『東のエデン Eden of The East 』は、2009年4月より6月までフジテレビの「ノイタミナ」枠で放映されたTVアニメです。
『攻殻機動隊 S.A.C.』の神山健治監督の作品で、リーマン・ショック後の閉塞感が溢れた当時の日本の国情と、格差の中で喘ぐ若者たちの心情がよく描かれています。
想い出のアニメの2回目は、『東のエデン』です。原作・監督は神山健治監督で、キャラクター原案は羽海野チカさんです。またアニメーションの制作はProduction I.Gで、「ノイタミナ」初のオリジナル・ストーリーです。
記憶喪失の青年と謎の携帯電話を巡るサスペンス・アクションとして始まり、コミカルな表現も交えながら、結末は壮大な現代日本の再構築を目指す形で大円団を迎えます。
TVアニメの放映当時は、その終わり方に疑問が呈されたりもしましたが、その放送終了後に、TVアニメの続編として劇場版映画の2部作が公開され、謎の解明と全体のバランスが取れた超大作となりました。
物語は、卒業旅行でワシントンD.C.を訪れた女子大学生の森美咲が、ホワイトハウスの前で滝沢朗という謎の青年と遭遇するところから始まります。その際、滝沢にはそれまでの記憶は一切なく、しかも一糸まとわない状態で、裸に持っていたのは拳銃と携帯電話だけでした。その後、逃避行を共にした二人は一緒に日本に帰国することになります。
実は美咲が旅行に出かける以前の、2010年11月22日の月曜日、日本各地に10発のミサイルが飛来しました。突然起きたこの『迂闊な月曜日』と呼ばれた事件は、奇跡的に1人の犠牲者も出なかったこともあり、人々は次第に当初の危機意識を失っていったのです。それから3ヶ月後の、美咲と滝沢の帰国の日の直前に11発目のミサイルが旅客機を撃墜したのでした。
日本に帰省後、滝沢は唯一所持していた不思議な携帯電話を手掛かりに自分の正体を探り始めますが・・・。
このアニメ、オープニングのデキが抜群なんです。OP曲のオアシス(Oasis)の“ Falling Down ”が超カッコいい上に、本編ストーリーにすんなりと入っていけます。
背景部分の描写は、非常に精密な(写真を写したような)写実スタイルですが、そこにいる人物の描き方はあくまでも凹凸や陰影も限られている「ベタな平面」表現で、顔などものっぺりとしていて表情の変化も乏しい。感情を表す為に、頬を赤らめるといった原始的な表現が取られているところもあります。
しかし、これが神山健治監督のスタイルであり、大きな特徴ともいえます。個人的には精密な背景描写との対比も含めて、好ましいと思う日本型アニメの表現手法です。
残念な点は、とにかくストーリーが壮大過ぎて、TVアニメ全11話では全体の尺が足りません。主人公の滝沢の出自を探る前半の流れはテンポ良いものですが、もう1~2話くらいは欲しいところ。また中間部の、他のセレソンとの絡みやサークル「東のエデン」のメンバーの活躍といったエピソードも、あと2~3話はあった方が良かったと思います。後半からラストに向けても2~3話追加して、物部たちと戦うフィナーレをもっと盛り上げる形に出来たら、完成度はより大きくなり、ストーリーの整合性も高まったでしょう。
つまるところ、多くの内容を短い中に詰め込み過ぎて、謎解きの解明部分が中途半端であり、また登場人物の性格が充分に表現出来ていません。結局、劇場版映画を2本も創ることでこの問題を補正したといえるでしょう。
また、携帯電話が重要なキーアイテムとして登場しますが、これもガラ系の機能・性能といった仕様の限界が気になるところ。制作の時期的に仕方がないことですが、スマートフォンならば随分違った使い方を見せることが出来たに違いありません。
更に、このアニメは3.11東日本大震災以前の作品です。もし以後の作品であれば、相当に内容は変わっていただろうと考えます。ひょっとすると主要なストーリー自体が異なっていたかも知れないくらいです。
「主人公たちが謎を解決するために奔走する」というのを各話の核として、また、視聴者の6~7割が女性であるとの『ノイタミナ』側の要望を受けて、敢えて『攻殻機動隊 S.A.C.』からミリタリー要素を取り除いたスタイルに神山監督は挑戦しました。
更に、PCは所持しているけれども通常はケータイからアクセスする率のほうが高いという若年の女性層を意識して、主に登場するアイテムは携帯電話としたそうです。
この作品は、第14回アニメーション神戸賞作品賞・テレビ部門、東京国際アニメフェア2010・第9回東京アニメアワード優秀賞テレビ部門受賞作品。平成21年度(2009年度)文化庁メディア芸術祭(第13回)審査委員会推薦作品アニメーション部門/長編(劇場公開・テレビアニメ・OVA)に選ばれました。
狙った世界観が壮大過ぎて、少々まとまりに欠けたかも知れませんが、放映当時の日本の持つ閉塞感が良く描かれています。建築物や乗り物、各種のIT機器などの描写はさすが神山健治というべきもので、バッチと決まっています。各登場人物の個性やその存在観も、続編の映画も含めて評価すると、ほぼ満足のいくものとなっており、お勧めのアニメ作品であることには間違いありません。今後も救世主たらんことを!!
-終-
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