【鉄道模型を愉しむ】 機芸出版社の“レイアウト三部作” 〈3784JKI51〉

連載【鉄道模型を愉しむ】今回の記事は、やや唐突だが我国の鉄道模型業界を牽引してきた専門誌『鉄道模型趣味』(略称、TMS)の別冊書籍“レイアウト三部作”について触れてみたい。

4年ほど前の我がセカンドホーム(仕事スペース&趣味部屋および倉庫)の移転を機会に、長年にわたり(読んでも読まなくとも取り敢えずは購入しておこう、という安易な考えで)溜まりに溜まっていた鉄道模型関係の雑誌や書籍を大量に処分したが、この“レイアウト三部作”だけは捨てきれずに留めておいた。

その訳は、この3冊が鉄道模型に初めて出会った小学生から第1次のレイアウト建設に邁進した中学生にかけての時代を思い出させる懐かしいテイストの塊であり、未だ手作り感のある温もり溢れた当時の鉄道模型の世界を余すことなく紹介したコンテンツであったからである‥‥。

 

機芸出版社と山崎喜陽氏

“レイアウト三部作”の紹介に先駆けて、戦前・戦後の我国の鉄道模型界に多大な影響を与え、大きな貢献をされた山崎喜陽氏と機芸出版社に触れておこう。

機芸出版社は、山崎喜陽氏によって創業された鉄道模型の雑誌や書籍を専門とする出版社であり、現在でも、長年にわたり鉄道模型界を牽引してきた雑誌鉄道模型趣味(1946年に3回発行、1947年2月に正式創刊、1950年5月の20号以降は月刊誌で略称は“TMS”)を刊行している。

また山崎氏は、1921年7月25日生まれで長崎県佐世保市の出身、東京帝国大学理学部卒。既に第二次世界大戦以前より雑誌模型鉄道』や同じく科学と模型』など鉄道模型に関する記事の執筆活動を行い、戦後は我国の鉄道模型史全般に関わる重要な著述を行うと共に関連出版物を多数刊行、業界のオピニオンリーダーとして精力的に活動してきたが、惜しまれながら2003年11月11日に逝去された。

日本型の車輌を1/80の縮尺で作り、線路は欧米で先行していた1/87:HOゲージ用(16.5mm幅)のものを使用する方式を提唱し、これらの総称を“1/80:16番ゲージ”として定めたことでも有名である。また、当初は東京大学の鉄道模型クラブ“まくらぎ会の機関誌であった『まくらぎ』を、一般向けとして発売した雑誌が『鉄道模型趣味』の始まりとなったと云う。

尚、機芸出版社は1969年より2016年8月まで、英国の鉄道模型メーカーであるPECO(ピィコ、特に線路関連の製品が有名)の日本総代理店だったが、2016年9月以降はPLATZがPECOの日本総代理店となっている。

 

“レイアウト三部作”

機芸出版社が刊行した書籍の中に、“レイアウト三部作”と呼ばれる書籍が存在しており、これらは昭和42年1967年)発行の『レイアウト全書』を始めとして、昭和47年1972年)発行の『レイアウトモデリング』、そして昭和48年1973年)発行の『レイアウトテクニック』の3冊を指している。

編集手法は、月刊『鉄道模型趣味』バックナンバーの中からレイアウトやシナーリ、ストラクチャーなどに関連した記事を抜粋・再収録した体裁となっているが、この“レイアウト三部作”以前にも、機芸出版社からは同様の書籍(『レイアウトブック』・『レイアウトガイド』・『ホームレイアウト』・『レイアウトサロン』」など)が刊行されていた。

しかし、当時においてはこの“レイアウト三部作”が我国鉄道模型のレイアウト関連本としては集大成とも云える内容であり、ほぼベストに近い水準を有していたと思う。3冊を通読するだけで当時の我国のレイアウト史の概観を理解出来る良書であり、各々の製作記事なども初心者向けの基礎的なものから高度な応用編までを網羅した素晴らしいものであった。

勿論、今日的な視点からはその記事の内容、特に技術面・工作手法に関しては古く思われる点も多々あり、更にレイアウト製作に利用される素材・材料なども自然物や日々の生活から得た廃品などを工夫し活用していた。これも現在ならば、欧米製を筆頭によりリアルに製品化された材料等が各種販売されていて手軽に入手出来るだろう。

しかし、当時の手作り感ある温か味も捨てがたく、更には各趣味人の創意と工夫、個性や独特のセンスの発揮が、ある意味で模型作品の出来栄えにとって重要な評価ポイントではなかろうかと思うと、往時の状況が懐かしく感じられるのは筆者だけではないハズである。

尚、この“レイアウト三部作”は何れも現在では残念ながら絶版の様だが、模型や鉄道関係を扱う古書店やネットの中古品販売サイト等で探すことは可能であり、未読の鉄道模型ファンには是非とも購入することをお勧めする。

 

レイアウト全書

本書は、昭和30年代後半~40年代初頭の我国鉄道模型界における代表的なレイアウトの紹介や各種の工作記事を掲載したもので、そこに載せられた写真の雰囲気や各執筆者の文章のテイストと云ったものまでが、往時を彷彿とさせる内容満載の書籍である。

また登場するレイアウトの何れもが、Nゲージが普及する以前であることからHOゲージ(正しくは16番)を採用しており、狭小な我国の住宅事情においても、果敢にも定尺ベニア等を使用したコンパクトなプランの中に独自の個性を有した素晴らしいレイアウトを築き上げている。例外的に中には24畳ほどの大型レイアウトの記事もあるが、筆者もこの頃は全国的にHO小型レイアウトブームが盛り上がっていたと記憶している。

尚、この本の初版は、昭和42年(1967年)9月25日に発行、昭和47年(1972年)5月15日に再版が発行されている。また、凡そTMS160号前後から215号位までの記事が収録されている様だ。

目次によれば、「組立式レイアウトのすべて」・「TSC(東京スパイククラブ)のレイアウト建設リポート」・「銀河鉄道」・「龍安寺鉄道」・「猛毛内鉄道只野里線」・「津林高原鉄道」・「枚方電鉄」・「北山麓鉄道」・「或るレイアウトの一日」(『南六甲電軌』)・「トロリーラインのレイアウト」(ニ井林一晟氏の“瑞穂電気軌道”)・「庭園鉄道」(加塩千里氏の“大名鉄道花園線”)などの記事が掲載されていることが解る。

表紙を飾るレイアウトは“南六甲電軌”と名付けられた河村計房(かずふさ)氏が所有されるレイアウトだが、製作者(元の所有者)は彦坂正氏であった。

彦坂正氏から譲り受けた河村氏がトロリーラインのレイアウトに改修し、“南六甲電軌”と名付けられたことが『鉄道模型趣味』誌1961年9月号(通巻159号)で報告されているが、その後、所有者が度々変わり、一時期はかなり損傷の度合いが進んでいた様だが、やがてレストアされて2007年以降は国際鉄道模型コンベンションにも展示されていた。

小型レイアウトでありながら、地形処理がほとんど不自然とならない様に設計された点が極めて秀逸であり、シナーリやストラクチャーなどの製作センスの良さ共々、レイアウト用スペースの確保に悩む多くの趣味人にとって、大いに参考となるものであった。しかしこのレイアウトも、2012年には経年変化により解体されたと聞く。

 

レイアウトモデリング

本書は『レイアウト全書』に続いて発行された三部作の2番目で、前書に比べて内容的に新しく感じられるが、一部の例外を除けばTMS180号~250号あたりの記事が収録の範囲である。

尚、この本の初版は昭和47年(1972年)1月20日に発行、昭和47年(1972年)6月20日に再版が発行されている。

表紙を飾るのはNゲージの“第2次銀河鉄道”だが、初代の16番のレイアウトが『レイアウト全書』に掲載されていた。このレイアウトは、当時の筆者にNゲージ採用を強く検討させる切っ掛けとなった記憶に残る作品。また裏表紙には坂本衛氏の“摂津鉄道”の「小川のある風景」の写真が使用されていた。

筆者が思うに同書の中でも重要な連作記事は、「私はこうしてレイアウトにふみきった(TMS誌191号)」から始まって「小川のある風景(TMS誌237号)」までに至る、当時、現役の国鉄マンであった坂本衛氏の一連の“摂津鉄道”の記事であろう。

シンプルなプランの中に日本の季節(晩秋)の情景を情緒豊かに表現した“摂津鉄道”から受けたインパクトが非常に大きかった事を、当時、中学生だった筆者は良く覚えている。その実感的な純日本風レイアウトの姿は素晴らしく、初代セクションの製作からは大きな影響を受けたものだ。

レイアウト製作の前提条件として、時代設定や地域性、更に季節(四季)の風情を加えたことは、それ以前の我国のレイアウトには見られなかったことであり、それ故に製作者の実物観察の精度の高さと相俟って、圧倒的なリアリティが生み出されたと評された。

尚、坂本氏は後に、『昭和の車掌奮戦記 列車の中の昭和ニッポン史』(交通新聞社新書)を執筆されており、ユーモアに溢れた昭和の国鉄マンの体験談が楽しい本であった。

本書の掲載記事の内容は、「摂津鉄道」・祖師谷軽便」(橋本真氏のナローゲージのレイアウト)・「トランジスタコントローラー」・「SCRで制御する」・「線路班詰所」・「転轍手詰所」・「貨物駅を作る」・「私鉄風の電車駅」・「雲竜寺鉄道」(この荒崎良徳氏の“雲竜寺鉄道”は、後年の“祖山線”ではなくて初代である)・有度山麓鉄道」・エコーヒルライン」・「新水源急行鉄道」・武庫鉄道」・第二次銀河鉄道」・新八里九里観光鉄道」・「組立式鉄道」・「クラブの組立式レイアウト」・「金城鉄道」・「馬耳山鉄道」・LittleVallay鉄道」・「シーナリィのテクニック」・「線路に砂利をまく」・「レイアウトの配線相談」などである。

ちなみに本書では、“新水源急行鉄道”や“新八里九里観光鉄道”など、既に『レイアウトサロン(特集シリーズ14)』に掲載されたことのあるレイアウトが新装となり、再度の登場となっている。

 

レイアウトテクニック

本書は『レイアウトモデリング』に続いて発行された三部作の3番目で、1973年(昭和48年)10月に発行された。内容としては『レイアウトモデリング』とほぼ同時期のものか、若干新しい記事が多い。

主として昭和40年代前半頃のレイアウト関連の記事を収めたものだが、ストラクチャー製作やアクセサリー工作に関する記事が豊富なのが特徴である。また、N(9mm)ゲージレイアウトについての長編製作記事は、当時のNゲージファンのバイブルとなった。

本書の内容は三部作の中でも比較的レベルが高く、模型センスに優れた記事が多く含まれている。最近のものを含めた機芸出版社発行のレイアウト関連本の中でも、恐らくは最高峰に位置するかも知れない。

また、その記事の大部分は、阿部敏幸氏、荒崎良徳氏、河田耕一氏、坂本衛氏などにより執筆されたものだが、鉄道模型歴の長い趣味人ならばお気付きの通りの、往時のまさしく精鋭・豪華な執筆陣である。

表紙写真の右上が“城新鉄道”の機関庫周辺で、下側の写真は中尾豊氏の「蒸気機関車のいる周辺」で取り上げられている名レイアウトセクションである。

高度なレイアウト製作テクニックの紹介記事としては、荒崎良徳氏の“雲竜寺鉄道祖山線”が載っており、これは『レイアウト全書』に登場していた“雲竜寺鉄道”の改良版レイアウトである。大変調和のとれた山岳風景と共に併せて細密なストラクチャーによる駅前の街並みを再現した美しいレイアウトであった。

また同記事と双璧とも云えるものが、鉄道模型専門店エコーモデルのオーナーである阿部敏幸氏の製作した有名な“城新鉄道”に関連したストラクチャー製作記事であり、同書には複数が掲載されている。そこに登場するストラクチャーやアクセサリィ類は全て自作であったが、その細やかさは当時の水準としては驚異的であり、阿部氏の車輌製作の技法も含めて高いウェザリングやレタリング技術もふんだんに披露されている。

他には「千曲鉄道」・「庭園組立式」(“雲助鉄道”)・「組立式ジョイナー」・「9ミリレイアウト」(山崎喜陽氏製作記事のレイアウト)・「キャブコントロールとは」・「木造家屋」・「機関庫を作る」・「機関庫セクション」などが掲載されている。

-終-

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