不漁の原因
ところで、鰻(ニホンウナギ)の稚魚であるシラスウナギの減少要因としては、海洋環境の変動、並びに成魚やシラスウナギの過剰な漁獲、そして生息環境の悪化などが指摘されていて、それらが複合的に関係した結果と推測されています。
鰻の生態は、日本から遠く離れた太平洋のマリアナ海域で産卵するであろうというところまでは分かっており、そこから海流に流されながら卵は孵化して透明な仔魚(しぎょ)となります。この仔魚は太平洋を回遊して、更に稚魚(ちぎょ)へと変態しながら東アジア近海へと向かい、やがて台湾・中国・韓国・日本の沿岸に流れ着きます。この為、海流の状態にも大きな影響を受け、また河口までたどり着いてから河川を上ろうとしても、途中に河口堰やダムがあれば上れません。こうした環境の変化や他の様々な要因が、鰻やシラスウナギの減少に関して相互に関連・影響しているのだろうと考えられているのです。
またシラスウナギは透明で体長が5~6cm余り、日本では鹿児島県や宮崎県、高知県・静岡県などにある河川を遡上しますが、このシラスウナギがやがて腹が黄白色の“黄ウナギ”となります。その後、川や湖で5~10年成長すると体全体が黒ずんで、腹部が銀色をした“銀ウナギ”に変わり、これが通常、食用となる鰻です。更に、成長した鰻は川を下って海へと出て太平洋を回遊、再びマリアナ海域の産卵場所へ向かうと考えられていますが、この部分の詳細な過程については未だに判明していません。
そして現状は減少の要因自体が明確ではなく、総資源量も不明です。この資源量が分かれば、適正な漁獲(利用)可能量も判明しますが、未だ不明点が多いのが鰻(ニホンウナギ)の生態なのです。また鰻の養殖は、非常に貴重な天然資源である稚魚のシラスウナギを利用しているので、大切に扱わないと簡単に資源が枯渇してしまいます。つまりシラスウナギの漁獲量が減って市場に充分な量を供給出来ないと、結果として養殖鰻の出荷量も減りその価格も高くなってしまうのです。
※養殖用にシラスウナギを捕獲して、養殖池で体長40cm位になるまで半年から1年ほどの期間育てて出荷しています。養殖ではない天然の鰻は日本人の食用のわずか1%~3%(年によって変動)で、即ち残り99%~97%は養殖したものですが、天然の稚魚であるシラスウナギを養殖して成魚まで育てるので、正しくは半分天然で半分養殖の形となります。
※天然の鰻の旬は毎年5月から11月頃(春から初夏にかけての鰻は淡白な味わいが特徴で、また夏場の天然鰻は“さじうなぎ”と呼ばれます。更に、特に好まれるのは秋に獲れる“下りウナギ”と称される産卵の為に川を下り海に向かう途上の鰻で、脂がのっている逸品)であり、少々、泥臭さが感じられる風味となっています。一方で、養殖の鰻は特に旬の時期が無く、その味には天然ものの様な泥臭さはない代わりに生育環境によって品質に違いが現れると云われています。
難しい完全養殖
我国における鰻の供給量は、昭和31年(1956年)当時が9千t(輸入は0t)、平成2年(1990年)が11万t(輸入が7~8万t)、ピークの平成12年(2000年)には15万t(内輸入が13万t)以上でしたが、平成27年(2015年)は5万t(輸入は3万t)と減少しており、既述の通りこの傾向は続くとみられています。
※鰻の国内供給量は輸入の増大によって拡大しました。平成12年には約16万t近くが供給されましたが、その後は減少に転じ、近年では約5万t程度となっていました。これは昭和60年頃から中国において日本への輸出を目的としたヨーロッパウナギの養殖が盛んとなり、十数年間にわたり大量の鰻が日本国内へと入りましたが、その後、中国産の食品や食材の衛生状態に対する不安や不信感による輸入抑制が起こり、更にヨーロッパウナギの資源の減少に伴い急激にその養殖が衰退したことで供給量に急ブレーキがかかったとされています。
※国産か外国産かという基準は JAS法によって定義されており、養殖された期間がどの国が一番長いかで判定されます。例えば、海外で100日間育てられた鰻でも、その後に日本へ移されて101日以上育ててから出荷すれば“国産”と表示されます。
また、かつての年間漁獲量が200tを超える年もあったシラスウナギですが、1960年代以降より減少化傾向にあり、平成18年(2006年)〜平成24年(2012年)においては国内で9〜27.5tくらい(輸入を含め16t~30t程度)で推移していましたが、平成25年(2013年)には国内5.2t(輸入7.4tで合計12.6t)までに落ち込み、平成26年(2014年)は国内が17.4tで輸入が9.7tの合計27.1tと一旦持ち直しましたが、昨年の平成29年(2017年)は15.5tで輸入分を含めても合計19.6tしか確保出来ませんでした(水産庁調べ)。
そこで今後、鰻の供給を増加・安定させる為にはシラスウナギの量的な確保を重点とする養殖方法の改善が考えられます。勿論、シラスウナギの減少の原因究明に関する研究も重要ではありますが、いま一つの対策としては完全養殖の技法を完成させることが挙げられるのです。
この完全養殖とは、その名の通り卵から稚魚、そして成魚になるまでを育てる事で、雄(オス)と雌(メス)から精子と卵を採取して人工授精を行い、この受精卵を人工的に孵化、仔魚から稚魚のシラスウナギを経て成魚の鰻に育成します。その後、再び受精卵を得て人工的に孵化させると云う全循環を完成させて、養殖に関係する全てのサイクルを人口飼育で完結する必要があります。
2010年4月に独立行政法人の水産総合研究センターが、世界初の完全養殖に成功したとニュースになっていましたが、2018年現在でも大量の養殖に至ったとの成果は報告されていません。
完全養殖が実現すれば、不安定な天然資源に頼ることなく養殖鰻を安定的で安価に供給できる可能性があるのですが、例えば鰻は卵から稚魚に育つまで半年から1年半もかかり、仔魚は水槽内に発生する細菌に弱く水槽内の水を毎日交換しなければならない程にデリケートだそうです。つまり鰻の仔魚の生育については世界中でも全く前例がなく未知の体験であり、他の魚介類における養殖技法の応用も難しいとされ、多くの困難が待ち受けているとのことで完全養殖についての研究は結果が得られるまでまだまだ時間がかかる様です。
天然鰻が親になるまでに平均で8年位かかるとされていますが、平成27年(2015年)から養殖の許可制や養殖量の管理(農林水産大臣の許可を要する指定養殖業に指定)が始まって今年(2018年)でまだ3年なので、未だにその成果は明確ではありません。現状では上記の様に完全養殖による量産の方法も確立されておらず、天然シラスウナギを捕獲して養殖に回して成魚まで育てる方法しかないのです。
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