皆さん、デマンド交通をご存知ですか? 〈1647JKI10〉

デマンド1nws8168 (2)震災後の陸前高田市で、お年寄りの通院やマイカーを持たない人の買い物などの日常生活を支援する、新たな交通手段「デマンド交通」(予約型乗り合いタクシー)の実証実験が行われていました。

その後の本格導入について、たまたまTV番組で見かけましたので、皆さんに、ご紹介したいと思います。

デマンド交通とは・・・

デマンド交通(Demand Responsive Transport: DRT)とは、利用者の要求・要請(デマンド)に応じて運行する形態のバス交通の手段です。様々な形態がありますが、一般の路線バスと比べて、停留所の設置や運行時間・経路などの面で非常に柔軟性があることが特徴です。

原則として利用者は、事前に電話やネットなどで予約を入れてから利用します。乗車地点や行先は当該デマンド交通のエリア内の設定地点(自宅前・停留所・拠点施設など)なら自由に希望が可能です。但し、目的地までの所要時間が利用の都度異なり、利用者側からは当日乗車してみるまで目的地への到着時間が分からないという欠点があります。普通のタクシーのように指定した希望時間の乗車が必ずしも可能ではなく、他人との乗り合いとなるため、直ちに自分の目的地までは行けない場合もあります。

似たような予約内容の利用者があれば乗り合いとして一緒に運ぶことになります。利用者が全くいなければ走行を取り止める場合もあり、利用者のいない停留所をパスすることで運行の効率化にも結びつきます。また、利用者が少なければ小型車で済むことから、経費削減にもなり、大型バスが走行できない狭小な道路でも小型車で運行ができます。しかし予約受付のシステム構築やオペレーターの人件費が掛かるため、一般の路線バスに比べて運行経費が高くなる場合もあります。

デマンド交通は、需要が少なく分散している過疎地などをかかえる地方自治体などで注目されています。小型バスやワゴン車を使用することが多く、より需要が少ないときは乗り合いタクシーを導入する場合もあり、これらを総称してデマンド交通と呼びます。 

デマンド交通を導入する背景

地方においては、マイカーの運転ができない高齢者や中高生の足として、路線バスは必要不可欠ですが、主に過疎化などによる利用者の減少で採算が悪化し、行政からの赤字補填があっても経営が成り立たず、撤退・路線を廃止するバス業者が後を絶ちません。当然ながら、通常のバス事業の撤退などによる交通空白地域の拡大が、大きな問題となってきました。

また、ますます進む高齢化社会に対応したきめ細かな交通手段の不足と、山間地などでの狭隘道路での運用・技術的な課題、つまり大型バスでの対応が困難な地域への交通手段の確保がますます必要となっています。

更に、災害などで公共交通機関の被害が大きく、住民の足・移動手段が崩壊した東北地方などでも、既存の交通網の代替手段が至急必要となっています。

このような地域では、利用者の利便性を高めると同時に、運用の開始が迅速に行え、運行コストの低減を図れるデマンド交通の導入が数多く検討されています。 

陸前高田市の導入

陸前高田市でデマンド交通がスタートしています。市内のタクシー会社3社の協力で、気仙地区と小友地区、広田地区を対象に、平日のみの1日6便の運行となっています。乗降は登録した自宅前と停留所・拠点施設で可能です。利用には事登前録が必要で、更に前日までに予約する形。実験期間が3月29日で終了し、その後、本サービスが始まりました。

実験期間の成果として、高齢者の外出支援には大きな成果があり、また、坂道が続くところなどの需要は多く高利用率だったそうです。課題としては、運行時間の設定をあげる声が多かったようです。

陸前高田市内ではバス路線網の再整備は進んでいますが、まだまだ幹線道路での運行が中心だそうです。停留所から遠く離れた地域に住み、マイカーを所持していない高齢者などの移動手段確保が課題となってきた中で、併せて幹線道路から離れた仮設住宅の現状や今後の正規住宅の高台移転など、東日本大震災後の生活環境の変化に適合した地域内交通体系確立を目指して、将来にわたって持続可能なデマンド交通の導入を決定したそうです。

利用料金は1回の乗車につき大人=300円、子ども・介護人=150円、未就学児・身がい者は無料。

問い合わせ・予約は予約センター(TEL 0120-007-742)まで。受付時間は平日8時30分~16時。  

課題と今後

デマンド交通も決して夢のような交通システムではありません。全国各所での導入を通して、その問題点・課題も明らかになってきました。結果として利用されないシステムが出来上がることが、最も大きな課題となっています。

デマンド交通が不成功に終わるのは、導入にあたり基本コンセプトが不明確で、地元のニーズや人口・年齢分布の調査不足などで利用者の実際の要望にそぐわない場合や、先行事例・近隣の事例の模倣の結果、本当にその地域に合ったシステムでないものを導入してしまう場合などです。

ニーズをしっかりと検証せずにいたずらに路線を拡大し過ぎると、利用しにくい長大路線となります。また原則として登録者以外の外来者には情報がなく乗車機会が与えられていないデマンド交通は、対象地域外の住民や観光者には利用出来ません。

この様に利用者の限られているデマンド交通が、本当に効率的なものとして構築されるためには、導入対象地域の状況に合致した計画を綿密に策定することが重要です。

そしていちばん大切なことは、持続できるデマンド交通の仕組みを作りあげることです。形骸化したものでは意味がなく、また10年後にも存続していなければ意味がありません。そのためには、コスト負担に関しても自治体・交通事業者・住民の役割を明確にしなければなりません。 採算性が全てではありませんが、それは無視出来ないものであり、赤字の大幅な増加はデマンド交通の存続を阻む最大の要因となります。

つまり重要なことは、安定した利用者を確保し収益を確実にあげることで、デマンド交通の仕組みを持続させること、となります。

 

デマンド交通には、検討しなければならない課題は多くありますが、現時点で考えられるベストな過疎地での交通手段として、継続して利用者を確保しながら存続していくことが望まれます。

-終-

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