このアニメ・シリーズの前半部分の、のんびりとした感じが好きでした。
軍隊や戦争を題材にしているのですが、決して殺伐としてはおらず、上級司令部からは忘れ去られた辺境の小部隊の、駐屯生活のごく日常の出来事を描いた雰囲気が好ましかったのです。
勿論、後半の展開には賛否両論あるとは思いますが・・・。
『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』は、2010年1月から3月までテレビ東京系で放映されたA-1 Pictures制作のテレビアニメ(全12話&番外編2話)です。また、テレビ東京とアニプレックスが展開するオリジナルアニメプロジェクト「アニメノチカラ」の第1弾作品でした。
神馬耶樹が作画した(一部、アニメ版と内容が異なる)漫画版が月刊コミック電撃大王にて2010年1月号から2011年8月号まで連載されていました。またPlayStation Portable用ゲームソフト『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト 乙女ノ五重奏(クインテット)』が2010年に発売されています。
この物語の舞台は、遥かなる未来の世界。大規模な(たぶん核)戦争の結果、地球は大いに荒廃し、海からは魚などの生き物もいなくなっています。また広範な砂漠化の進展などで、人類は破滅に向けて一歩一歩進んでいる模様です。
国々の多くは消滅し、かつての高度な科学文明が半ばお伽噺話となり、世界の様相や国家間の関係、人種や言語なども、現在とは異なる状況の様です。
また物語の中では、過去の遺物のディスプレイに漢字が現れるところや、主人公たちの伝統的な生活習慣などが明らかになるにつれて、欧州の文化や風土を感じさせる(主人公の国)ヘルベチアの国土が、過去は実は日本であったことが暗示されています。
しかし、こういったことも、ストーリーが進展するに従い徐々に明らかとなっていく筋立てとなっています。
主人公で15歳の空深彼方(そらみかなた 以下、カナタ)は、幼少のころ、廃墟で迷子になっていたところをトランペットを手にしていた女性兵士に救われたのが切っ掛けで、喇叭(ラッパ)手になろうと軍隊に入隊します。
その後、トロワ州セーズの町の対岸にある「時告げ砦」に駐屯しているヘルベチア共和国陸軍の第1121小隊に配属されます。
物語の序盤から中盤にかけては、カナタと第1121小隊の上官や仲間たち、セーズの町の人々との出会いや交流を軸に、他愛(たあい)のない日常生活を描いていきます。
さて第1121小隊のメンバーですが、小隊長が18歳のフィリシア・ハイデマン少尉(以下、フィリシア)で、小隊唯一の保有戦車「タケミカヅチ」のコマンダー。おっとりとしているが包容力があり、隊員にとっては良き姉、良き母のような存在ですが、悲惨な実戦体験もあります。
和宮梨旺(かずみやりお 以下、リオ)曹長は17歳、カナタを指導する先輩の喇叭(ラッパ)手で、職務は通信士。男勝りでぶっきらぼうな喋り方をしますが、本来は後輩想いの優しい性格です。また彼女は出生に大きな秘密を抱えており、このことがカナタとの因縁に関係しているようです。また物語の後半では、大きく立場を変えて再登場します。
15歳の寒凪乃絵留(かんなぎのえる 以下、ノエル)伍長は戦車「タケミカヅチ」の整備士兼操縦士。いつも徹夜で過去の文明の遺産である多脚戦車「タケミカヅチ」の修復に努めており、そのため睡眠不足ですぐに寝てしまいます。性格はいたって冷静で常に無口・無表情ですが、実は科学技術に関する天才的な技能の持ち主。
最年少が、14歳の墨埜谷暮羽(すみのやくれは 以下、クレハ)二等兵で、小隊の砲手(ガンナー)を担当。最初は新人のカナタにライバル心を燃やしていますが、やる事なす事、今一つ噛み合いません。気が強くて意地っ張りに(ツンデレの様子が可愛いく)見えますが、実は意外に繊細で臆病なところも有る様です。
そして最後が主人公のカナタ(階級は二等兵)で、トランペットに憧れ音楽が学べると勘違いをして軍隊に入隊した通信士見習いの新米兵士です。明るく常に前向きなタイプですが、時々、周囲の空気を読めないのが玉に瑕(キズ)。絶対音感を持っていますが、喇叭手の技量はまだまだです。
こうしてカナタを加えた第1121小隊に関して、カナタ、クレハ、そしてノエルの若手三人組がうける「遠足」という名のとんでもない「演習」の顛末や、次第に上達していくカナタの喇叭(ラッパ)の腕前、ガラス職人の手を借りてノエルが進めていく多脚戦車「タケミカヅチ」の修復の様子、そしてクレハが憧れの英雄? クラウス少佐とともに町の少年の救出に活躍するエピソードなどが順次語られていきます。
またそこには、小隊長のフィリシアを筆頭に、皆、それぞれ過去に何らかのトラウマを抱えながらそれを乗り越えようと生きている隊員たちの姿が、笑いと淚を交えながら丹念に描かれています。
しかし、ある重大な事情からリオが小隊を去った後、巡視の任務中であったカナタとクレハは、山中で行き倒れていた休戦中の敵国、正統ローマ帝国の女性兵士(アーイシャ軍曹)を保護します。その後、ヘルベチア軍の急進派の大佐がこの捕虜の引き渡しを要求してきますが、フィリシアはそれを拒否。
そして、ここから物語は急展開を見せていくのですが・・・。
尚、主人公の所属しているヘルベチア共和国陸軍の装備が、何故か旧ドイツ国防軍の軍服や兵装に酷似しているのが、ミリタリーファンの心をくすぐります。その由来や理由は不明であり、唐突感は否めませんが、所詮、アニメ作品ですから気にはなりせん。
隊員はモーゼル小銃などのドイツ軍の銃器を手に持ち、キューベルワーゲンやサイドカーに乗車して街中や街道を疾走(時にはのんびりと走行)していきます。また着用している軍服はもちろん、特に鉄兜が「シュタールヘルム(Stahlhelm)」というドイツ軍独特のデザインなのですが、主人公をはじめ、年少の隊員(少女)たちが被っているところがなかなかカワイイのです。制帽や略帽を着用している姿は描かれていませんが、どう見ても旧ドイツ軍の軍装が「萌え」感を引き出しています。
冒頭に述べた通り、後半の展開に飛躍があり過ぎる、という指摘もあるようです。
たしかに筆者も、第1121小隊の遭遇する些細な事件とちょっとした任務の数々を描いている前半から中頃にかけての、穏やかでのほほんとした日常を描いた部分が一番楽しく鑑賞出来ました。結末を、ムリして話を広げずに小さくまとめても良かったかも知れません。
しかし、最後の番外編で提示されたこの世界のより大きな背景のことや「夢」を探究することについての重要性が、物語を効果的にうまく締めくくっている様にも思えます。また制作サイドも、この番外編でストーリー全体のバランスの補正を試みたのではないでしょうか・・・。
絶対、ツインテールがチャームポイントのクレハ二等兵がカワイイと思いますが、如何でしょうか?
ノエル伍長もアニメではありがちなキャラですが、番外編で明かされる彼女の「夢」は意外ですヨ!!
-終-
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