t |
最大幅は軌道幅の違い(C&Oは標準軌1,435mm、国鉄は狭軌1,067mm)をストレートに反映したものだが、全体の規模はH-8クラス“アレゲニー”が二回りどころか三回り位は大きく、その実態はほぼ二倍の大きさ(C-62を一部分省いて2輌繋いだに等しい)といった感覚が正しいだろう。
筆者は、この機関車のリバロッシ(Rivarossi)ブランドのHO(1/87)サイズ模型を有しているのだが、たとえ模型でもその大きさは半端じゃなく、(長さは約44cmほどもあり)取り扱いにはいつも苦労させられるので、実際に走行を楽しむことはほとんど無い。だが他の巨人機ともども陳列棚に並べて鑑賞するだけでもその迫力は凄まじく、自慢のコレクションの一員となっている。
さて次回は“アレゲニー”と並ぶ米国のモンスターSLの雄、Union Pacific鉄道(UP)の“ビッグ・ボーイ(Big Boy)”を紹介しよう。“アレゲニー”がアメリカ東部を代表する所謂(いわゆる)東の横綱格とすれば、“ビッグ・ボーイ”は西の横綱として、SL全盛時代の米国鉄道界に君臨した巨人機であった!!
-終-
【参考-1】1604号機の姿が観られる動画 提供:nutty.archives
【参考-2】B&O鉄道博物館のPV 提供:B&O Railroad Museum
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