もともと少女漫画なんです、この『坂道のアポロン』は。しかし少女漫画と云い切っては偏向な情報提供かも知れませんネ。でも女性向けの漫画が原作である、としても間違いじゃないでしょう。
そんな作品にオジサンの筆者が関心を持ったのは、大好きなジャズ音楽がモチーフとなって物語が進んでいく青春群像、というストーリーに興味を抱いたからでした・・・。
アニメ『坂道のアポロン』は、1966年の初夏に船乗りである父親の関係で、神奈川県の横須賀市から長崎県佐世保市(原作者の出身地)に転居してきた少年と、その友人たちの青春/恋愛模様と成長の物語です。
主人公の、佐世保東高校に転校してきた高校1年生の男子、西見薫(にしみ かおる)は、学業優等だが引っ込み思案で母親のいない少年です。幼い頃からクラシック・ピアノに親しんでおり、親戚の裕福な家に居候することになりました。
転校早々、同級生の迎律子(むかえ りつこ)や律子の幼馴染で喧嘩早くてバンカラな川渕千太郎(かわぶち せんたろう)との出会いからジャズ音楽の魅力にはまり、その後の薫の高校生活はドラマーの千太郎たちと共にジャズを演奏することを中心に廻り出していくのです。
更に、薫は律子に想いを寄せ、律子は千太郎に、その千太郎は上級生の深堀百合香(ふかほり ゆりか)に、また百合香が慕う先輩の大学生、桂木 淳一(かつらぎ じゅんいち)も登場して、それぞれの恋の行方も複雑に絡み合いながら進展していきます。
その後、様々なエピソードを経てやがて3年生になった彼らに、大きな悲劇と別れが待ち受けていました・・・。
原作者の小玉ユキ(こだま ゆき)さんは、生年不詳の9月26日生まれ。長崎県佐世保市出身の女流漫画家です。そして原作漫画の『坂道のアポロン』は、『月刊flowers』(小学館)に2007年から2012年まで連載されました。
この作品は2009年に、「このマンガがすごい!」のオンナ編で1位を獲得し、2012年には第57回小学館漫画賞一般向け部門を受賞しています。その後、テレビアニメ化され、2012年4月~6月にかけてフジテレビ/CX系アニメ番組「ノイタミナ」枠にて放送されました。
アニメの監督は渡辺信一郎さん、音楽プロデューサーは菅野よう子さんが担当しました。菅野さんはゲームやアニメ音楽を多数手掛け、多くのCM曲も作曲しています。
特にジャズ音楽が重要なテーマとなっているこの物語では、音楽を担当するプロデューサーの役割は重要となってきますが、当然ながら、大のジャズ・ファンを自任する筆者からすると不満点は多々あるのですが、これも最終的な評価としては及第点とするべきでしょう。そしてそれは何と言っても、漫画本では聞こえないリアルな音楽が、アニメの場合は各場面に合わせて聴けるという事が大きな理由となっています。
すなわち本作では、各話のエピソードに対応したモダン・ジャズの名曲の数々が、物語を進める上で重要なカギとなっているので、それをストーリーと連動して直接聞けるという点が素晴らしく、静止画の漫画(コミック)では味わえないメリットであり、その効果は絶大です。
また、それには主人公のピアノ演奏を担当した松永貴志さん(1986年1月27日生まれのジャズ作曲家、編曲家でピアニスト)の存在が大きいと思います。劇中での松永さんのピアノは、なかなかダイナミックであり切れのある演奏となっています。
更に声優陣(薫=木村良平、律子=南里侑香、千太郎=細谷佳正、その他)の雰囲気も皆、自然で良かったと思います。画面上の主人公たちの動きもスムースで躍動感がありました・・・。